表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/82

第18話 正しい巣の採り方

評価を頂きました。ありがとうございます!

 アメルの目的であるハニー・ホーネットの巣は、木のうろや低いところにある枝の下など、比較的人の手が届きやすい位置にある。

 大きさは、時には直径五十センチを超える大物になることもあるが、平均直径二十センチほどの片手で抱えられるくらいの大きさであることが一般的だ。

 ハニー・ホーネットは普通の蜜蜂と遜色のない大きさの魔物で、普段は群れで行動していることが多い。当然巣の中には多くの蜂がいるので、巣を採集する時は刺されないように注意することが必要だ。

 といった注意点や巣の特徴をレオンから聞きながら、アメルは近くにハニー・ホーネットの巣がないかどうかを一生懸命に探した。

 木々の葉の間から差し込む木漏れ日が、森の中を点々と照らしている。

 時折きらきらと輝いて見えるのは蜘蛛の巣だろう。どうやら森の中というだけあって、魔物以外にも多くの昆虫が生息しているようだ。

 草を掻き分けて木の真下に行き、そこから頭上を見上げてといったことを繰り返しながら、アメルはどんどん森の奥へと進んでいく。

 レオンはそれを見守りながら、彼女の後方を付かず離れずの距離を保ちながら歩いている。

 そうして、二人が森を散策して三十分ほどが経過した頃。

「あっ」

 アメルが一点を見つめて、指を指しながらレオンを呼んだ。

「あれ、そうかな?」

「どれどれ」

 レオンはアメルが指を指す方向に目を向けた。

 一本の木の、枝の下──そこに、灰色の丸い木のボールのような物体がぶら下がっている。下の方には穴が空いており、そこから小さな蜂が出入りを繰り返していた。

 レオンは頷いた。

「うん、そうだね。あれがハニー・ホーネットの巣だ」

「魔物の巣だっていうからもっと凄いのを想像してたけど、こうして見ると普通の蜂の巣なんだね」

 アメルの正直な感想に、レオンは笑った。

「はは、そうだね。でも、あれでも立派な魔物の巣だ。触る時は気を付けないといけないよ」

「どうやって採るの? 木に登って切り落とせばいいの?」

 木を見つめてアメルが小首を傾げる。

 木は、表面がごつごつしており比較的登りやすそうな形をしていた。腕力にまだまだ自信のないアメルでも、時間をかければ登ることはできそうだ。

「ハニー・ホーネットに限らず蜂の巣を採る時は、これを使うんだ」

 レオンは鞄を開けて、中から何かを取り出した。

 それは、直径五センチほどの白い玉だった。表面は砂のようにざらざらとしており、ほんのりと香草ハーブに似た匂いがするのが特徴だ。

「これは、煙玉。正式名称は噴煙玉というんだけど、名前の通り表面を擦ると煙が出てくる道具だよ」

 噴煙玉。本来は凶悪な魔物に襲われた時に目くらましとして使う道具である。煙で魔物の視界を塞いでいる間に逃げたり反撃したりといった使い方をするものだ。

 レオンは噴煙玉をアメルに手渡した。

「煙を巣に浴びせて、中にいる蜂をびっくりさせて追い出すんだ。そして蜂が巣に戻ってくる前に、巣を枝から切り取って採ればいい」

 さ、やってごらんと背を叩かれて、アメルは頷きハニー・ホーネットの巣に近付いていった。

 巣の真下に行き、噴煙玉を爪で強く擦る。

 白い煙が爆発するように勢い良く噴き出してきた。

 香草ハーブの匂いがする煙が巣に掛かるように、アメルは背伸びをして噴煙玉を頭上に掲げた。

 巣が煙に飲み込まれ、見えなくなる。

 それから幾分もせずに、大量のハニー・ホーネットが煙の外に飛び出してきた。

 ぶうんと羽音を立てながら、蜂たちは巣を離れて何処かへと行ってしまった。しばらくは此処には戻って来ないだろう。

「そう、いいよ。それじゃあ蜂たちが戻ってくる前に、急いで巣を採ってしまおう」

「うん」

 アメルは噴煙玉を足下に置いて、木に両手を掛けた。

 指が引っ掛かる場所を探して、彼女はゆっくりと木を登っていく。

 途中で何度か滑り落ちそうになったが、何とか巣がある枝の高さまで登ることができた。

 枝に跨り、彼女は腰の右側に下げていた双剣を鞘から抜く。

 刃を枝と巣がくっついている箇所に当てて、鋸で切るように刃を何度も前後に動かしながら巣を枝から切り離していく。

 そして、遂に。枝から完全に切り離された巣は、ぼとりと木の根元に落ちた。

「採れた!」

「うん、なかなか上手いじゃないか」

 レオンはアメルに拍手を贈った。

 アメルが照れたように表情を綻ばせる。

「ノルマは後二つだよ。今と同じ要領で巣を採ろう。アメルならきっとできるよ」

 アメルは落ちないように気を付けながら木から下りた。

 落ちていた巣を拾って、目の前に掲げる。

 これ、私が採ったんだ……嬉しい。

 冒険者が受ける仕事クエストとしては初歩的なものではあるが、それでも自分の力でこなすことができたという事実が彼女にとっては嬉しかった。

 絶対、この課題をクリアしてみせるんだ。それでレオンに喜んでもらうんだ。

 残り二つ。頑張ろう、と彼女は気合を入れ直した。

「それじゃあ、その巣は僕が預かるよ。アメルは次の巣を探してね」

「うん!」

 アメルはレオンに巣を預けて、次の巣を探すために探索を再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ