6.涙
もう少し書きたかったのですが、この辺がちょうど良さそうなので。
早ければ今日中にもう1話投稿するかも。
「あそこは、クスリ屋さんなのです! 薬草とかポーションは苦いけど、いつもくれるお菓子はとても甘いのです!!」
「あっちは屋台があって、串焼き肉が美味しいのです! いつもおまけでキッカに一本くれて優しいのです!!」
「あ、あっち入っちゃダメなんです。怖い人に攫われちゃうのです! お姉ちゃんも気をつけて下さいなのです!」
と、こんな感じで手を繋いだまま、キッカちゃんが紹介してくれている。
基本、食べ物関連の事柄が多い事が微笑ましい。
この街の人たちはみんな、キッカちゃんを良く可愛がっていることがわかる内容だった。
入っちゃダメと言った所は、路地裏に続く通りの様で、薄暗くスラムを思い起こさせる様子であった。
「あの辺りは、本当に危ないので近寄らないほうがいいですよ。この街のお金の無い人達や悪い人達は皆、あそこを根城にしていますから」
マリーさんが補足に説明してくれる。
マジもんのスラムでした。これだと攫われるって言うのも、子供に対する脅しだけではないのかもしれない。
「最近は特に子供の失踪が多くて、路地裏の住人が攫っているって噂があるんです」
困った様に、そして不安そうにマリーさんはそう続けた。
脅しじゃなかった!
日本じゃ意識したこともなかった事なだけに、すごく怖いんですけど!
「他の街とかでも、こういうことって良くあるんですか?」
この世界が、標準で人攫いの横行するような所なのか、その辺りを確認したいと思っての問いだった。
この国だけでも横行しているようであれば、他の国だって、人を攫うなどの犯罪に対するハードルが低いと思っておいたほうが良いと思ったのだ。
「そうですね……。ここ最近では他の街でも特に多いようですね。先月も隣の街で10人ほど子供が失踪したって聞きました……」
マリーさんの表情が悲しみに曇ってしまう。
これはのほほんとしているだけではいけないなと、心の中で警戒レベルをぐっと上げる。
「ミズカさんはこの国のことを知りたいって言っていましたよね。元々は他の国に住んでらっしゃったの?」
「はい、そうです」
「その国ではどうだったんですか? その、こう言うことって……」
若干聞きづらそうにマリーさんが尋ねてくる。
少し考え、私は正直に答えることにした。
「私の居た国では、少なくとも身近では聞いたことがなかったんですけどね。年に数件、話に聞く程度でしたし……。とても平和な国だったんですよ」
私の現状もある意味では攫われたのと同じなんじゃないのかな。少なくとも失踪扱いにはなっていそうだし。
とそんな事を思っていたからか、マリーさんへの返答がどこか含みのあるものになってしまった。
「そう、なんですね。良い国だったのですね……。その国はここから遠いのですか?」
「んー。どうなんでしょう?」
私は、あはは、と苦笑をもらし続ける。
「気づいたら全く知らない場所に、1人草原に寝ていたようでして、実はここがどこかも、国に帰れるのかも、よくわからないんですよね」
「とにかく歩いて、なんとか日暮れ前にたどり着いたのがこの街だったんです……」
改めて自分の境遇を語った事で、センチになっていたのだと思う。突然に抱きしめられ、それがマリーさんだと気づくと、久方ぶりに感じた他人の温かさに泣いてしまっていた。
「大変、だったのですね。辛いでしょう?」
そう言うマリーも少し泣いているようだった。こぼれ落ちた雫が頬にあたり、少し冷たい。
急な展開に状況がよくわかっておらず、オロオロとしていたキッカも『えいっ』と抱きついてくる。
そして、温かさが心にしみるまで、少しだけそのまま泣かせてもらうのだった。