第34話 もしもの話
エヴァたちが放棄していった戦車は、その後街の警備隊に呼ばれて駆けつけたアガヴェラ国軍の兵士たちの手によって運び出された。
戦車はほぼ無傷で動力も無事に残っていたため、研究と開発のために軍の研究機関に回されることになったのだ。
怪我をした警備隊の兵士たちは介抱され、壊された街の建物は冒険者ギルドからの要請で集められた冒険者たちの協力で片付けられた。
こうして、リンドルの街を襲った騒動は、一応解決という形に収まった。
しかし、レオンの杞憂は晴れなかった。
アメルが此処にいる限り、エヴァたちは再び此処に来るだろう。彼はそれを疑っていなかった。
アメルを守るために街を危険に晒すのは、果たして許されることなのか。
一生懸命に特訓を続けるアメルを見つめながら、彼は頭を悩ませるのだった。
自分に戦えるだけの力があるうちはまだ良い。しかし、いずれそれができなくなる時がやって来る。
もしも、自分の死に間際に彼らが来るようなことがあったら──
──────
「……ナターシャ」
レオンは隣に立っているナターシャを呼んだ。
「何だい?」
子供たちに目を向けたまま問うてくる彼女に、言う。
「……もしも、僕の死ぬ時が来て、その時にまだアメルが一人前の冒険者になっていなかったら」
一呼吸置いて、続ける。
「……その時は、僕の代わりに彼女を教えてやってほしい。彼女が一人前の冒険者になって旅立つところを、僕の代わりに見届けてほしいんだ」
「……レオン」
ふ、と短く息を吐いて、ナターシャは答えた。
「自分が死ぬ時の話なんてするもんじゃないよ。言葉は言霊になるって言うじゃないか。もし本当にそんなことになったら、あの子は悲しむよ。女の子を泣かせるなんて男がやっていいことじゃない」
「…………」
レオンは目を伏せた。
両者の間に短い沈黙が横たわる。
ナターシャは僅かに微笑んで、言葉の続きを口にした。
「けど、分かったよ。その時が来たら、あんたの代わりに、あの子のことは責任持ってあたしが引き受ける。あんたは安心して眠るといいさ」
「……ありがとう」
レオンは微笑を浮かべた。
何処か淋しさが漂うその表情に、ナターシャは嫌だねと言ってレオンの背中をばしんと叩いた。
「ほら、いつまでもそんな辛気臭い顔してるんじゃないよ。あたしが引き受けるのはあんたがいなくなってからなんだから、今はしっかりあんたが務めを果たさなきゃ駄目じゃないか」
「ああ」
レオンは頷いて、アメルの元へ歩いていった。
「アメル、今の双剣の振るい方だけど──」
「……あんたがいなくなったら……か」
ナターシャはレオンの背中を見つめながら呟いた。
「そんな淋しい話、しないでほしかったよ」
冒険者は常に未来を見据えて行動する人間だ。
常に死と隣り合わせの生活をしているからこそ、自分や周囲の人間の行く末には敏感で、何歩も先を読んだ行動を取るように心がける。
レオンが死んだ時の姿が──不本意ながらも、彼女には見えていた。
レオンが志半ばにして斃れた時。その時の無念はさぞかし大きいことだろうと、彼女は思ってしまったのだ。
だから、約束をした。レオンの志は自分が引き継ぐと。
彼が死ぬ時に、少しでも心残りが減るようにと、彼を思って先の言葉を口にした。
それでも。彼女の本音は。
少しでも長く、願わくば自分が死ぬよりも先に、死なないでほしい。
彼の死に顔を見たくはないと、思ったのだ。
「子供たちだけじゃない。あたしも、あんたが必要なんだよ……レオン」
彼女の切なる願いの言葉は、訓練場に満ちる子供たちの掛け声に紛れて誰にも届かない宙へと溶け消えていった。




