8.似顔絵と絵魔師
なかなか時間がなくて1日、間が空いちゃいました;
その分少し長めです。
マリーさんの奢りで食べた昼食は、とても美味しかったです!
もやしとか残り物とかじゃなくて、普通のメニューでした!
給仕をしていた子が何人か、食堂の隅っこで目立たないよう食事をとっていたのだが、もやしとかパンの耳とか残り物っぽいものとか、見覚えのあるそういったものが並んでいた。
給仕の子たちにも出されていると言うことは、あれは賄いと言うことなのだろうか?
「お姉ちゃん! 何をしてるのです? 早く行こうなのです!」
待ちきれないと言わんばかりに、後ろから押して先を急かしてくるキッカちゃん。
食事も終わったので私の泊まっている部屋で描き始めようと話していたのだった。
キッカちゃんに急かされるまま部屋に入り、早速準備に取り掛かる。
マリーさんとキッカちゃんには、ベットに座ってもらい。私は椅子に腰掛ける。
画材が入った革袋から、ガラスの注射器のような物を取り出した。
この中に水彩絵の具が入っているようであった。何色かパレットに乗せ、筆を水に馴染ませておく。水は部屋に用意してあった水差しの物を使わせてもらった。
「用紙を画板にセットしてっと。準備はこんなもんかな。それじゃ描き始めますけど、マリーさんとキッカちゃんどちらが先にしますか?」
「そうねぇ。キッカちゃんを先に」
「ママと一緒に書いてほしいの!」
マリーさんがキッカちゃんを先にとお願いしようとするが、キッカちゃんが被せるようにそう言った。
「ダメです?」
不安そうに見上げてくるキッカちゃんに、だめだなんて言えるはずもない。
「勿論良いともですよ! 2人一緒に描きましょう。もう少し寄って座ってもらえますか?」
私は言いながら、両手の親指と人差し指で"「」"の形を作り、その中から2人を覗く。
「もう少しだけよれますか? そうその辺です。キッカちゃん少しだけ顔の向きを左に、マリーさんはキッカちゃんの腰に手を回してみましょうか。軽く抱き寄せるようなイメージで」
「こ、こうなのです?」
「なんだかとても本格的なのですね……」
「はい。良いですね〜。こんな感じで行きましょうか。少し楽にしてても良いですよー」
その言葉で、『ふぅ〜』と2人が息を抜き体制を崩す。しかし、私がすでに描き始めているのを見ると慌てて、背筋を伸ばし先ほどのポーズを取っていた。
その様子を片隅に見ながらも意識は描くことに集中し。
「そんなに肩肘貼らなくても大丈夫ですよ」
集中したままに、そう苦笑し笑いかける。
手は動かし続けており、今は細筆に白の絵具をつけ大まかなアタリ(輪郭)などをとっているところだ。鉛筆など下書きに使えるような道具が無かったので、代用している感じだ。
白と言っても、意外と画用紙の上に乗せてみると十分に見えるものなのだ。それに、この白が後々役に立つのさ。
「さっきとってもらったポーズで、大体の構図は決めちゃいましたから、多少動いてもらっても良いですし、お喋りだってしてくれて大丈夫ですから」
言いながらも作業を進める手は、ほとんど止めない。
「え? 良いのです??」
「たまに、さっきポーズをお願いするかもしれないですけど、それまでは気にしなくても大丈夫です。あ、完成するまで覗くのは無しでお願いしますね?」
「それは、ちょっと残念なのです」
「それにしても凄いものねぇ。私の知っている絵魔師でも、そんな早く描いてるとこは見たことないわ」
なんだか、すごく気になるワードが出てきた気がする!?
少しだけ集中を切らし手が止まってしまう。
「絵"魔"師? ですか? 絵師ではなく??」
聞きながらもなんとか集中し直し、作業は再開する。
「? えぇ。絵魔師ですよ? 最近ではもうポピュラーな職ではなくなってしまったけれど、知りませんか?」
「えっと。絵師なら知っているんですけど……」
「そうなんですか……。ミズカさんの元居た国では居ないのかしら?? 逆に絵師の方は知っている? こちらの方がよりマイナーで、この呼び名を使っている人なんて見かけないほどなのに……」
絵師なら知っていると聞くと、小声で独り言をブツブツ始めてしまうマリーさん。
「絵魔師はですねぇ。キラキラ〜って空にお絵描き出来るのです!! とっても綺麗だったのですよ?」
「マジで!? なにそれ!! 詳しくプリーズ!!」
食い気味に地で反応してしまった。
食いつかれた、キッカちゃんはマリーさんに跳びつきちょっと涙目だ。
「ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃいました……。私の国ではそんなことができる人はいなかったので、びっくりしちゃって」
「そうなのです? ちょっと怖かったけど、許してあげるのです」
「それで絵魔師って、空にお絵描きってどうやるんですか?」
「絵魔師は絵を描く魔法使いさんなの! 空にお絵描きするのは……、どうやったら良いのです? ママ」
魔法!! ファンタジー!! あるかなーって期待はしていたけれど、本当にあった!
でも、大事なのはここから! 使い方よね! 教えて!? ママーさん! 間違えた。マリーさん!!
「ママも絵魔師じゃないから、詳しくは知らないわよ?」
と一つ苦笑してから、先を続ける。
「でも、基本はどの魔法も同じだから、魔力を使って魔素を作り、これを空中に定着させているんじゃないかしら」
魔力に魔素? 聞いてもさっぱりだった。
「その魔力とか魔素とか、どうやったら使えるんですか? とういうか、私にあるの?? 魔力がない人もいるんですか? それと絵魔師って職について詳しく教えて下さい!」
畳み掛ける私に、2人とも若干引いてしまっていたが、元々国の話をすると言うのも報酬の一部であるため、順に教えてくれると言ってくれた。だからちょっと落ち着け、とも。
「この様子だとミズカさんの国は、無魔法国家だったのですね」
「「無魔法国家(なの)?」」
あれ? キッカちゃんも知らないのか。高等教育で習うような事柄ってことなのかな?
「キッカちゃんもあと何年かしたら習うと思うけれど、無魔法国家って言うのは魔法の使用が禁止されている、もしくは禁忌として国民に知らされていない国や地域の事を言うの。
ミズカさんの国では後者なんじゃないかしら。全く知らないようでしたし」
「禁止されたり、禁忌になったり、魔法ってそんなに危険なものなんですか?」
「そうね。確かにそう言った魔法もあるけれど、理由としては弱いところね。多くの無魔法国家は差別が原因で魔法を使わなくなった。と言うのが一番の理由ですね」
「差別……と言うことは」
「ミズカさんはもう気づいたようですね。そうです。魔力を持つ者と、持たない者。この間で差別が生まれ、暴動や虐待、様々な事件が引き起こされたと言います。もう何十年と昔の話ですけど、その名残でしょうか。そう言うのはまだまだ残っているんです。
無魔法国家はそんな虐げられた、魔力を持たない人々の子孫が興した国家が、多くを占めています。比較的被害者になりやすい彼らの為の国と言えるでしょう。他国で生まれた魔力を持たない人々の受け入れなども行っています」
ここで、「長くなっちゃいましたね」と言ってマリーさんは一息ついた。
そして、「ここからがミズカさんの質問への回答の一つになるのですが」と続けて話し始めた。
「こう言った経緯を持つ無魔法国家ですが、そこに生まれた者が全く魔力を持たないわけではありません。魔法が使えない、魔法を使いたくない。そう言った人たちも多くいて、混じり合った結果、魔力を持つ者も多くいます。つまり、ミズカさんが無魔法国家の生まれであっても、魔力がないとは言い切れないですし、あるとも言えないです。つまりは、計測して見なければ分から無いってことなですけど」
「計測ができるんですか?」
「えぇ。その為の器具がギルドにあるんですよ。それに、ミズカさんに魔力があるのか、あったとしてどう使うのか、どうすれば絵魔師になれるのか。これらの質問全てまとめて、ギルドに行けば分かる。と言えますね」
「そこ連れて言って下さい!!」
言うや否や私は、描くことに集中し直し、本気で描き始めた。
集中しきった私に何度話しかけても、全く反応がなく、一心不乱に筆を振っていたようで「怖かったの」と後にキッカちゃんから聞いた。
しかし、そのおかげで似顔絵は瞬く間に完成した。
もちろん手抜きなど一切無い。その証拠に。
「わぁ! わぁ! すっごいのです!」
「これは……ほんとうに見事なものですね……」
と、大変満足してもらっている。
こんなに喜んでもらえて、絵師冥利につきると言うものだよね。
でも、今は。
「さあ、ギルド行きましょ! ギルド!」
片付けもせずに、ギルドへ案内してもらうべく、マリーさんとキッカちゃんを急かすのであった。