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第28話 戦火を運ぶ車

 木がちらほらと生える平原。まっすぐに伸びた街道の上を、がらごろとうるさい音を立てながら一台の車が走っている。

 鉄製のボディに、前面に誂えられた黒い筒と覗き窓。巨大な車輪。丸みを帯びた形は、カブトムシを彷彿とさせる姿だ。

 側面に、獅子の横顔を象った紋様が描かれている。

 これは、戦車。ビブリード帝国が開発した、移動式の砲台である。

 窓から前方を見据えながら、腕組みをしたエヴァは満足そうに頷いていた。

「うむ、何もなくて平和な行軍だな。これなら予定通りに街に到着できるであろう」

「だから言ったじゃないですか。素直に森を迂回すればあんな苦労をすることもなかったんだって……」

 操縦桿を握るローランは小声でぼそりと呟く。しかし小声故か、彼の呟きはエヴァの耳に届くことはない。

 彼は戦車をまっすぐ道に沿って走らせながら、尋ねた。

「エヴァ隊長。街に着いたらどうするんですか? 戦車のせいで我々がビブリードの人間だってことはバレバレですし、絶対警備の人間に止められますよ」

「そんなもの、薙ぎ散らせばいい! アガヴェラに、我々ビブリードの力を見せつけてやる良い機会だ!」

「……どうせそんなところだろうとは思ってました」

 エヴァの言葉に溜め息をつくローラン。

 しかし、無茶なように思えるエヴァの言葉も、まるきり無茶な言葉というわけではない。

 戦車に搭載された砲台は、建物など余裕で吹き飛ばすほどの威力を備えている。魔族と戦争を繰り広げていた頃は、彼らの操る魔法に匹敵する武器だとして重宝されていたのだ。

 人間は魔族と異なり、魔法を使うことはできない。人間の力で持てる武器としては、まさに最強クラスの存在であると言えるだろう。

「それにしても、よく戦車なんて貸してもらえましたね」

「娘を取り戻すためには労力を惜しまぬというのがリヴニル様のお考えだ。これを使って絶対に娘を奪還せよというのがリヴニル様からの御命令だ」

「……それって、失敗したら怒られるだけじゃ済まないってことじゃないですか……」

 ローランはがくりと肩を落とした。

 任務に失敗したら説教だけでは済まない未来。それが始末書を書かされるだけだったらまだ良いが、相手は親衛騎団を統括し何千もの兵士を声ひとつで動かす国軍の頂点に立つ者である。鞭打ちの刑くらいはあるかもしれない。

 それだけは御免だ、とぶるりと身を震わせながら、ローランはしっかりと操縦桿を握り直した。

 此処で何を思っても、任務は既に始まっているのだ。事が成功するように尽力するのが、今の自分がやるべきことなのだ。

 自分に言い聞かせ、彼は前を見据える。

 遠くに、建物の連なりがぼんやりと見える。

 目的の街が、近付いてきたのだ。

「エヴァ隊長、戦車は自分が操縦しますから、隊長は勝手に動き回らないで下さいね」

「何だローラン、それだとまるで私が普段から闇雲に動き回っているように聞こえるではないか」

 まるで、じゃなくてそうだって言ってるんですよ。

 うっかり出そうになった言葉を飲み込んで、ローランはふぅと息を吐いた。

 彼らの視界に映るリンドルの街は、戦車が街道を進むにつれて徐々にその姿をはっきりさせていった。

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