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36.お昼寝後の再開

 前の世界でも、何日も寝ずに描き続けてしまう事はあった。

 こちらの世界に直前などは特に多く、絵を描いていなかった時間を思い出す事の方が難しいほどだ。

 これは私の悪癖でもある。

 つい集中し過ぎてしまい、気づけば救急車で運ばれてましたと言う事も、年に1〜2回あり毎年の恒例行事となっていた程であり、その度に仕事のスケジュールを管理してくれていた、担当さんには頭が上がらない。

 まあ、倒れるまで仕事を降ってきていたのも、この編集さんだったのだけれど……。


 こんな事を思い出したのは、昼過ぎにメイガスがやってきた時だった。

 丸一日寝ずに描き続けていた為若干変なテンションになっていたが、表面上はテンションが高いと感じる程度だったんじゃないかと思う。


 アトリエに入ってきたメイガスは、そんな私を気にすることもなく、描いていた絵を見て驚いていた。


「昨日は来た時はまだ着色していなかったですよね? もうほとんど描き上がっているじゃ無いですか。 どれだけ描いていたのですか?」


「うん。でもまだ描き込もが弱いから、ほとんどってわけでも無いかなー」


「それでどれだけ描いてていたのですか?」


 少し真剣味を帯びた口調でメイガスが再び聞いてくる。


「ん? あの後ずっとだよ? 一度お屋敷で食事を頂いてきたけど、それからはずっと」


 それを聞くとメイガスは、ワーナさんに何か言いたげな視線を送る。


「ワーナ様。見習いの体調管理なども引率者としての義務ですよ? 普段ならともかく、先週まで入院していた物にやらせる作業量では無いのでは無いですか?」


 言われて気づいたなってのかワーナさんがバツの悪い顔する。


「え、ちょ、ちょっと待ってよ。ワーナさんにやらされてた訳じゃ無くって、私が勝手にやって他だけだから! ワーナさんに怒るのは違うよ」


 私はワーナさんを擁護する為そう言った。

 メイガスは表面上はいつもの無表情だったが、言葉に怒気が感じられたのだ。


 それは私にとって、とても予想外だった。

 一日徹夜した程度で、心配されたりするだなんて、そんな事今までなかった事だったから。


「それでもです」


「ああ、わかっている。少々配慮が足りなかったよ」


 メイガスは目を鋭く尖らせたまま言い、ワーナさんも真剣に頷き返している。


「待ってよ。ほんとこんなの大した事じゃ無いでしょ? よくある事だし、別に倒れたわけでも無いんだからさ」


 メイガスとワーナさんとの間で話が収まってしまっていたが、私は納得いかない思いもあり、そう食い下がった。


「ええ、そうかもしれません。1日徹夜するぐらい私もよくありますからね。……しかし、貴女のその考え方がよくないのですよ。別に倒れた訳でもないって、倒れるまでやるのが普通だと思っていないですか? 倒れない事に越したことは無いのですよ!? あなたは少々自分の身体を軽く見過ぎているきらいがあります。それは貴方だけでなく周りも不幸にしますよ……」


 メイガスは早口にそう言い、最後に囁く音量で言葉を締めくくった。


 私には私が倒れて不幸になる人がいるということがピンとこない。

 ピンとこないけど、メイガスもワーナさんも心配そうな表情をしていて、それがなんだか居心地悪かった。


「わかったよ……いや、良くはわからなかったけど、わかったから……。はあ、心配させない程度には気をつけるよ」


 とにかく二人にこんな表情をさせるのは嫌だと思った。


「いや、よくわからなかったのですか……重症ですね、まったく……」


 私がしおらしくしているのに、メイガスはため息なんて吐いている。


「わかんないのはわかんないって正直に行っただけじゃない。私は健康そのものだよ! 全く!」


「はあ、もう分かりましたよ。ワーナ様取り敢えず寝かしつけてきてください。騒がしいので」


「それは良いが、外で待っている子は良いのかい? 先程からチラチラ覗いていたようだが、あの子の用もあったのだろう?」


 小脇に私を抱えながらワーナさんが聞く。

 メイガス以外に誰か来ていた事など気づかなかったよ。誰だろ?

 そう思い、扉に目を向けると目があった。

 が、すぐに扉の陰に隠れてしまう。


「ああ、彼女でしたら後で良いですよ。ひとまずその騒がしいのが起きてからで」


 と私を指差しくる。

 意味もなくわーわーギャーギャーとワーナさんの腕の中で騒いでやった。


「まあ、まあ良いと言うのならそうさせてもらおう」


「私と彼女は一度ギルドへ戻ります。また夕方頃には戻って来ますので、その時にはまたよろしくお願いします」


「私も寝かせてもらおうかと思うから、来た時にはメイドにでも声をかけてくれたまえ。話は通しておこう」


「承知しました。それではまた」


 そう黙礼し、外で待つ彼女とメイガスは一度ギルドへと戻っていった。


「私たちも寝てこようか。ミズカもたまには寝具で寝たほうが良い。私の部屋に行こうか」


「え、お持ち帰りですか? 身の危険?? ワーナさん……そう言うご趣味が?!」


「そんな訳なかろう。子供に何かする趣味などないよ」


 心の声が表に出てしまったが、ワーナさんは苦笑してそう返して来た。

 私を小脇に抱えながらアトリエを出て、屋敷へと移動して行く。

 想像以上に力持ちなんだなとか思うけど、それ以上に私はある事が気になって仕方なかった。


 ワーナさん……女性には何かする趣味があるんですか!?




 ワーナさんのご趣味について悶々と考えてしまい、寝付けないのでは無いかと思ったが、ワーナさんと共にベットへ入ったら、直ぐに寝てしまった。

 徹夜と言うだけでなく、魔力もかなり消費して、思っていた以上に疲れていたのかもしれない。




 誰かに揺すられ目を覚ますと、メイドさんだった。

 ワーナさんは既に起きていて、身支度を整えているところのようだ。


 窓から夕日が差し込んで来ていることから、メイガスが戻って来たのだろうと予想した。


 まあ、時間的の夕食で起こされただけと言う可能性もあったけれど。


 私も簡単に身支度を済ませ、ワーナさんと共に客室へと案内される。

 広いお屋敷で客室も何室かあり、その一つだ。


 私の予想通り中ではメイガスが待っていた。


「ふぁあ。おはよ」


 あくび混じりに挨拶を送る。


「トーカちゃんも久し振りだね」


 メイガスの隣で緊張した様子で座るトーカちゃんにも挨拶した。

 アトリエで目があった時に、耳が見えていたのでそうじゃないかって予想がついていたから、居ても驚かなかった。


「ミズカは彼女の事を知っているのだね」


「ええ。友達なんです。ワーナ様こそトーカちゃんとお知り合いだったんですか?」


「ミズカが入院している間に紹介してもらってね」


「紹介?」


 とワーナさんの言葉に疑問を覚えている。

 その疑問に答えてくれたのはメイガスだった。


「ええ、その件で今日はご挨拶に来たのですよ。あなたにはまだ話していなかったのですが、彼女を正式にギルドで雇う事になりまして、今日から見習いとしてしばらく私と行動を共にすることになったんですよ」


「え、そうだったんだ! じゃあトーカちゃんもワーナさんの専属になるの?」


「そもそも私も別にワーナ様の専属というわけではないんですが……。まあ頻繁に依頼のやり取りはする事になるとは思いますよ」


 私はトーカちゃんに問いかけたのだが、ここでもメイガスから返答が来た。

 メイガスとしては、トーカちゃんに言い含める目的があってのようだったけど。


「そっかー。じゃあ改めてよろしくだね! トーカちゃん!」


「は、はい! よろしくお願いします! ワ、ワーナリア様もよろしくお願いいたしまし!」


 あ、噛んだ。可愛い。顔が赤くなってる。


「ふふ、ワーナで良いよ」


「は、はい。ワーナ様」


 ワーナさんに優しく微笑みかけられ、トーカちゃんがうっとりと見つめ返している。

 見た目だけなら見惚れて仕舞うぐらい、美人さんだしねワーナさんは。


「それで要件はこれだけと言うわけでもないのだろう?」


「はい。昨日お預かりした複製をそれぞれ見てもらってきまして。そのご報告を」


「ん? もう修正が出たのかね?」


「いえ、修正はなく、大変満足されておりましたよ。なので、このまま納品という事になりますのでそのご報告と、原画の受け取りをさせて頂きたく」


「ほんと!? 良かったー」


 前の世界での仕事では、こんなにアッサリOKが出ることなどなかったため、安堵の声が出た。


「この辺では中々ないぐらいに、良い出来だったからね。まあ当然かもしれんな」


 自画自賛では無いだろうが、ワーナさんがそんな事を言う。


「ええ、そうですね。追加報酬も出ましたから、そちらも合わせてギルドに受け取りに来てください」


「ほほう。それは嬉しいな」


 うん。私も嬉しい。それだけ評価してもらえたって事だしね。


「出来もさることながら、納品までのスピードも評価されてのことでしたよ。それと今回の追加報酬もあり、ワーナ様の絵魔師ランクが上がる事となりましたので、こちらの手続きも報酬を受け取る際にお願いいたします」


「おお! おめでとうございます! ワーナさん」


 私がそう言ってワーナさんを祝福するが、ワーナさんは複雑そうに口を開いた。


「それは大変嬉しいことだが……辞退することは出来ないのかね?」


「ええ!? なんでですか!? 貰えるものは貰って起きましょうよ」


 私の言葉にワーナさんが苦笑を返す。


「追加報酬の評価で、ランクが上がるのであれば、それは私の力ではなく、ミズカによるものだろう」


「そんなことないですよ!」


 私はワーナさんの努力を知っている。だからか言葉に力が入ってしまう。


「ワーナさんだって、この短い期間で凄くうまくなってきているし、複製の魔法だって付きっ切りでやってくれたじゃないですか! そう言ったことだって評価されてのものだと思いますよ!? それに、私が入院している間ワーナさんが進めてくれていたからこそのスピードでもあるんですから!」


 力説すると、メイガスも同意し頷く。


「そうですね。ギルドとしてはそう言った事も考慮に入れてランクアップを決めていますから、気になさっているようなことはありませんよ。それにランクはギルドが決めるものですので、辞退というのも出来ませんしね」


 諦めてください、と朗らかにメイガスは笑った。

 朗らかな笑顔といったイメージなどなかったが、よく似合っている。


「ふ、まあ辞退できないというのであれば、大人しく受け取っておこう」


 無愛想に言っているのは、照れ隠しなのだろう。

 見られないように背けた顔は、嬉しそうにはにかんでいたのだから。




 メイガス達との話も終わると、アトリエでメニューイラストと紋章の原画を渡してその場はお開きとなった。


 別れ際、私がトーカちゃんにハグをしているとメイガスが思い出したように、ワーナさんに声をかけた。


「ああ、そう言えば彼女の見習い卒業についてはどうするおつもりですか? 今回の依頼でギルドとしては問題なしとの判断のようですが」


 突然の話題にトーカちゃんに抱きつきながらも、聞き耳をたてる。


「その事なんだが、絵方面であれば問題など無いのだがな。魔法方面がまだまだ不安なのだよ。だから当初の予定通り、来月の武闘会で合格かどうかは決めるつもりだよ」


「そうですか。確かにその方が良いかもしれないですね」


「ああ、だからもうしばらくは、魔法中心で教えて行くつもりだ」


「わかりました。それではそのように上にも伝えておきます」


「よろしく頼むよ」


 そこでワーナさん達の会話も終わり、メイガス達はギルドへと帰っていった。


 私は聞いていなかったフリをし、内心安堵していた。

 ワーナさんとの関係が、まだ少し続けられるのだとそう安心した。


 それでも、来月には終わってしまうかもしれないと、そう思うと寂しさも胸の中に広がるのだった--。




 あと……。


 武闘会ってなに??

 聞いてないんだけど??


 不安も少し胸の中で燻った--。





再開はサガナ姫だと思ってたんですけどね。

なんか気づけばケモミミになっていました。

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