第14話 双剣術士の特訓-体力作り-
昼食を済ませて冒険者ギルドに帰って来たアメルは、訓練場で特訓を再開した。
現在彼女が行っているのは、ランニングだ。
冒険者は体力がものを言う職業だ。幾ら戦技を数多く覚えていても、それを満足に振るえる体力がなければ意味はない。
基礎体力をつけるために様々な運動を取り入れた特訓を行う。それがレオンの教育方針なのだ。
「はあ……はあ……」
息を切らしながら、アメルは懸命に訓練場の中をぐるぐると走っていた。
額に大粒の汗の玉が浮かんでいる。髪はしっとりと濡れ、風を受けて額の脇で踊っている。
体の細いアメルは、おそらく今まで体を鍛えるような運動はしてこなかったのだろう。訓練場を二週しただけでこの有り様とは、如何に彼女が体力に難があるかということがよく分かる。
レオンは腕を組んだ格好でアメルに視線を向けながら、彼女に声を掛けた。
「後三周だ、頑張れ!」
「…………」
ぐっ、と息を飲んで懸命に手足を動かすアメル。
絶対に一人前の冒険者になる。その思いが彼女の体を動かす原動力になっていた。
時間はかかるかもしれないが、彼女は必ずノルマを果たすだろう。
レオンもそれを信じて、彼女を温かい目で見守り続けた。
「おう、やってるな」
レオンの背後にある扉が開いて、ラガンが顔を出した。
「どうだ、あの嬢ちゃんは。冒険者の素質はありそうか?」
「彼女は真面目に訓練に取り組んでますよ。今までに僕が見てきた子供たちの中では一番心が強いかもしれません」
レオンは笑みを見せた。
「冒険者の素質は……女の子ですし、同年代の男子と比較すると厳しいところはありますが、それはこれからの訓練次第で十分に穴埋めはできます。僕の教え方次第というところでしょうかね」
「女の冒険者は、いないわけじゃないが数が少ないからな。嬢ちゃんが立派な冒険者になれるように、お前、ちゃんと面倒見てやれよ」
「ええ。そのつもりです」
ラガンは走っているアメルを応援するように力の篭もった視線を向けて、建物の中に戻っていった。
それから、少しばかりの時が流れ。
ようやくノルマの距離を走り終えたアメルが、レオンの元に戻ってきた。
呼吸が随分と荒い。足も心なしかふらついている。
彼女の体力は限界に近いようである。
「音を上げずにちゃんと走れたね。偉いよ」
アメルの頭をぽんぽんと優しく叩くレオン。
褒められたことが嬉しかったのだろう、アメルはにこりと笑った。
「これから毎日、この距離を走ることになる。慣れたら徐々に距離を増やしていくつもりだから、今回走りきれたことに満足しないで今後も頑張るんだよ」
レオンが見定める理想はまだまだ遠いところにある。
アメルの奮闘記は、始まったばかりだ。
「さ、深呼吸して。少し休憩したら訓練の続きをするからね」
すう、はあと深呼吸をしながら頷くアメル。
それから彼女の特訓は、日が西に傾いて空が茜色に染まるまで続いたのだった。