第26話 昔の冒険者仲間
「やあっ!」
案山子を相手に、アメルは元気良く双剣を振るう。
それを、レオンは少し離れた位置でじっと見守っている。
大剣を地面に突き立てて、それを握っている姿はまさに教官のそれだ。
アメルが訓練場で双剣の特訓を始めて、十日目。
まだまだ実戦レベルとまではいかないが、彼女の剣捌きは少しずつ形になりつつあった。
「やってるな、レオン」
裏口の扉が開き、ラガンがレオンを呼んだ。
レオンは振り向きながら、応えた。
「ラガンさん」
「お前に客だぞ」
言って、ラガンは建物の中に引っ込んだ。
入れ替わるようにして外に出てきたのは、巨大な剣を背負った一人の女冒険者だった。
燃えるような赤い色の髪を肩口でばっさりと切り揃え、随分と傷だらけの臙脂色の鎧を身に纏っている。ドレスのようにも見える形状の鎧はよく見ると固い鱗で作られており、随分と手が込んでいる一品であることが伺える。
女冒険者はレオンを見つけると、太陽のような笑顔を浮かべながら手を振って近付いてきた。
「やあ、レオン。久しぶりだね。魔族との戦争以来じゃないかい」
「ナターシャ」
レオンは彼女の全身を上から下まで見つめて、笑った。
「君は相変わらずだね。まだその鎧を着てるなんて、随分と物持ちいいじゃないか」
「ああ、これね。これでも三回は壊してるんだよ。壊す度に素材を調達して鍛冶屋に持ち込んで、の繰り返しさ」
長い腰当てを指先でついと持ち上げて、彼女は肩を竦めた。
ナターシャ・アグウェル。二年前、魔族との戦いの時にレオンとパーティを組んでいた剣術士である。
レオンとは気心知れた仲で、その仲睦まじさから周囲の人間からは恋仲なんじゃないかと言われていたほどの人物なのだ。
ナターシャはレオンの格好を見て、小首を傾げた。
「あんたは、あの鎧はどうしたんだい。わざわざムルージュに行ってアダマンを採掘して作った鎧があったじゃないか」
アダマン。一般的にはアダマン鉱石と言われる。一地方の山でごく少量のみ採れる鉱石で、その希少性から伝説の金属と言われているものである。
勇者時代のレオンは、使っている武具も伝説級の品物ばかりだったのだ。
レオンは何処か気まずそうに視線をその辺に泳がせた。
「ああ……あれはね。色々あって、今は手元にはないんだよ」
「何だい、ひょっとして売っちまったのかい? 勿体無いねぇ、あれだけの鎧はなかなか手に入らないよ? ひょっとしたら家宝になったかもしれないのに」
「僕は、もう冒険者じゃないからね。使わない鎧があっても困るだけだよ」
「ふうん……ま、あんたのやることにいちいち口出すつもりはないけどね」
ナターシャはレオンの向こう側で一生懸命双剣を振るっているアメルに目を向けた。
「で、冒険者じゃないあんたはこんな場所で何やってるんだい」
「今は、ギルドの指導教官の仕事をしてるよ。冒険者を目指す子供たちを教えてるんだ」
「へぇ」
自分の新米時代の姿を思い出しでもしているのだろう。彼女はふっと微笑んだ。
「懐かしいねぇ。あたしにもあんな時代があったよ。案山子相手に模造刀を振るったり、腰に重りを付けて訓練場を走り回ったりさ」
冒険者ギルドに訓練場が設けられたのは最近のことではない。ギルドが設立された時から、冒険者たちを支援する目的で設けられていたのだ。
リンドルの冒険者ギルドの歴史は長い。この訓練場の土を踏んだ冒険者は、それこそ数え切れないほどいるのである。
ナターシャは腰に手を当てた。
「此処には仕事探しのついでにあんたの顔を見に来たんだけどね。せっかくだし少し話をしないかい? あんたが冒険者をやめてからどんな生活をしてたのか、興味があるよ」
「別に、大した暮らしはしてないよ。一般庶民らしく、平穏な生活をしてきただけさ」
アメルに視線を戻し、レオンは答えた。
そうして、久々に再会した二人は和気藹々と世間話を始めたのだった。




