表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/82

第32話 間一髪

 ローランは床に落ちた大剣とレオンとを交互に見た。

 レオンは右手を突き出した体勢のまま、苦しそうに喘いでいる。落ちた得物を拾おうとする素振りも見られない。

 これは──形勢逆転か?

 ローランはごくりと唾を飲み込んで、口の端を上げた。

 レオンの額に銃口を向けて、告げる。

「……どうやら、叩き潰されるのはお前の方らしいな」

「…………」

 レオンの返答はない。前を凝視して荒い息を繰り返しているばかりだ。

「大人しくあの娘を差し出せば、お前の命は助けてやってもいい。さあ、娘を出してもらおうか!」

「…………」

 ローランの言葉に、しかしレオンは懸命に首を左右に振った。

 意地でも最後まで戦うつもりなのだ。この男は。

「……お前がそのつもりなら、こっちも遠慮はしない」

 銃口をレオンの額の中心に押し当てる。

 くっとトリガーに掛けた指に力を込めて、ローランは勝利を確信した笑みを浮かべた。

「勇者よ、このまま地獄に堕ちろ!」

「…………!」

 レオンはきつく目を閉ざした。


 ぱぁんっ!


 放たれた銃弾が、壁に当たって空しく弾かれる。

「うっ……」

 ローランの顔から笑みが消えた。

 ぼたり、と右腕から落ちる真っ赤な血。

 彼の右腕に、深々と一本のナイフが突き刺さっている。

 それを目にして、彼は悲鳴を上げた。

「うぁああ!?」

「レオン、大丈夫かい!」

 操縦室に駆け込んでくる赤い影。

 ナターシャは手にした大剣を片手で構えながら、ローランをきっと睨んだ。

「次は腕だけじゃ済まさない。それでもまだ向かってくるか、ビブリードの犬!」

「ひ、ひいっ!」

 ローランは身を竦めて窓に飛びついた。

 そのまま窓から外に出て、戦車を飛び降りる。

 丁度真下にいたエヴァを下敷きにして、彼は地面の上に尻餅をついた。

「こらっ、上司を踏みつけるとは何事だ!」

 再び転がされたエヴァが腕を振り上げて怒鳴る。

 ローランはそれには取り合わず、さっさと立ち上がって戦車から距離を置いた。

「た、隊長! 逃げましょう! 殺される!」

「馬鹿者、敵前逃亡など許されるわけがなかろう!」

「だったら隊長が戦って下さいよ! 自分には無理です!」

 戦車がゆっくりと前進を始める。

 操縦席に座ったナターシャが、戦車を動かしているのだ。

 戦車が乗っ取られた。その事実をようやく理解したエヴァは、歯軋りをしながら起き上がった。

「うぬぬぬぬ、仕方ない。ここは戦略的撤退だ! 退くぞ!」

「は、はいっ!」

 駆け出すエヴァを慌てて追いかけるローラン。

 二人が逃げ出したことを悟ったナターシャは、操縦桿から手を離して席を立った。

「……全く、無謀もいいところだよ、レオン。一人でこんな代物を相手に戦おうなんてさ」

「……ナターシャ……」

 レオンは掠れた声を漏らして、その場に座り込んだ。

 操縦席の背凭れに寄り掛かり、ぜえぜえと肩を上下させる。

 その様子を目にしたナターシャは、片眉を跳ね上げてレオンの隣に移動した。

 片膝をつき、レオンの背にそっと手を触れる。

「……レオン。あんた……どうしたんだい。言っちゃ悪いけど、あんたのその様子、普通じゃないよ」

「…………」

 レオンはナターシャの方をちらりと見て──

 そのままずるずると背中を丸めた格好のまま床に倒れて、動かなくなってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ