第33話 明るみに出た真実
レオンはナターシャに担がれて冒険者ギルドの中に運び込まれた。
彼の周囲には、屋内に避難していた子供たちがいる。その中には、アメルもいる。
床に横たえられたレオンは、しばらく苦しそうに自らの胸を掴んでいたが、安静していたことによって落ち着いてきたのか、ほどなくして起き上がった。
彼の様子を壁に凭れて見守っていたナターシャは、レオンに問いかけた。
「レオン。あんた、あたしに隠してることはないかい」
「…………」
レオンは答えない。床の一点をじっと見つめているばかりだ。
ナターシャは溜め息をついた。
「あたしたち、そんなに浅い仲ってわけじゃないだろ。あんたが今でもあたしのことを信頼してくれているのなら、今この場で、話しておくれ。知らなきゃいけない大事なことを隠されているのは、あたしも辛いんだよ」
「……レオン、は」
ナターシャの言葉からレオンを庇うように声を上げるアメル。
彼女は自分のシャツの裾をきゅっと掴んで、言った。
「魔族に呪われてるの。苦しんでるのは、そのせいなの……それなのに、私たちを守るために戦ってくれて」
「……呪い?」
ナターシャの眉間に皺が寄る。
アメルが白状してしまったことで隠し通すことを諦めたのか、レオンは静かに息をついて、口を開いた。
「……僕は、もう長くはない。いつ死んでも不思議じゃない体なんだよ」
レオンは語る。二年前の魔族との戦いで、自分が死の呪いを受けたということを。
最近になって呪いが急に進行し始めて、そのせいで今のような発作が度々起きるようになったということを。
彼の話をギルドカウンターで聞いていたラガンが、驚きで目を丸くしている。
普段からレオンの落ち着いた姿しか目にしていなかった彼からしてみたら、今の話はにわかには信じ難いことだったのだろう。
レオンの話を聞き終えて、ナターシャは真面目な顔をして言った。
「……馬鹿だね。何でそんな大事なことを周囲に言わないで、隠そうとしたんだい」
「……知られたら、皆僕を壊れ物を扱うように接しようとするだろう?」
ナターシャに視線を向けながら、レオンはゆるりとかぶりを振った。
「それだけは、嫌だったから……皆には、僕のことを普通に扱ってもらいたかったから。だから、知らせないでおこうと思ったんだ」
「ひょっとしてあんたが冒険者をやめた理由も、それかい」
ナターシャの問いに、レオンは静かに頷いた。
はぁ、と再び溜め息をつくナターシャ。
「……全く、男ってのはどうしてこうも見栄を張りたがるんだろうね」
腕を組み、遠い目をする。
「あたしに関わってきた男は全員そうだった。苦境に立ったら率先して矢面に立つのは男の役目だとか言ってさ、危険に飛び込んで、あっさり死んで──」
肩を竦めて、彼女は再びレオンに焦点を合わせた。
「あたしだって冒険者なんだよ。同じくらいに仲間をこの身で守りたいと思ってる人間なんだ。女だからって特別扱いはしないでもらいたいもんだね」
「……すまない」
「別に怒ってるわけじゃないんだよ。ほんの少し、呆れただけさ」
申し訳なさそうに頭を垂れるレオンに、彼女は薄い微笑を浮かべて、言った。
「……苦しみをたった一人で背負い続けるのは辛かっただろ。これからは、辛い時は辛いってちゃんと言うんだね。肩代わりはできなくても、その負担を軽くしてやることくらいならあたしにだってできるんだからさ」
「……ああ」
レオンはゆっくりと息を吐いて、立ち上がった。
まだ、微妙に息が荒い。それを抑えようと深呼吸を繰り返しながら、彼は傍に集まっている子供たちに言った。
「みんな、外はもう安全だから……特訓を始めなさい」
「レオンさん、大丈夫なんですか? 何だか苦しそう……」
「僕はもう大丈夫だ。ちょっと疲れただけだから……さあ、行った行った」
両手で押すように子供たちを外へと追いやる。
子供たちは何度もレオンの方に振り返りながら、裏口から訓練場へと出ていった。
アメルもレオンから離れ難そうにしていたが、レオンの言葉に従って子供たちと一緒に訓練場へと向かう。
レオンはナターシャに向き直った。
「ナターシャ。悪いけど、しばらく子供たちのことを見ていてくれるかい」
「それは構わないけど、あんたはどうするんだい」
「ちょっと、用事があるから外に出かけてくるよ。すぐに戻る」
頼んだよと言い残し、レオンはギルドの外に出ていった。
ナターシャは小首を傾げながらレオンを見送ると、壁に立て掛けてあった木の大剣を手に取って、子供たちがいる訓練場へと足を運んだのだった。




