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第25話 父親の掌

 カップに注がれた紅茶が席に座るアメルの前に差し出される。

「ミルクの方が良かったかな」

 レオンの問いかけに、アメルは首を振って答えた。

「ううん、お茶でいい」

「ん。分かった」

 自分のカップに紅茶を注いで、レオンは席に着いた。

「怖い夢でも見た?」

 アメルの目をじっと見つめて、尋ねる。

 アメルは顔を伏せて、小さな声で答えた。

「……私の忘れていることって、何なんだろう」

 カップの取っ手をきゅっと握る。

「何か、忘れちゃいけない大事なことを忘れてる気がするの。でも……思い出すのが、怖い」

 彼女の脳裏にあるのは、木が吹き飛んだ時の出来事。

 それと、夢の中の出来事が交錯する。

 私が忘れているのは──

 周りのものを目茶苦茶にしてしまう、とんでもないもののことなの?

「……アメル。手を出してごらん」

 静かな空間の中、レオンの声が優しく響く。

「……?」

 アメルが怪訝そうに右手を前に出す。

 それを、レオンの両手が優しく握った。

「……もしも、君が記憶を取り戻したことによって耐えられないほどの苦しみが襲いかかってきた時」

 レオンは穏やかな微笑みを浮かべて、言った。

「その時は、この手の感触を思い出して。僕はいつでも君の傍にいるんだってことを、忘れないでほしい」

 ぐっと力を込めて握られるレオンの掌の感触は。

 力強くて、大きくて、温かい。

 それは──まるで、父親の掌のようだった。

 アメルには、父親の記憶も母親の記憶もない。しかし、もしも父親と呼べる存在がいたのだとしたら、それはきっとレオンのような人だったのだろう。

 彼女にとって、レオンは自分に愛情を向けてくれる大切な人だ。

 その彼が言うのだから──

 怖いものをただ恐れるだけじゃなくて、前を向いて向き合えるようになろう。そう、思ったのだった。

「……レオン、ありがとう」

 アメルがはにかんだのを見て、レオンは頷いた。

「少しは、悩みは晴れたかな」

「うん」

「それは良かった」

 アメルの手をそっと離す。

「……さ、そのお茶を飲んだらお休み。明日からまた、訓練場で特訓するからね」

「……レオンは、眠らないの?」

「僕は、アメルが眠ったら寝るよ。安心して」

「……分かった」

 アメルはカップを引き寄せて、ほんのちょっぴり冷めた紅茶を飲み始めた。

 その様子を微笑ましげに見つめながら、レオンも自分のカップに口を付けたのだった。

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