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第24話 残された時間は

 浴室の、鏡の前で。レオンはそこに映った自らの裸体を見つめていた。

 かつて世界を救った英雄であることを物語るように、引き締められた戦士の肉体。それを覆うように、赤黒い模様がびっしりと浮かび上がっていた。

 胸、腹、腰、太腿、性器に至るまで描かれている模様。それはまるで、蔓草が巻き付いているようにも見えた。

 これは、呪詛の紋様だ。

 レオンが魔族から魔法を掛けられた時に肌に現れた、印である。

 最初は、此処まで広範囲に渡る紋様ではなかった。せいぜい臍周りに小さな痣のようなものがある、その程度のものだった。

 それが、最近になって急速に広がった。

 それが何を示すのかは、訝るまでもなく分かった。

 ……呪いが……進んでいる。

 レオンには、嫌と言うほどに自覚があった。

 増えた発作。増した心臓の痛み。

 僕は、後何回発作を耐えられるのだろう。


 ──どくん。


「…………ッ」

 心臓が悲鳴を上げる。体の中身を引っ掻き回しているかのような痛みと息苦しさが襲ってくる。

 レオンはたまらずその場に膝をついた。

 口が酸素を求めて喘ぐ。

 それでも悲鳴だけは上げるまいと、必死に堪えて苦しさが通り過ぎるのを待つ。

 じわり、と。

 彼の体の紋様が、その腕を伸ばす。

 鏡に映ったその様子を見て、彼は思った。


 ──おそらく。この模様が全身に回った時。

 その時に、僕の命は終わるのだろう、と。


 とんとん、と浴室の扉が叩かれた。

「……レオン? いる?」

 アメルだ。

 寝室で眠っていたはずなのに此処にいるとは、何かあったのだろうか。

 訝るが、声が出せない。

 声を出したら、変に上擦った声になってしまいそうだったからだ。

 アメルに心配を掛けるわけにはいかない。

 レオンは無言のまま、アメルがこのまま部屋に戻ってくれるのを待った。

「いないの? レオン? 開けていい?」

 ……それは、駄目だ。

 こんな姿を彼女に見られたら……

 レオンは必死に平静を取り繕って、答えた。

「……開けたら、駄目だ、アメル」

 何とか、普通の声が出た。

「今、出るから……部屋で、待ってなさい」

「……うん」

 ぺたぺたと遠ざかっていく足音。

 レオンは安堵して、心臓の痛みが治まるまでひたすら耐えた。

 しかし、苦しみは一向に治まる気配を見せない。

 長い、抗いになりそうだった。

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