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カッパは去り、挿絵とムッツリメガネ

 河童のお願いは、奇しくもサガナ姫の生い立ちと類似するものがあった。

 ただ、それを鵜呑みにするのも違うとして、サガナ姫を呼んで改めて話を聞こうということでその日はお開きとなった。


 と言いてもアトリエから去ったのは、カッパだけである。

 私とワーナさんは毎日恒例のお絵かきタイムだからね。私の出した課題に打ち込むワーナさんの横で、空中にお絵描きして行く。

 ここ1ヶ月余りはこればかりだ。

 とても楽しい!!


「いい加減私の用事にも気を配って欲しいのですが?」


 勝手にティータイムを始めたメイガスが言う。


「え、まだ居たんですか?」


「居ましたよ! 忙しい中ここへ来てみればカッパがいてどうしたものかと思っていましたが、それもとりあえずは落ち着いたので、私の話もしたいんですがね??」


「さっさとすればいいじゃない? お茶なんて飲んで寛いでるから、休憩所がわりにでもしてるのかと思っていたよ?」


「わざわざこんな所を休憩所にしませんよ。あなた達が描き始めると話なんて聞かないから、仕方なく休憩しながら待っていただけです!」


 カッパ待ちの上お絵かきタイムまでおとなしく待っていてくれていたようだ。


「暇なの?」


 おっと本心が。


「暇じゃねーですよ!? だからこそ逆に休めるときには休んでいたんですよ?」


 その理屈はわらんわーと思う私だったが、めんどくさそうだから、それは言わない。


「で、結局メイガスの用事ってなんなんですか?」


「それがですね。実はミズカさんに依頼が入っているのですよ」


「お、またですか?」


 “また“と言うのも武闘会後から、私指名での依頼がちょこちょこ入るようになっていたのだ。

 そのおかげで食うのに困らないだけの金銭は稼げるようになっていた。

 実に有難いことですよ。


「今回はなんですか? また風景画とかですかね?」


 と、ちょこちょこ入っていた依頼の中でも多かった内容をあげてみる。

 スミカさんのお屋敷を描いたことが貴族界隈で評判となっている事から、依頼が増えているらしい。

 やっぱり貴族だからか払いがいいので私としてはホクホクだ。


「いえ。今回はちょっと特殊なご依頼なのですよ」


「特殊ですか?」


「ええ、なんでも物書きをしている貴族様が、挿絵を欲しているとのことでして……」


「ほー、挿絵ですかー」


 ちょっとウキウキしてくる。

 ライトノベルの挿絵とかもたまにやらせてもらってたなー。と言う思い出補正が私を高揚させているのだ。


「でも、それって特殊なんですか?」


「挿絵自体はそう特殊じゃないのですが……」


 メイガスが言うには、絵本の挿絵というのは多いが一般的な小説で挿絵を入れる事は少ないのだという。

 あくまで文章で勝負! と言うのがこの世界の物書き的こだわりなのだそうだ。

 これだけなら珍しいだけで、特殊とも言えない気がするが、特殊なのはその内容なのだと言う。


「まぁ、特殊な挿絵というか、小説の内容自体が特殊と言いますか……」


 と、容量を得ないメイガスはなかなかになにが特殊なのかを明確にしてくれない。

 いい加減めんどくさくなってくる。


「もうなんなんですか? ハッキリ言ってもらわないとわかんないんだけど? やっぱり暇なんですか?」


「暇じゃないですって、本当に……」


 遠い目をしてメイガスが言うが、それならさっさと肝心なところを話して欲しい。

 私だって暇じゃない。お絵かきタイムの続きに戻りたい。一心不乱に課題に向き合い描いているワーナさんが羨ましい! 当のワーナさんは「なぜうまくいかない?」とブツブツ涙目であるが……。


「もうとにかく話しちゃってください! どうせ待ったって依頼の内容が変わるわけじゃないでしょう?」


「まあ、そうですね。私としてはこの依頼を女性に出すのはどうかとは思うのですが、指名で来ている以上はなさいないわけにもいかないですし、ただそうは言っても言いにくいのは……」


「そう言うのはいいから、とにかく内容!!」


 グダグダとしているメイガスに私は一括する。


「わ、分かりましたよ……。実はですね。依頼のある小説というのがですね……。ちょっとアレと言いますか。男性向けで、ようはえっちーのです……」


「はあ、それで?」


「え?」


「いや、えっちーだけじゃ、足りないですよ。具体的にどのくらいえっちーのがいいんです? 露出が多いだけならなんの問題もないですけど、具体的な濡れ場が欲しいとかって話なら、参考になる物が無ければ難しいですよ?」


 元の世界なら、それ系の画像やら動画はちょっと検索すれば沢山あったが、この世界では難しいだろう。その為どこまで描くかによって、難易度が大きく変わってしまうのだ。


「さ、参考ですか?」


「いやね、私だって流石に濡れ場をそうそう描いてきたわけじゃないんで、想像だけでは難しいってことですよ」


 実体験などもての他だ。彼氏が出来たこともないですが何か??!


「まあ、つまりえっちーと言っても、想像だけじゃ書ける範囲もあるので具体的にどのあたりまでの絵が必要なんですかって事ですよ」


「あ、あー。そういうこと、ですか……。それは分かりましたがえっちーのは良いんですか? 嫌がられるものかと思っていたのですが」


「あー、まあ進んでやりたいってことは無いですが、描いた経験がないわけではないので」


 元の世界では、たまに依頼があってR18の絵もいくつか描いていた。

 R18って、需要に対して描き手が少ない為か、嫌がらずに受けていると依頼の入りが良くなるのだ。

 そんなわけでは、選り好みが出来ない初期の頃はよく受けていたな〜って言う。今では良き思い出??


「そうだったんですか……」


 メイガスは何やら驚嘆としている。


「で結局どの程度のえっちーです?」


「あ、それは実際にこちらに小説を預かっているので、こちらを参照で」


 と小説にしては薄めの、本が渡される。


「これは、その物書きの前作という事らしいです」


 手渡された小説を私はペラペラとめくって行く。

 ふむふむ……。


 ……。


 うーん。


 これってそれなりにエロいだけでラノベだなーー。


 と言うのが私の感想であった。


 全てをしっかり読んだわけではないが、この程度であれば、全年齢向け、よくてR15程度ではないかな?


 あらすじとしては、庶民の生まれの主人公がヒロイン達のちょっとえっちーな姿を見ることで、隠れた能力を開放していき、その力で成り上がって行くと言う物だ。

 肝心なえっちー場面も、ちょっとしたラッキーすけべであったり、衣装が溶かされてみたいな微エロ程度と言える。


「んー。これなら問題ないかな? 実際に描く小説の方もこの程度でってことでいいんですよね? えっちーさとか」


「え、えぇそう聞いてます」


「なら、大丈夫です。ガッツリとした表現とかないですし」


「が、ガッツリ……そう言う経験も……?」


「そう言うことを聞くのはセクハラだと思うんですけど?」


 狼狽え気味なメイガスにジト目を向ける。


「あ、す、すみません!」


 ふむメイガスは見た目の通りムッツリメガネだな? と私は新たにメイガスのウブさに弱点を見つけた気でいた。


「ああ! なぜだ!? 描き直しても描き直しても、なぜこのダイコンはえっちくなるのだ!?」


 ワーナさんの叫びにメイガスがビクッとする。

 ワーナさんの描いたダイコン(今日のデッサン課題)は確かにそこと儚く女性の下半身然としていてえっちく見えなくもない。

 きっと私たちの話に無意識で影響されたのだろう。


 因みにチラチラとダイコンの絵を覗き見ようとしているメイガスを私は見逃さなかった。


 やっぱりムッツリメガネだった、とーー。

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