第43話 訓練は一歩先へ
今日もよく晴れている。風も穏やかで暖かく、訓練をするには絶好の気候だ。
アメルは案山子相手に、キレが良くなった双剣での斬撃を繰り出している。
ゼブララプトルを一人で倒したことが、彼女の自信になっているようだ。その太刀筋には一片の迷いもない。
それを、レオンはいつものように訓練場の中央で見守っていた。
椅子に腰掛けて、訓練用の長剣を杖代わりに手で持った格好で。
──椅子に座っているのは、体力を温存するためだ。
街の外で倒れてから、体から抜けない倦怠感──それはレオンが何もしていなくても、ただ立っているだけで彼から体力を奪っていった。
その対策のために、教官としてこの格好はどうなのかと思いつつもそうしたのである。
「……アメルは順調に成長しているね」
レオンは隣に立っているナターシャに言った。
そうだね、とナターシャが相槌を打つ。
「もう、一人前の冒険者として扱ってもいいんじゃないかい? あの子くらいのレベルの新米冒険者はたくさんいるよ」
「そうかもしれないね。……でも、まだだ」
レオンは小さく首を振る。
「彼女には、まだ知識が足りない。魔物の習性や、薬の知識……一人で冒険者として生きていくためには、それらの知識も必要だ」
「……まあ、竜なんかを狩ろうとしたら、それらの知識は必須だろうね」
レオンの言葉に同意するナターシャ。
竜のように手強い魔物を狩ろうと考えているのなら、彼女が言うように戦いの腕前だけがあっても駄目だ。竜を倒すために竜の習性を知ることや、怪我をした時などに必要になる薬品や狩猟の手助けになる道具の知識も必要になってくる。
アメルが竜を狩れるほどの冒険者になろうと考えているかどうかは定かではないが。それらの知識は、あって困るものではない。
レオンは言った。
「今後は、少しずつ実戦を通してそういう知識を教えていこうと思ってるよ」
「ギルドの依頼で学ばせるってかい? そのやり方に反論する気はないけど、また出先で倒れたりするんじゃないよ」
腕を組んで神妙な顔をするナターシャ。
「あんたはもう、いつ倒れてもおかしくない爆弾持ちの体なんだから……あんたが出先で倒れたら、あの子を困らせることになるんだからね」
「……それは、肝に銘じるよ」
レオンは一人で特訓しているアメルを呼んだ。
双剣を振るうのをやめたアメルが、小走りでレオンの元へと駆けてくる。
「何? レオン」
「今日から、実戦を通した訓練をしていこうと思ってる。それで魔物の習性とか道具の知識なんかを学んでいってほしい」
「実戦? 魔物と戦うの?」
「必要に応じて、そうなることもあるよ」
小首を傾げるアメルに、レオンは頷いた。
「知識を得るには机の上で勉強するだけじゃ身にならない。自分で体を動かして、体で学ぶのが一番なんだ」
真面目な顔をして、アメルの目をじっと見つめる。
「危険は伴うけど……一人前の冒険者になるためには必要なことだ。音を上げずに、付いてきてほしい」
「うん」
アメルは力強く頷いた。
「私、頑張るよ」
「その意気だ」
レオンは笑った。
「それじゃあ、早速だけどこれから……」
「レオン。ちょっといいか」
建物の扉が開く。
そこから顔を出したラガンは、引き締まった面持ちでレオンを呼んだ。
「国軍の兵士長がいらしてる。お前に話があるそうだ」
「……僕にですか?」
レオンは僅かに眉を顰めた。
国軍の兵士が直々にやって来る──それはビブリードとの戦争絡みの話だろうと思ったのだ。
とりあえず、用件が何であれ話を聞かないわけにはいかない。
レオンは椅子から立ち上がった。
「分かりました。すぐ行きます」
アメルの方に振り返り、彼女に自分が戻ってくるまでランニングをしているよう指示を出す。
訓練場を走り始める彼女を見ていてやってくれとナターシャに頼み、レオンは建物の中へと入った。




