第19話 依頼達成
残り二つのハニー・ホーネットの巣はほどなくして見つかった。
ハニー・フォレストと名が付いている森だけあって、ハニー・ホーネットの巣はそこかしこに存在しているのだ。
アメルはレオンに教わった通りに、彼から貰った噴煙玉を使って巣から蜂を追い出した後、木に登って無事に巣を採ることに成功した。
所要時間は森に入ってから数えて二時間。旅慣れた大人が同じ仕事をすればもっと早く終わっただろうが、それでもなかなかの早さだった。
持ってきた麻袋に三つ目の巣を入れて、レオンは笑った。
「後は、これを冒険者ギルドのギルドカウンターに持って行けば依頼達成だ。初めての仕事なのによく頑張ったね」
「冒険者のお仕事って大変なんだね。冒険者って凄いね」
アメルは自分の掌を見つめながら、先程までの自分の行動を振り返っていた。
一生懸命に木登りをした掌が痛む。今はまだ手の皮が薄いからそう感じるのだろう。
しかし、それも何度も同じ経験をしているうちに慣れるはずだ。
こうして一人前になっていくんだね、と彼女は思った。
「私、これに満足しないでこれからのお仕事も頑張るよ」
「そうだね。冒険者は前を見続ける気持ちが大切だ。アメルもこれから先、もっと難しい依頼をこなせるように、……ッ」
レオンの顔から微笑みが消える。
彼はぐっと息を飲んで、心臓の辺りを掌でぎゅっと掴んだ。
目を閉じて、ふー、ふー、とゆっくりとした呼吸を繰り返す。
レオン、また心臓が……
アメルは心配そうにレオンの顔を覗き込んだ。
「……大丈夫?」
「……大丈夫、だ」
ふー、と大きく息を吐き、レオンは折れ曲がりかけていた腰を伸ばした。
……最近、発作が起きる間隔が狭まってるような気がする。
レオンは独りごちた。
ここ二年、呪いを受けてからも特に日常生活に支障をきたすことなく日々を過ごせていたのが、最近になって急に発作が起きる頻度が増えた。
ひょっとしたら、僕には──
アメルに目を向けて、思う。
僕には、もうあまり時間は残されていないのかもしれない。
「……ねえ、アメル」
彼は、自分に注目しているアメルに言った。
「もしも、僕が君を教えている途中で死んだら……」
途中まで言いかけて、口を噤む。
ゆっくりとかぶりを振り、言おうとしていた言葉とは別の言葉を紡いだ。
「……今言う言葉じゃなかったね。忘れて」
「……レオン」
アメルの瞳に僅かな悲哀の色が混ざった。
しかしそれを払拭するように、彼女は声を上げた。
「レオン、私は──」
「諦めるなローラン! 進んでいれば必ず出口に着く! 道は諦めぬ者に必ず開けるようになっているのだ!」
「も~、その根拠と自信は何処から出てくるんですかぁ。もう丸一日経ってるじゃないですかぁ、絶対同じ場所回ってますよこれ……」
がさがさと茂みを掻き分けながら二人に近付いてくる人影が二つ。
アメルとレオンは何事かと思って声のした方に顔を向けた。
「……あ」
人影の方も二人の存在に気付いたようで、言い合うのをやめて二人に注目する。
しばしの沈黙が両者の間に横たわり、代わりに鳥の声がその場に満ちた。