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32.森の中、紅い光とともに

今回も前回投稿した分の誤字など手直ししてあります。


まあ毎回ですので、誤字などが気になる方はワンテンポ遅らせて読む事をお勧めします。


アップして直ぐに読んでもらえるのも嬉しいので、それはそれで歓迎なんですけどね。

 木々が生い茂る薄暗い森の中、私たちは串焼き肉を頬張りながら探索していた。


 弁当を買いに行くとギルドを出て行って帰ってきたワーナさんが串焼き肉と馬車を引き連れて戻って来た時は、馬車そっちのけで「野菜じゃないのかい!」と盛大に突っ込んでしまったが、馬車のお陰で移動は非常に楽で、ワーナさんはいい仕事をしたと、今では思っている。


 馬車がなければ移動だけで半日かかっていたと言うのだから、グッジョブと言うほかないのだ。


「それにしても、こんなとこで芳ばしい肉の香りを漂わせて、大丈夫なんですか? 今更ですけど……」


 本当に今更であったが、2本目の串を食べきるところで、そんな事を聞いた。


「ええ、大丈夫ですよ」


 何事にも慎重なタイプのメイガスがそう言うのだから、そうなのだろう。

 この森には、危ない系の動物とか魔獣って奴は出て来ないのかな。

 そう思ったのだが、次のワーナさんの言葉でそうでないことがわかった。


「ああ、大丈夫だとも。この辺りの魔獣ごときでは、私束になっても私の相手にはならんさ」


 魔獣さんはいるそうです。

 なんでもないことのように、ワーナさんは行っているけれど、本当に大丈夫なの!?

 どっかのゲームではないけれど、こんな装備で大丈夫なのか?!


 着の身着のまま来てしまったため、誰も武器らしいもの一つ持っていないのだ。

 心配になるのも当然だと思うのだが……。


「何をそんなに怯えているのかね。私が居るのだから安心してくれて良いのだよ?」


「ええ、安心して良いと思いますよ? 私も荒事などからっきしですが、ワーナ様と一緒であれば、それだけで何も怖くありませんからね。それほどワーナ様はお強いのですよ」


 とメイガスが自信とちょっとの尊敬を垣間見せる。

 そのメイガスの後ろで、ワーナさんは「私で安心できないのか!? やはり野菜が良いのか!?」とか一人でコントを始めているのを見るとまだ不安が残るんだけど……。


「あれでも、お強いんですよ……本当に……」


 ワーナさんのコントで垣間見えた尊敬の眼差しは消えてしまったが、信頼は強固に残っているようで、メイガスはそう言った。


 そこまで言うのだから、本当にお強いのだろう。

 残念感は残るがそう言うことにしておいた。


「それよりも、さっきから目的なく進んでいるわけじゃないようですが、なにか当てがあるのですか?」


 メイガスが私に聞く。


「うん。うろ覚えだけどね。多分こっちだと思うんだよね」


 そう答えつつ、夢の中で彼女が通っていた形跡を辿る。

 串肉をゆっくりと食べて2本食べきるほどには、突き進んでいたお陰で人の通った形跡がある場所などに行き着くことが出来ていた。

 そこからは、その形跡を辿っている形だ。

 とは言っても、彼女が残した形跡であるかは不安であったため、記憶を鮮明に思い起こし覚えがあるか確認しながら移動しているのだ。


「うろ覚え……ですか」


 まあ、当然気になるよね。でも夢で見たと言っても信じてもらえないだろうし、説明することは放棄している。


「うん、まあ、その辺りは気にしないでよ。そのうち話すかもだし。それよりもさ。私、戻りの道とか考えてなかったんだけど、メイガスは帰り道分かるよね?」


 振り返った場所に道は既になく、同じような薄暗い景色が続くだけだ。

 抜け目のないメイガスならその辺の対策していると思い、聞いて見たのだが……。


「いえ? 私も分かりませんよ?」


 との答えが返って来た。

 えぇー。それじゃあ、遭難? 遭難しちゃうの?

 そうなん?

 パニックを起こしかける私の心に、意外なところから安心させる言葉が飛んで来た。


「それならば、大丈夫だ」


 ワーナさんだった。全然安心できなかった。


「いや本当に大丈夫なのだよ。なんだねその不信そうな表情は」


「いえ、野菜なら間に合っているんで」


 私の表情を正確に読み取って来たワーナさんに返してやる。

 ここで野菜を食べたってなにも大丈夫じゃあ無いんだよ……。


「そうでは無いのだよ。これを見たまえ」


 ワーナさんは持って来ていた水筒から一滴水を指に垂らす。

 そして水に魔力を通すと、魔力光を帯びた水滴を地面へと落とした。


「これが?」


 ワーナさんが落とした水滴は特に色がつくでもなく、地面に小さなシミを作っただけである。

 時間が経てば乾きそのシミすら無くなるだろう。

 それ故になにがしたいのかが私には、よく分からずにいた。


「この水はだな、もう一度魔力に触れた時発光するように魔法をかけたのだ。私であれば、魔力を周囲に4〜5メートル広げる程度造作もないからな」


 とワーナさんは教えてくれる。


 ただし、もう一度魔力に触れて仕舞えば、しばらくして発光は消えてしまい、それ以降は魔力に触れてももう光らないとの事も補足してくれる。


「そんなわけで、これを4〜5メートル置きで設置してあるから、帰りも安心というわけですよ」


 最初から知っていたのだろう、メイガスがそう言って締めくくる。

 私にも最初から教えてくれればいいのにさ。


「でも、この『もう一度魔力に触れたら光る』っていう魔法自体時間が経てば消えてしまうんじゃないですか?」


 ギルドで動物を描いて、そして時間と共に消えてしまった時を思い出しワーナさんに質問する。


「ふむ、言い方が悪かったのかもしれないな。実際のところこの状態ではまだ魔法は発動していないのだよ」


 歩きながら、再び落としてできた水滴のシミを指差してワーナさんが言う」


「この時点では、いわば待機状態といったところなのだよ」


「待機状態?」


「そう。魔素を蓄え、魔法として発現するのを待っている状態だと認識してもらえれば分かるかな?」


「なんとなくは……」


「魔法が一定時間で消えてしまうのは、媒体に込めた魔素を燃料に魔法を発動しているからなのだよ。しかし、魔素だけを媒体に入れ、魔法を発動させなければ、魔素は消費されず長く止まる事となる。短くても3日は残っているんじゃないかな? この辺りはまだまだ研究が終わっていない領域でな、はっきりとは言えないのだがね」


「なるほど……この待機中の魔素は、もう一度魔力が触れると言うトリガーを経て、魔法が正式に発動すると言うわけ形なんですね。つまりは遅延性の魔法……いやトラップ型の魔法なのかな?」


 ワーナさんの説明で、この魔法の仕組みが段々と理解できて来た私は、そう見解を述べる。

 トラップ型と言い直したのは、遅れて発動と言うよりかは、リモートで起爆させる爆弾のような仕組みだと思ったからだ。


「ほう。やはりなかなか理解が早い。そうなのだよ。この魔法の技術は主にトラップとして用意られることが多い。今度この辺りも教えてあげよう」


 久々に引率らしい事を言うワーナさんに、私も勤勉な見習いよろしく「はい! 是非!」と高々に返事を返した。


「魔法技巧の『トラップ』は高難易度の技術なんですがね……ワーナ様が使えるのはともかく、知っている風もなくそれを見抜く貴方も規格外なんでしょうかね……」


 風に揺れる木の葉の音に隠れ、メイガスがつぶやくが、私に聞こえることは無かった。




「時間的にもうすぐ引き返したほうがいいでしょう」


 時計もないのにそう言うメイガス。

 やっぱり腹時計かな。

 私のお腹も凹んで来ているしね。


「なにを考えているのか分かりませんが、多分違いますからね?」


 私の表情から何かを読み取ったメイガスがそう釘を刺してくる。

 腹時計じゃないのか!

 じゃあどうやっているんだろう?

 全く予想がつかないけど、まあいいっか。


「じゃああと少しだけ探して見つからなければ帰ろっか」


 そう私は言うが、多分もう近くまで来て居ると思う。

 彼女はきっともうすぐ--。




 それから30分程だろうか。辺りを探していると私が描いた森の絵が光り出した。


 赤く、紅く。

 血が蠢くように、描かれた赤い果実を中心に脈動し紅く光る。


 森の中怪しく光る、獣の瞳のように--。


 メイガスもワーナさんも驚いていたが、私は驚きよりも先に、この光が大きく脈動するところに彼女が居るのだと、なぜか確信した。


 それは根拠もなにもない、荒唐無稽な勘のようなものだったが、幾ばくか移動してみて、赤い光が強くなった方に進んでみると、そこは見つかった。


 絵に描かれた風景と同じ場所。

 果実は既に全てちぎりとられ、無くなっていたが、はっきりとこの場所だと分かる。


 そこの中心で彼女は衰弱し倒れていた--。


 私たちはすぐさま駆け寄り、メイガスが彼女を抱え起こす。


「脱水症状のようです」


 メイガスは慌てながらも、冷静に状態を分析する。


「赤ぶどうを大量に食べてしまったのでしょう……。あれは少量なら良いのですが、大量に口にすれば、嘔吐などを引き起こし、脱水症状を誘発します……」


「それならば、これで気休めにはなるだろう」


 ワーナさんが彼女の体に水筒の水を振り掛け、魔力を通していく。

 振り掛けられた水が青く発光し、形を変えていった。

 最終的に入れ墨のように紋様が、彼女の肌に定着する。


「癒しの魔法の応用だ。体力を少しの間継続的に回復させるものだが、大目に魔素を入れておいた。しばらくは持つだろう。しかし時間が経てば……」


 きっと良くないのだろう。ワーナさんの魔法によって多少は彼女の顔色が良くなったように見えるが、まだ青白い。

 魔法が切れてしまえば、命も危ないのかもそれない。


「早く街に戻らなきゃ!」


 私は慌て、そう言った。


「ああ、そうだな。しかし私は大半の魔力をこの魔法に当ててしまって居るのだよ」


 そしてワーナさんは真剣な表情で私に続けて言う。


「ミズカ。代わりに君が道しるべの魔法を起動させるんだ」


 どうやって……そんな事を聞く暇も考える暇もない。


「そんな無茶な! ワーナ様なら魔力を4〜5メートル解放することなど造作もないかもしれませんが、見習いなど10センチも伸ばせれば上等なものなのですよ!?」


 魔力を解放する、伸ばす。

 ただイメージする。

 魔法はイメージだ。

 イメージを強固に、ただただ、強固にイメージする。


「それでも、やるしかないのだよ!」


「しかし! できるはずが--」


 ただ強固にイメージするんだ!

 不安になんて思っている暇などない!


 メイガスとワーナさんとの言い争いの声も、意識から追いやり、私はただ集中する。


「--!」


「--! --!」


 イメージするんだ。

 魔力の測定をした時のように。

 ワーナさんと訓練場でした特訓のように。


 魔力が私の体を駆け巡る。


 やったことなどない。

 時間もない。

 しかしやらなければ、彼女が--。


 彼女の想いも--。


 私は彼女の浅黒く、それでもなお美しい紅く輝く想いが嫌いじゃないんだ!


 --頭の中で何かがスパークするように煌いた。


 体の中で本流していた魔力がそれをキッカケに外へと爆発した。


 波のようにして魔力のオーラが私を中心に波紋となって広がっていく。


 その波は勢いよく広がっていき、どこまでも広がっていくようだった。


「な、なんですか。これは--」


「! 惚けるな! 私は彼女を担いでいく! お前はミズカを担いでいけ! 時間はないぞ!」


「どう言う……」


「良いから急げ!!」


 言いかけて、私を見るとメイガスはハッと硬直し、そして駆け寄ってきた。


 メイガスが私に辿り着くのと同時に私の意識が闇に落ちていく。


「まったく……無茶をして、あなたは……。帰ったら野菜を山ほど食わせてやりますからね」


 そんな声が闇の中、温もりと一緒に聞こえてきた--。


 それなら大丈夫だね--。


 そう可笑しく思ったのを最後に、私の意識は遠のいていくのだった--。


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