3.うわっ醜い顔! dy本心
宿へと着くと門番は、受付のおばちゃんになにやら説明を始めていた。
たまに門番とおばちゃんから哀しみの眼差しが飛んで来ている。
もうなんだっていうのだろうか。
野宿をしないために必死で先程まで気にしていなかったが、私のどこがそんなにも哀れみを誘うというのだろうか。
ヨレヨレな部屋着を身に纏い、金はなく、物もない。
ただそれだけだ。
なにこれ、泣いちゃいそう……。
「うぅ、ごめんよ? あたしゃこういうのに弱くてねぇ」
泣く前に泣かれてしまったよ。
どうすれば良い。どうすれば良いの? とアタフタしてしまう。
「気にするな。歳で涙もろくなっているのさ」
そう苦笑しながら門番はアタフタしていた私の頭に手を置いた。
大きな門番からしたら、私は子供のように感じるのかもしれない。
「とりあえず、簡単に説明して宿代は出しておいたから、おばちゃんが落ち着いたら部屋とか案内してもらうと良い」
「あ、はい。ありがとうございます」
「まあ、気にするな。こっちとしても妻への良い土産になるからな、お互い様だよ。おっと、俺はもう帰らんと妻に怒られてしまう。明日はまたよろしくな」
そう言って「じゃあな」と門番は手を振り、帰って行った。
私も振り返し再度お礼し頭を下げる。
その背後では『うぉん、うぉん』と唸るような泣き声が響いていた。
泣き止んだおばちゃんが私を部屋へ案内しつつ、軽い説明をしてくれた。
「トイレは裏庭の小屋で紙はさっきの受付で買えるよ。これはサービスにとっておきな」
潤んだ目で紙を数枚手渡してくる。今受付で買えると言っていた紙だろう。少々ゴワゴワしているが、擦れて痛いほどではないであろう質感だ。
「……ありがとうございます」
私にくれる前に、その垂れ流しになって入る鼻水を拭いたらどうだという思いが顔に出てしまっていたかもしれないが、有り難くもらっておく事にした。非常に助かります!!
「朝食は宿泊代に入ってるから、明日の午前中だったら一階でいつでも用意してあげるよ。大盛りにしてやるから声を掛けるんだよ!」
「それから、昼と夜は別料金になるんだが……。ふぐッ……なにも、食べてないんだろう? 今夜ぐらいは……ふぐッう、暖かいもん食っておきな。あたしの奢りだから」
おばちゃんは泣きながらの醜い顔が迫ってくると私の手を取り、両手で包み込むように握り締める。それを胸の辺りに持って行き祈るようなポーズで目を閉じた。醜い顔で。
すぐに手は解かれ、部屋の鍵が渡された。
醜い顔から目を逸らしている内に部屋へと到着していたようだ。
「親切にして貰ってありがとうございます。 すぐには無理かもですけど、このお礼はいつかちゃんとしますからね! 」
過剰な哀れみと同情に引いてしまうが、ここまで良くして貰っていることは事実である。
その分はきっちりお返しをしようと決意した。
それを聞いた。おばちゃんは、
「いいのよぉぉ、そんなこときにしなくたってぇぇ〜。うぉーん」
と、号泣し走り去ってしまった。
まだ色々と宿の説明などが必要な気もしたが、一通り聞けたとも思うし、まあいっかと気持ちを切り替える。
部屋に入り、すぐにベットで寝てしまう。
散々歩いて今日はもう疲れたよーー。