第38話 双剣術士の特訓-実戦訓練-
アメルが双剣術士の訓練を始めて、二十日目。
最初の頃と比較して、アメルの剣捌きは大分形になった。
体力も付き、訓練場を回るランニングも苦もなくこなせるようになった。
まだまだ一人前の冒険者には程遠いが、そろそろ実戦形式を取り入れた訓練に移行しても良いだろう、とレオンは考えていた。
彼はギルドカウンターに行き、訓練としてこなすのに良い仕事がないかどうかを吟味した。
そして、三日後のよく晴れた日。彼はアメルに、ひとつの課題を与えたのだった。
「ゼブララプトルの、駆除……?」
「街道沿いにはぐれの個体が出るらしくてね。馬車を襲うから駆除してほしいという依頼が出てるんだ」
ゼブララプトル。二足歩行の蜥蜴のような姿をした魔物である。
肉食で、性格は獰猛。大きさは巨大なもので二メートルを超える。鋭い牙と爪で獲物を引き裂き喰らう、恐竜のような生き物なのだ。
戦闘での立ち回りを勉強するために初心者の冒険者が相手としてよく選ぶ魔物でもある。まさに冒険者の登竜門と呼ぶに相応しい相手と言えるだろう。
「冒険者になったら、こういう魔物狩りの仕事も経験することになる。アメルには、魔物と出会った時の立ち回り方をこの仕事で勉強してもらうよ」
ちらり、とアメルはレオンの後ろにいるナターシャに視線を送った。
ナターシャはアメルの視線を受け止めると、力こぶを作った右腕をぽんぽんと叩く仕草をしてみせた。頑張れ、と言っているらしい。
アメルはほんのちょっぴり不安に思う気持ちを押し込めて、頷いた。
「うん。私、頑張る」
「いい返事だ。それじゃあ、早速出かけようか」
レオンは持っていた初心者用の双剣をアメルに手渡した。
アメルはおぼつかない手つきながらもそれらを身に着けて、街の外に出る身支度を整えた。
「ナターシャ、此処のことは宜しく頼んだよ」
「ああ。気を付けて行っといで」
レオンの先導で、アメルは街の外に向けて出発した。
街の門をくぐって外に出ると、そこには見渡す限りの平原が広がっていた。
木がちらほらと生え、遠くに向かって一本の道が伸びている。
見通しの良い景色は、動くものがいればすぐに見つけられそうな雰囲気だ。
本当に此処に人を襲うような魔物がいるのかな、とアメルは思った。
「見通しがいいから、ゼブララプトルがいたらすぐに分かると思う。でもその分、向こうからもこっちのことを見つけやすいってことだからね。急襲されないように気を付けるんだよ」
「急襲?」
「急に襲いかかってくるってことさ」
レオンは肩に掛けていた鞄から噴煙玉を取り出した。
「煙玉。使い方は分かってるね? 渡しておくから、上手く使うんだよ」
アメルに噴煙玉を渡して、彼女から一歩離れるレオン。
「僕はアドバイスはするけど、手は絶対に出さない。これは君に与えた課題だから、君が自分の力でやり遂げるんだ。分かったね?」
「……うん」
アメルは鞘から双剣を抜いた。
そのままレオンと共に街道に沿って歩いていく。
──ほどなくして。
遠くの道の上にぽつんと立っている生き物の影を見つけて、彼女は足を止めた。
……ひょっとして、あれが……
相手に接近を悟られないように、少しずつ、近付いていく。
近付いていくにつれ、相手の姿が明確に見えてくる。
灰色と白の縞々の体。長い尻尾。細く尖った頭に、ぎょろりとした爬虫類特有の目。前足は小さく、鋭くて長い爪が生えている。
ゼブララプトルだ。
ゼブララプトルは辺りをきょろきょろと見回しているが、視力はそれほど良くはないのか、アメルたちの存在には気付いていないようだった。
レオンは小声で言った。
「魔物に近付く時は、相手の死角に回るのが大事だ。相手の体の向きだけじゃなくて風向きにも注意するんだよ。中には匂いでこっちの存在を感知する魔物もいるからね」
「…………」
こくり、と喉を鳴らすアメル。
双剣をぐっと握り締めて、ゼブララプトルとの距離をどんどん狭めていく。
相手の位置まで、後十メートル。
ゼブララプトルは後ろを向いている。先手を仕掛けるには絶好の状況だ。
後八メートル。七メートル。
五メートルまで距離を詰めたところで、アメルは大きく息を吸った。
双剣を構えて、地面を大きく蹴る!
彼女はゼブララプトルめがけて、まっすぐに飛びかかっていった。




