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34.子弟で姉妹

このお話には関係がないのですが、前回の投稿時に短編を一つアップしています。

ラブコメ物ですが、短いので良かったら読んでみてもらえたら嬉しいです。

 ここ数日で、メニューイラストも紋章デザインも描きあげることが出来ていた。


 メニューイラストは、ココックさんの料理に対する情熱が伝わるように、熱々のシズル感溢れる肉料理や、みずみずしく新鮮さを強調したサラダ、香ばしくそして黄金色の輝きが感じられるアップルパイなどなど、それぞれの料理を光沢多めで、美味しさが十分主張された物に仕上げた。

 ワーナさんなど、このイラストを見ただけでヨダレを垂らしそうになっていたのだから、それなりに満足してもらえる出来上がりと言えるんじゃ無いだろうか。


 商会の紋章は、秘書さんの言っていた通りに色合いなど調整しつつ、グラデーションを駆使して単調にならないようひと工夫入れて見た。

 ズッシリとした大木が安心感を与えてくれる。見ていてそんな風に感じられる出来栄えになったと思う。


 そして、これらを描く間ワーナさんは、私の隣で付きっ切りで、魔力を通す作業を行ってくれていた。

 これによって複製やサイズ調整なども行えるよいになるのだが、別に描き終わった後でも出来るらしい。


 それならなんで私に付き合い遅くまで、魔力を通し続ける作業などしたのかと聞くと、こちらの方が劣化なく複製できると答えが返ってきた。

 この魔力を込めるタイミングや、量、質などによって、複製した絵が歪んでしまったり、色味が変わってしまうこともあるらしい。


 それでも普通は出来上がった絵に行うのが、一般なのだそうだが、ワーナさんは「こんなに素晴らしい出来栄えなのに、少しでも劣化してみろ。もったいないじゃないか!」と言ってくれ、私の一筆一筆に対して、丁寧に魔力を注いでくれた。


 そのせいで私もワーナさんも、今は疲れてグッタリと床に寝転がってしまっている。


 私が一筆ミスをすれば、ワーナさんもその分やり直しになってしまう為、いつもにない緊張感の中描く羽目になったのだ。グッタリしてしまってもおかしくは無いよね。


「はあ。冷んやり、気持ちいい〜」


「うむー」


 アトリエの床に頬ずりする乙女が二人。

 実に奇怪な光景だろうが、誰も見ていないのだから、何も気にしない〜。


 ゴロゴロ、ゴロゴロ。


 床を転がりこの至福のときを満喫する。


 ゴロゴロ、ゴロゴ……。


 と転がっていた私は、窓の方を向いたところでピタと固まってしまう。


「何をしているのですか……?」


 開け放たられた窓の外から、メイガスがこちらを覗き、引きつった表情を浮かべていた。


 見られてたし! 見られてたし!

 誰も見てないと思ったからこそのダラけっぷりだったのに!!


 内心の情緒を一切表には出さないよう起き上がり、落ち着き払った様子で服についた埃などをパタパタとはたき落としていく。


「何もして無いですよ? ちょうど休憩していたところなんです」


 そして、澄ました顔でメイガスにそう答えた。


「そう、なんですか……」


 と言いつつもまだ床に転がっている、ワーナさんに視線を向けている。


「そう! なんですよ!」


 いい子は見ちゃいけません! といった心境で視線からワーナさんを隠すように一歩前に出る。


「うむー? やあ、メイガス君〜。いらっしゃい〜」


 たれたパンダのようにうつ伏せのまま、顔だけをあげて言うワーナさん。

 どうでもいいけど、人の股越しで挨拶するのはやめてほしい。


「はあ。まあもういいです……。お邪魔しまします。ワーナ様」


 色々な事を諦めた語調でそう言い。すぐ隣にある扉からメイガスが室内へと入ってくる。


「それで今日はどうしたの?」


 私の希望どうり、先ほどの醜態は無かったことになったようなので、そのまま話を変えるべく尋ねた。


「依頼の経過を確認しに来たんですよ。納期はそれ程しっかりとは決まっていませんが、もうすぐ一点ぐらいは提出してもらいたいところでしたので」


「ああー。それなら、屋敷以外は全部終わったから、持ってく?」


「え? 全部ですか?」


「うん。屋敷以外ね」


「思っていた以上に早いですね……驚きました」


「うん。頑張った」


 本当に頑張ったんだよ……。


「お疲れ様です。ワーナ様も」


 そう言ってメイガスが私とワーナさんそれぞれに、労いの言葉をかけてくれる。

 それに私は正直少し驚いてしまった。

 そう言うの言わない人だと思っていたよ。


「え、労ってくれるんだ……ちょっとビックリ……」


「なんですかその反応は……、しっかりと仕事と向き合って成果を出してくれたのです。労いの一つぐらい言いますよ」


「ああ、うん。そりゃそうだよね。毒ばっか吐いてるイメージが強かったから……変な印象が付いちゃってたよ。ごめんごめん」


「その毒ばかり吐いているというイメージ自体間違っていると思うのですが?」


「え!?」


 驚愕の目でメイガスを見る。


「え!?」


 私にワンテンポ遅れて、床から上体を起こしたワーナさんも驚きに声を上げる。


「え??」


 なぜ驚かれているのか分からない様子で、メイガスまでが聞き返して来た。


 自覚がなかったんだメイガス……。




 変な空気になってしまった後、絵を見せてくれと言われたので、どうぞとキャンパスを渡していく。

 キャンパスはどれもA4程のサイズで、それ程重くは無い。


「ふむ……。やはり絵だけは凄いものです。絵だけは」


 受け取り一通り見るとメイガスはそう褒めてくれる。

 絵だけはと強調されても、それだけが取り柄だから、その褒め方でも十分嬉しい。


 ニマニマとしてしまっていたのか、私の表情を見てメイガスが肩透かしを食らったような。微妙な顔をしていた。


「これは私の方でそれぞれ依頼主に見せて来ましょう。修正点などがあればそれも聞いて参ります」


 そう言ってメイガスがキャンパスをこちらに返してくる。


「ん? 持っていくんじゃ無いの?」


「ええ、ワーナ様。お願いできますか?」


 そういい、ポケットから折りたたんだ、紙を取り出し、ワーナさんに渡していく。


「うむ、承知した」


 ワーナさんも受け取りながら立ち上がる。

 私は訳が分からず、頭の上にははてなマークが乱舞しているに違いない。


 そんな私を見るとワーナさんは微笑んで、教えてくれた。


「納品前のチェックなどは、複写をした物を持って言ってもらうのだよ」


 そう言って私の持っていたキャンパスの絵に手をかざす。


「ミズカもいつかやる事になるのだから、よく見ていると良いのだよ」


 そう言うと、かざした右手で魔力が光り出す。

 その光に引っ張られるようにして、キャンパスから絵が浮き上がってくる。

 驚いてキャンパスを見ると、キャンパスの中にはまだ絵はしっかり描かれたままだ。


「はー。これが、複写ってやつなんですか……。絵が浮き上がるから、びっくりしましたよ……。面白いんですね」


 ワーナさんが私の感想を聞いて笑い出す。


「ははは。そうだな。面白いだろう? だが複写は、こうして……」


 ワーナさんがかざしていた手を動かすと、手のひらの前で浮いている絵も、その動きに合わせてついていく。

 そのままメイガスから渡された紙の上に持ってくると、絵を押し込んで行った。


「馴染ませるように、押し込んで完成なのだよ」


「ほへー。複写ってこんな感じなんですね。でも、いっぱい作ろうとしたら大変そうですね」


 えっさえっさと沢山の人がこの作業を行なっている、工場のライン作業のような風景を思い描き、コピー機って偉大だなーとか思っていた。


「そうですね。人為的にやろうとすると大変手間ですが、今は専門の業者が複写用の魔法具を使って大量に刷ってくれますから、あなたが考えていそうな事にはならないと思いますよ?」


 とメイガスが教えてくれた。

 コピー機もあるんだね。便利だね。魔法具。


「あ、そうなんだ。じゃあひたすらこの作業をしなきゃいけないって事にもならないんだね」


「ええ、今回の依頼は全て原本の制作までで、複製は依頼主がそれぞれで行うのですよ」


 それを聞いて安心した。

 私が想像してしまった工場では、私がズラッと何人も並んでいて、一糸乱れずえっほらえっほら、複製の作業を休まずしていたからさ。

 ちょっとホラーだったんだよね……。


「ほら、次のもやってしまうから、終わったのは置いて次のをこちらに向けてくれるかい?」


「あ、はい」


 ワーナさんに促され、終わったキャンパスを机に起き、次のキャンパスをワーナさんに向ける。


 そして同じ作業を繰り返していき、全ての複写を終わらせていく。




 全て終わると、複写された絵を持ってメイガスはアトリエを出ていき。室内にはまた私たち2人きりとなった。


「さて、もうお昼には遅い時間だが昼食を食べに行こうか」


「そうですね。食べ終わったら屋敷の絵の方にも取り掛かりましょうか」


 話しながら私たちも昼食を食べにいくため、アトリエを出る。


「ああ、その事なんだが。屋敷の絵は全部ミズカが描いているのだ、折角だから魔法を込める作業も含めて全部やって見るかい?」


 歩きながら提案される。


「いいんですか? 是非やってみたいです!」


 疲労で重くなっていた私の足取りが軽やかになっていく。


「ああ、いいとも」


「屋敷の絵って、確か複写は無くて想いを込める魔法でしたっけ?」


「そうだったな。たしか」


「どうやればいいんですか?」


「詳しくはやりながら教えていくが、そうだな。食べながら簡単に教えてあげるのだよ」


「やった! ありがとうございます!」


「ふふ、しっかりと教えてあげるからそう慌てるものでは無いよ?」


 軽やかな足取りは、すっかりスキップとなってしまっていたようだ。


「もう、待ちきれなくなっちゃって!」


「ははは。では今から始めてしまおうか」


「はい!」


 歩きながら、そして食卓に着いてからも、私たちは想いを込める魔法について語り合った。


 本当の子弟のようで、側から見れば姉妹のようにも見えたかもしれない。


 姉のいない私にはそれがとても嬉しかった--。

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