28.オーク商会との打ち合わせ
最近あまり書く時間を取れなくて、今回も短めですが楽しんでいただけたら幸いです。
少しずつ時間は取れてくると思うので、早く前みたいに1日1話で投稿できればと思います。
商会は魔法ギルドと近く、同じ通りにあった。
ここならばメイガスが迎えに来るよりも、ギルドで合流する方が良かったのではないかと思ったが、元々は飲食店の方へと先に行く予定だったそうで、そちらだとワーナさんの屋敷からの方が近かったとの事だ。
行く順番が前後してしまったのは、私たちが気持ちよく寝ていたからである。
昼過ぎの昼食どきに打ち合わせなど、出来るわけないよね、飲食店で。
そんなわけで、メイガスが屋敷を出る前にワーナさんの屋敷にいた小間使いの子に頼んで、打ち合わせ時間を遅らせて欲しい旨を伝えてもらっている。
まあそもそも、ギルドで合流って事にしていたら今頃大遅刻だっただろうから、メイガスが迎えに来てくれたのは不幸中の幸いだった。
「それでは簡単なイメージですがこういうのとかどうでしょうか?」
現在、私たちは商会の2階にある応接間で打ち合わせを進めていた。
大方の話はすでに聴き終っている。
依頼書にも書かれていた要望を少々細かめに説明されただけである。
その要望を反映させたラフを手早くスケッチし、商会の会長と会長秘書に見せると、えらく感心した風に頷いていた。
「いやいや、流石と言うべきでしょうか。こんなにも才能ある若いアシスタントを持っているとは、ワーナ様はどの分野でも卓越してらっしゃるのですね」
打ち合わせが開始してから、会長はワーナさんに対してのよいしょを繰り返している。
そんな事は良いから、イメージに合うのかどうかを早く言って欲しいものだよ。
「イメージは概ね良いのではないですか? あとは生い茂る枝葉よりも、巨木の頑丈さを際立たせていただく方向に調整して頂けるとよりイメージにあったものとなるのではと愚考いたしますが、如何でしょうか会長?」
私の心の声を汲み取ったわけでは無いだろうが、秘書が会長に進言してくれる。
メイガスに似て優秀そうな女性だ。
似てるって言ってもメガネな所が主だけど。
「うむ。そうだな。そんな感じが良いだろう。アシスタント君、そのようにしたものも描いて見てもらえるかな?」
会長は気軽に言って来るが、そうなんども細かく描かされるのも、うっとおしんだけどよな……。
「わかりました。因みにそれ以外の個所、例えば色味や文字の部分などは大丈夫でしょうか?」
ラフと言ったが部屋にある水差しの水を借り、魔法によって着色する形で描いていたため、色味の確認も出来るようにしていた。
そして、文字の部分というのはこの商会『オーク商会』の頭文字であるOのアルファベットの事であり、この紋章にはそのOが組み込まれている。
具体的には、Oを大地と見立てそこから大木が生い茂っているという感じだ。
濃いめの緑単色で仕上げてあり、紋章と言うよりかはロゴっぽい。
「そうですね。文字の部分はもう少し緩急をつけた線で単調にならない程度にして頂いて、色味はもう少々明るめが良いのでは無いでしょうか。悪いのですがこれで一度確認が出来ると助かります」
秘書さんはもう会長にお伺いを立てることもなく、要望を伝えて来る。
二度手間だもんね。面倒だよね。
と内心、若干の苦笑を抱いた。
「うむ、それでお願いしたい」
念のため会長の号令を待ってから、描き始める。
この会長、話すときは全部ワーナさんに向けてだけで、私とメイガスには振り向きもしないんだよね。
まあ良いんだけどさ。
それに服装がだいぶマシになったからか、会長からも秘書さんからも、同情の哀れむような目で見られないから、久々に気が楽だし。
そんな事を考えている間に、調整したラフが描き終わる。
「出来ました。こんな感じでしょうか?」
「ふむふむ」
とラフを見て頷きながら、会長は秘書にチラチラ目線を送っている。
実質秘書がこの件を取り仕切っているのかな?
優秀そうだし、実務は秘書が全部やっていると言われても驚かないだろう。
「ええ。こんな感じで良いです。はーそれにしても凄いですね……。この辺りのすり合わせがこんなにも早く済むだなんて。本当に助かります」
「うむうむ、流石はワーナ様とそのアシスタントですな!」
相変わらず会長はワーナさんへのよいしょを続けるが、ワーナさんは上の空で聞いていなさそうだ。
窓の外にいる鳥でも見ているんじゃないか?
あ、親鳥が雛に餌をあげているのを見て微笑んでる。
「いやいや、本当に素晴らしい、素晴らしい」
ワーナさんの微笑みを自分のおべっかのお陰とでも思ったのか、会長は気を良くして更におだて始める。
それにしても語彙が少ないな……。ほとんど素晴らしいしか言っていないし……。
「それではこれをベースに制作させていただきますね。よろしいですか? ワーナさん」
ワーナさんにお伺いを立てると、意識をやっと打ち合わせに返してくれたようで「んあ? ああ良いのではないか?」と返事を返してきた。
最後に秘書さんと最終確認で、細部を少しだけ詰めたあと、商会を後にした。
「そういえば、結局ラフはミズカが描いてくれることにしたのかね?」
飲食店への移動中にワーナさんがそう疑問を呈してきた。
「いえ? 描いてもらいますよ? あの場はあくまで簡易的に描いただけですから、最終的なラフはワーナさんにお願いします」
正直、遅刻のこともあり気が急いて忘れていただけなんだけどね。
うまく誤魔化せたかな?
でも--。
「でも、メニュー表のイラストと商会の紋章は話していた通り、ワーナさんにラフもお願いしますけど、屋敷の絵画は私がラフから描かせてもらえませんか」
「ん? それは良いがなぜ屋敷だけ?」
「お屋敷の件は昨日お話を聞いたらちょっと本気で描きたくなっちゃったんですよ」
そう理由を説明すると、ワーナさんはそのお話に興味が出たようで、飲食店に向かう道中はスミカさんとワフの物語をワーナさんに聞かせることとなった。
語り部はメイガスに任せたけどね。
私はやることがあったから。
改めてメイガスが語るその物語を聴きながら、スミカさんに贈る絵画のイメージを固めて置こうと思ったのだ。
脳内で昨日見た屋敷を思い出す。
構図は裏庭も含めるようにしつつ若干俯瞰した角度をイメージする。
裏庭ではワフが走り回っているのが見える。
スミカさんからワフの容姿も聞いていたので、ワフのイメージにも齟齬はあまりないと思う。
アングルを変えつつ、いろんな角度から裏庭と屋敷をイメージしてる間に、飲食店へと辿り着いていた。
グウ〜
着いて早々誰かのお腹が鳴る。
まったく誰だろうね! 恥ずかしいね!
メイガスは私を見てやれやれといった仕草をし、ワーナさんも私に向けて笑っている。
「ははは、せっかくだ見せてもらうだけでなく、味わわせてもらおうじゃないか」
そう言いワーナさんは店内へと入っていった。
私も「私じゃないですよ!?」と言いながらそれに続く。
ググ〜
お腹が再び鳴る。
あ、これ私のお腹の虫だね……恥ずかしいね……。
すぐには自分のお腹が鳴ったって気づかないことってあるよね……うん……恥ずかしいね……。
私は笑いを堪えるメイガスを恨めしげに睨みつつも、店内へと進んでいった--。




