第10話 双剣術士の特訓-素振り-
ぴし、ぴしっと案山子の胴体に木の剣が当たる。
アメルが手にした双剣を案山子めがけて振るっているのだ。
一、二、一、二と規則正しい一定のリズムを刻みながら打ち込まれる剣の軌跡を、隣でレオンは腕を組みながらじっと見つめている。
その表情は、普段の穏やかな表情とは打って変わった引き締まった教官としてのものだった。
「そう、いいよ。そのリズムを体によく覚えさせるんだ。右と左の腕を別々に使うことを心がけるんだよ」
「レオンさん、見て下さい!」
レオンの元に一人の少年が駆けてくる。
少年は肩に担いだ木の大剣を構えると、足を大きく踏み出し、その場を回転しながら大剣を真横に振るった。
その軌跡はまるで円を描いているようだ。
ほう、とレオンは感心の声を漏らして、笑った。
「前より上手くなってるじゃないか」
「あれから練習を重ねたんですよ。早く一人前の冒険者になって旅に出られるようにって!」
「それは立派な心がけだ。でも──」
レオンは少年から大剣を受け取って、今少年が繰り出したものと全く同じ技を繰り出してみせた。
レオンの方が、少年と比較すると流れるような動きで動作ひとつひとつに無駄がない。
ふう、と息を吐いて、彼は少年に大剣を返した。
「まだ、勢いが足りないね。スピードに欠けた技は竜族なんかの固い鱗には弾かれてしまうよ」
「えー、まだ駄目かぁ」
大剣を受け取った少年が肩を落とす。
レオンは微笑んで、少年の肩をぽんと叩いた。
「君はまだ若いんだから、これからの練習次第で幾らでも強くなれるよ。諦めないで、練習を続けなさい」
「はぁい」
「レオンさん、こっちも見てー」
別の少年が槍を片手にレオンを呼ぶ。
レオンはそちらに顔を向けて──
急に険しい顔をして、胸の中心に手を当てた。
ぎゅっと鷲掴むように服をくしゃりと握り潰し、背を丸めて地面を睨みつける。
それを見ていた少年たちが、怪訝そうにレオンに走り寄ってきた。
「レオンさん?」
「?」
いつの間にか、アメルも双剣の素振りをやめてレオンの方を見ている。
レオンは首を小さく振りながら空いている手を振って、言った。
「……大丈夫」
ゆっくりと背筋を伸ばし、深呼吸をして、眉間に寄せていた皺を取る。
「レオンさん、具合悪いんですか?」
「大丈夫だよ、心配はいらない」
そう言うレオンの様子は、普段の穏やかなレオンのものに戻っていた。
「見てほしいって言ったね。何?」
「あ、ええと──」
少年の元にレオンが足を運ぶのを見つめ、アメルは怪訝に思いながらも双剣の素振りを再開したのだった。