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25.お屋敷訪問

 依頼にあったお屋敷は街の郊外にあり、20分ほど歩くことになった。

 この辺りは貴族や豪商などの富裕層が集まる区画であるらしい。

 どの住宅も広く、庭付きの住宅も多い。


 ワーナさんの屋敷も内側寄りの端っこではあるが、この区画に属した位置にあり、そのおかげで比較的歩かずに済んでいた。


 ギルドからだと、ほぼ反対側だから1時間は歩くことになりそうだったのでちょっとホッとした。


 屋敷は柵に囲まれ、入り口である門の前で使用人にメイガスが用向きを伝えている。

 使用人は所謂執事なのだろう。


 リアル執事だよ! 初めて見た!


 時折その使用人はわたしを見ては、眉を寄せたり哀れむような視線を向けて来たが、話が終わると屋敷の中に戻っていった。


 主人へ来訪を伝えてくるらしい。


「失敗しました……」


 使用人が戻ってくるまで待っている間、メイガスは珍しく落ち込んでいた。


「どうしたの? 珍しく落ち込んじゃって」


 メイガスはわたしに目を向けると、頭を振り肩を落とす。

 やれやれと言いたげな仕草である。


「あなたのせいなのですよ?」


「な、何がさ」


「その服。お客様に御目通りできるような物じゃないって自覚ぐらい持てるでしょう? それを失念していただなんて……」


「うっ」


 私も失念していたよ……。


「あまりにもその姿がお似合いなものですから、忘れていましたよ」


 皮肉を言われても返す言葉もない。


「でも、だって……これしかないし……」


 少々落ち込み俯いてしまう。


「はあ。今日はもう仕方ないので、このままでいいでしょう。事情は伝え、腕はピカイチだと説明したところ納得はしてくれたようですからね」


 ピカイチだと褒めてもらっていたことに、落ち込んでいた心が浮上してくる。

 くすぐったいような嬉しさがこみ上げて来ていた。


「しかし明日はそうも行きません」


 厳しめの声でメイガスは言う。


「片方は飲食店。もう片方は商店。どちらも客商売です。薄汚いガキを店内に入れたくなどないでしょうからね」


 言い方に棘はが、それもとびっきりに尖ってて毒が塗られてる棘があるが、言っていることに間違いはない。


「ワーナさんにでもお古を貸してもらって……と言うのでは部不相応ですね。服が豪華すぎてしまうでしょう」


 私もワーナさんの独特なセンスの服は着たくないので、無しの方向でお願いしたい。


「仕方ないですね……。私のお古を貸し……差し上げます」


「え、もらえるんですか? ちゃんと洗って返しますよ?」


「結構です。どうせもう着られない服ですから。返された方が困ります」


 そう言ってメイガスはそっぽを向くと「少女のに着せた服」とか「変な噂が立ったら」とかなにやら悪態をつぶやいている。


 色々あるのかもしれないと、私は簡素にお礼の言葉だけをメイガスに返した。




 程なくして使用人は依頼の主である令嬢と共に戻ってきた。

 挨拶もほどほどに済ませ、案内のまま屋内へと入る。


 このお屋敷のお嬢様である彼女はスミカと言う名で、質の良いワンピースをまとっていた。

 美人という程ではないが、整った顔立ちをしていて、年は20前後なのではないかと邪推する。


 そして、髪の色が緑だった。


 この世界に来てから様々な人が、ピンクや紫、水色などと言った髪色であることに直面して来ていたが、違和感を感じることはなかった。

 きっと、アニメの住人のような造形や塗りをしているからなのだろう。


 しかし、改めて考えて見てみれば凄いなあーと思ってしまい、静々とスミカさんの髪を見つめてしまう。


 どうしたの? と言いたげな表情で首を傾げる彼女。

 手元にはテーカップが握られており、その優雅さにたじろいでしまう。

 ちょうどテータイムだったとのことで、私たちもついでだからとお誘いいただき、お茶会と洒落込んでいた。


「あ、いえ。綺麗な髪だなーと思いまして」


「あら、そうですか? ありがとうございます」


 うふふと照れて微笑む姿も上品である。

 同じ貴族でも彼女より爵位の高いワーナさんなら「そうだろう。そうだろう!」と自慢げにふんすーと鼻を鳴らしていそうで、品は爵位ではないとしみじみ感じた。


「今日は私の依頼した件で、おいでになられたとか」


「はい、ご依頼をお受けになった絵魔師がアシスタントを雇いまして、そのアシスタントにも下見をするように言いつけられたのですよ。その為、突然で恐縮でございましたが、お屋敷を見せていただきに参りました」


 本題を切り出したスミカさんに、メイガスが丁寧に用向きを説明する。


「あら、そうなのですか。それですとあなたがアシスタントさんなのですか?」


「はい。まだまだ見習いの身ではありますが、精一杯お役に立てればと思いますので、よろしくお願いします」


「ふふ、頑張り屋さんなのですね。よろしくお願いします」


 スミカさんが幼子に向けるような微笑みを向けてくれる。


 哀れみで見られることの方が多い為に、あまり浮き彫りにはなって来なかったが、実はこのように少女に対するような扱いを受けることが多くあった。

 実年齢で言えば、すでに20代後半である自分にだ。

 そのことから薄々だが、私は自分の身体にある変化が起きたのでは無いかと考えていた。

 でも、あまり確認するのも躊躇われ、そのことは放置している。


 そして今もそのまま子供扱いされたことはスルーし、仕事のことだけを考えるのであった。




 スミカさんに描いてもらいたい構図を聞いて見たところ、お屋敷の外観であるとのことだったので、私たちは再び外に出ていた。


 門からは出ずに敷地内を周り、裏庭へとやってくる。


「ここが一番思入れが深いんです」


 スミカさんの声に哀愁が漂う。

 寂しげに眉も下がっている。


「どのような思い出があるんですか?」


「聞いても面白みのないお話ですよ?」


 先ほどよりも悲哀がこもった声だった。


「それでも構いません。少しでもスミカさんの思い出が絵に込められるように、聞いて起きたいんです」


「仕事熱心なんですね。ふふふ。それではお話ししましょうか……」


 幾分か悲しみの薄れた声音で、彼女は語り出した。


 それは貴族のお嬢様と愛犬、そして盗賊の物語--。

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