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第21話 伝説の英雄

 レオンが振るった剣の刃は、エヴァの喉元を薙いだ。

 しかし、彼が纏っている甲冑が斬撃を阻む。表面に僅かに傷が付いただけで、中身に致命傷を与えることはできなかった。

「親衛騎団のみが身に着けることを許された黒鉄の鎧が、そんなチャチな玩具で斬れるわけがなかろう!」

 エヴァは悠然と構えた銃の引き金を引く。

 だが、がちんと固い音が鳴ったのみで、銃弾は発射されない。

 どうやら、弾切れらしい。

「おおっ!?」

 素っ頓狂な声を上げるエヴァ。

 それを見ていたローランがああもうと呆れた声を出した。

「調子に乗って小さな魔物を相手にばかすか撃つからですよ! 弾だってタダじゃないんですよ!」

「それくらい分かっておるわ!」

 エヴァは銃を肩の後ろに担ぐと、腰の剣を抜いた。

 レオンの得物と比較すると刃が幅広く重そうな剣だ。力比べになったらレオンの方が分が悪いだろう。

「貴様の相手などこの剣で十分! 親衛騎団の力、見せてやろう!」

 エヴァが剣を大振りに振るう。

 レオンはそれを左の剣で受け止めて、そのまま横に受け流した。

 エヴァの胴体ががら空きになる。そこに、体重をかけた体当たりを仕掛ける。

「ぬおお!」

 甲冑の重さが仇になり、体のバランスを崩したエヴァは仰向けにひっくり返った。

 レオンの注意がエヴァに向いているその隙に、ローランは行動を起こした。

 レオンには見向きもせずに、狼狽してその場の様子を見つめているアメルに向かっていったのだ。

「さあ、こっちに来い!」

 アメルの右腕を掴んでぐっと引っ張る。

 アメルは表情を歪めると、身を強張らせて叫んだ。

「嫌!」


 ばきぃっ!


 ローランの後方にあった木が、突然中から爆ぜるようにして折れた。

 ばさばさ、と周囲の枝を折りながら、木が茂みの中に倒れる。鳥が一斉に飛び立つ音がして、ギャアギャアと騒ぐ声が聞こえてきた。

 ローランはぎょっとして倒れた木を見た。

「……まさか、これが娘に眠っているという破壊の……」

「アメル!」

 レオンが慌ててアメルの元に駆けてくる。

 アメルの腕を掴んでいるローランの手を狙って右の剣を一閃。ローランが慌てて手を引っ込めた隙に体をアメルの前に滑り込ませ、アメルを相手の視界から隠した。

「レオン!」

 レオンの背にぴたりと寄り添うアメル。

 彼女の言葉を聞いたローランの表情が、みるみる驚愕の色に染まっていく。

「レオン……まさか、お前、二年前に姿を消した伝説の英雄──」

「……もう過ぎた話だ。今の僕はしがない一国民にすぎない」

 レオンは右の剣の先をローランの鼻先に突きつけた。

 ローランの喉がごくりと鳴る。

「もう一度言う。このまま帰るなら追わない。向かってくるなら……遠慮なく斬る」

「さっきと言ってることが違う!」

 ローランは慌ててレオンから距離を置き、未だに尻餅をついているエヴァの元まで引いた。

 のたのたと身を起こそうとしているエヴァの体を支えて起き上がらせ、彼に訴える。

「エヴァ隊長! こいつ、レオン・ティルカートですよ! 二年前に魔族を皆殺しにした伝説の英雄です!」

「レオン・ティルカート、だと……」

 エヴァはレオンを睨んで、沈黙し、ややあって思い出したのか声を上げた。

「そうか……貴様がレオンか! 一人で千の兵隊にも匹敵する戦闘能力を持つという勇者! まさかアガヴェラにいたとはな!」

「どうするんですか、伝説の英雄相手に敵うわけありませんよぉ……」

「むぅ……」

 ローランの必死の訴えに呻いて、エヴァは剣を鞘に収めた。

「……仕方ない、この場は引く! 勇者と戦り合うにはこの装備では心もとないからな!」

「えぇ、諦めないんですかぁ? 大人しく援軍が来るのを待ちましょうよぉ……」

「馬鹿者、我々は国から重大な使命を仰せつかってわざわざ此処に来ているんだぞ! 勇者が相手だからとおめおめ引き下がれるか!」

 ローランの頭に拳骨を落として、エヴァは踵を返した。

 数歩進んだところで立ち止まり、肩越しに振り返って、言う。

「そういうわけだ、その娘は今しばらく貴様に預けておいてやろう! 感謝しろ!」

「待って下さいよ、エヴァ隊長~」

 ずんずんと森の奥へと進んでいくエヴァを慌てて追いかけるローラン。

 二人の姿は森の木々と茂みに隠されて、見えなくなった。

「…………」

 レオンはゆっくりと剣を下ろして、油断なく二人が去っていった方向を見つめた。

 そして、本当に彼らがこの場から去ったことを確認して、ほっと息をついたのだった。

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