第29話 命を預けられる存在
「ナターシャさん、大剣を扱う時のコツを教えて下さい!」
「いいよ。そもそも大剣っていうのはね……」
ナターシャは子供たちとすぐに打ち解けた。
彼女が元々面倒見の良い性格であるということも手伝って、彼女はレオンに劣らない腕前の指導教官になった。
それを、レオンは頼もしそうに見つめていた。
彼は、ナターシャが子供たちと仲良くなれるかどうかを心配していたのだ。それが杞憂だと分かって安心したのだろう。
「レオン、嬉しそう」
案山子相手の特訓をひと段落させたアメルが、レオンの傍までやって来た。
レオンはナターシャに向けた視線を動かさずに、微笑みながら、アメルの言葉に答えた。
「彼女が今でも僕の力になってくれることが、嬉しいんだ」
「ナターシャさんは、レオンにとってどういう人なの?」
アメルの問いに、レオンはしばし考えて、口を開く。
「そうだね……彼女は僕がまだ冒険者だった頃からの仲間だけど、その時から彼女は僕にとっての太陽みたいな人だったよ」
太陽。心を照らし、行く先の道を指し示してくれる掛け替えのない存在。
レオンにとって、ナターシャはただの仲間という一言では括れない人間だった。
彼は、彼女のことを信頼していた。彼女になら安心して背中を任せることができる。そう思っていた。
それは、冒険者でなくなった今でも変わらない。
「心の底から命を預けてもいいと思える人は、後にも先にも彼女だけだろうね。そういう人と巡り会うことができて、僕は幸せだよ」
「……大事なんだね。ナターシャさんのこと」
「そうだね。もっとも、彼女の方は僕のことをそういう風には考えてはいないだろうけどね」
レオンは微苦笑して、自分に注目しているアメルに視線を移した。
「アメルも、冒険者になったらそういう風に思える仲間を持つんだよ。冒険者は人との絆を大切にしないと生きていけない人間だからね」
「……うん」
自分もレオンにそう言ってもらえるような冒険者になる、とはアメルには言えなかった。
自分はまだまだ駆け出しで、子供で、レオンとは根本的に住む世界が違う人間で……彼には依存してばかりだから、そういうことを言う資格はないと思ったからだ。
ナターシャさんのことが、ちょっぴり羨ましい。
それは決して嫉妬ではない。しかしちょっぴりもやっとした気分になったアメルだった。
「……私、ジョギングするね」
「まだ息が切れてるじゃないか。もう少し休憩しててもいいんだよ」
「頑張らないと、早く一人前の冒険者になれないから」
深呼吸をして、アメルは笑顔を見せた。
「五周だよね。行ってくるね、レオン」
「そうかい。分かった、行っておいで」
駆け出すアメルを、レオンは笑顔で送り出した。
すぅっと息を深く吸って、空を見上げる。
綿のような雲が浮かんだ空は、穏やかに彼らのことを見下ろしている。
今日も一日、平穏に終わりそうだ。
彼がそう独りごちた、その時だった。
建物の向こうから、何かを砕くようなけたたましい音と悲鳴とが聞こえてきた。
話をやめて振り向くナターシャと、子供たち。走るのをやめて辺りを見回すアメル。
レオンの表情が険しくなった。
……何だ!?
訝ると同時に、冒険者ギルドの裏口が開いてラガンが顔を出した。
「レオン、来てくれ! ビブリードが攻めてきた!」
「!」
レオンは手にしていた木の大剣を肩に担いだ。
訓練場を見回して、中にいる皆に呼びかける。
「全員、訓練中止! 建物の中に入るんだ!」
そして、駆け足で冒険者ギルドの中へと入っていった。




