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第11話 不穏な話

「よし、一旦休憩にしようか」

 太陽が南の位置に移動し、日差しが心なしか強くなった頃。レオンはアメルにそう声を掛けた。

 双剣の素振りを止めたアメルが、額に浮かんだ汗を手の甲で拭って弾んだ呼吸を整える。

「どう? 双剣の扱い方、慣れてきた?」

「ううん、難しい。でも……」

 すうっと息を吸って背筋を伸ばし、彼女は言った。

「いつか必ず上手くなると信じて、頑張るよ」

「そうだね。そう考えるのは大切なことだよ」

 レオンはアメルに手を差し出した。

 アメルから渡された双剣を持って、武器置き場へと向かう。

 壁から突き出ている金具に双剣を引っ掛けて、彼女の方を向く。

「冒険者に必要なのは、確かに素質もそうではあるけれど……何より大事なのは諦めない気持ちなんだ。どんな困難にも絶望しないで立ち向かっていける心を持つことが、冒険者として強くなる秘訣だって僕は思ってるよ」

 にこりと微笑んで、さあとアメルの背を押した。

「お昼だし、御飯食べようか。食事はしっかり食べないと強い体は作れないからね」

 建物の扉を開けて、冒険者ギルドの中に入る。

 ギルドカウンターでは、純銀の甲冑を纏った人物とラガンが難しい顔をして話をしていた。

「……そう言われても、こちとら全ての冒険者の行動を管理してるわけじゃないからな」

「すぐにじゃなくていいんだ。何とか冒険者ギルドの方から、声を掛けてもらえないだろうか」

「……まあ、国からの命令とあっちゃ断るわけにいかんからな。なるべく善処させてはもらうけどな……」

 どうやら、穏便な話ではないらしい。

 レオンはアメルを扉の前に残して、ギルドカウンターの方へと向かった。

「……何の話ですか?」

「レオン」

「おお、貴君がレオン・ティルカートか。貴君の話は聞き及んでいるよ」

 甲冑の男は一礼をして、手を差し伸べてきた。

 それをレオンは軽く握り返した。

「世界を救った英雄である貴君が我が軍の先頭に立ってくれれば、兵たちの士気も上がるのだが」

「僕はもう冒険者を引退した身です。戦力として人の前に立つような人材ではありませんよ」

 レオンは肩を竦めた。

「国軍の兵士長殿が直々に此処に来た……ということは、ビブリード絡みの話ですか、また」

「ああ。何でもビブリードの兵が、我が国の領地に入り込んでいるらしい」

 ビブリードとは、アガヴェラと領地争いを繰り広げている隣国の名前だ。

 ビブリードは魔族との戦が終結した直後に、それまで協力し合っていたのが嘘のように隣接する各国に宣戦布告してきた戦争国家なのだ。

 幸いアガヴェラとビブリードの間には巨大な渓谷が横たわっているため、現在は飛空艇団による空中戦の応酬で何とか戦局が保たれている状況ではあるのだが、それがいつ地上戦に取って代わられるかは分からない。

 このまま無駄に兵力を消耗する前に、何とか決め手を打ちたい──というのがアガヴェラ国軍の思いだった。

「遂に地上戦を仕掛けてきたのかと、軍の方では大騒ぎになっていてな。急遽対抗するための兵力を集めることになったのだが……国軍の兵だけでは賄いきれないんだ。それで冒険者たちに助力を願おうと、こうしてギルドに依頼を持ってきたわけなんだよ」

「高い報酬を出せば、名乗り出る冒険者はいると思いますよ。彼らは稼ぎを得るのに必死ですからね。……それにしても」

 レオンは眉間に皺を寄せた。

「遂に地上戦ですか……街の方にどれだけ被害が出るのやら、恐ろしくて考えたくもありませんね」

「なるべく街には被害を出さないように努めるつもりだよ。国民を戦火に巻き込むのは愚の骨頂だからな。絶対にやってはならんことだ」

 甲冑の男はきっぱりと言った。その言葉には決意の色が滲み出ている。

 それでは、と彼はカウンターの前から一歩後ろに下がって、頭を下げた。

「それでは、ギルドマスター殿。宜しく頼んだよ」

「ああ。分かったよ」

 ラガンたちが見送る中、甲冑の男は帰っていった。

 ラガンは溜め息をついて、カウンターの下から羊皮紙を一枚引っ張り出した。

「早速仕事クエストを発行しないとな。全く、物騒な世の中になったもんだ」

「そうですね。リンドルはビブリードからは近い場所にありますから……気を付けないと」

 仕事クエスト受注書を作り始めるラガン。

 レオンは裏口の前で待っているアメルを呼んだ。

「ごめん、待たせたね。御飯食べに行こう」

「……レオン、戦争に行くの?」

 不安そうに尋ねるアメルに、レオンは首を振った。

「僕は行かないよ。僕は此処で、アメルや街の子供たちの面倒を見る役割があるからね」

 微笑んで、彼は壁に掛けられている時計を見た。

 時計は丁度十二時を指していた。

「この街には、美味しい料亭があるんだ。きっと君も気に入ると思う。そこで食べよう」

「……うん」

「それじゃ、ラガンさん。出かけてきます」

「おう。気を付けて行ってこいよ」

 ラガンに手を振られながら、二人は料亭を目指して冒険者ギルドを出た。

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