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21.初めての依頼(前)

 ワーナさんと受付の女性には呆れられてしまった。


 受付の女性がガラス板から手を離すと、纏っていたオーラが消える。


「こちらの読み込みも完了したので、ついでにギルドカードも取ってきますよ。担当は誰でしたか?」


 読み込みというのが気になるが、ギルドカードを持ってきてくれるらしい。

 担当というのはギルド登録をした際の担当者という事だろうか。


「登録の時に担当してくれたのは、メイガスです」


「あら、それでしたらちょうど良いですね。呼んできますので、少々お待ちになっていて下さい」


 受付の女性は立ち上がると、受付の敷居から出て2階へと向かっていった。


「なにがちょうど良いんだろう?」


「それは私の依頼の担当もメイガス君だからね。まとめて引き継いでしまえるからという事ではないのかな」


 ワーナさんが疑問に対し、推測を答えてくれる。

 でも私はその事よりも、メイガス君と言う響きに吹き出しそうになった。


「メイ、メイガス君とは、その、仲が良いんですか?」


 自分でもメイガス君と発音するのは、聞いている以上に笑ってしまいそうで、堪えるのが大変だ。


「なんだい、気になるのかね。彼の事」


 ワーナさんがニタニタと口角を吊り上げて行く。その表情が言いたいことはわかりやすく、下世話な事だろう。


「そんなんじゃないですよ。君付けが珍しかったので、仲が良いのかなって思っただけですよ」


「そう言う君だって、呼び捨てで仲が良さそうではないか」


 相変わらずニタニタといている。

 もう本当にそんなんじゃないのに……こういうのは、ちょっとめんどくさい。


「もう、そんなことはいいですから。結局仲が良いんですか?」


 少々不機嫌な声色になってしまう。


「ははは、そんなに怒るな。メイガス君は気が利いて仕事が早いからね。依頼を受ける時などは彼にお願いすることが多いのさ。まあ仕事での付き合いもそれなりに続いているからね。メイガス君と呼ばせてもらっているが、仕事だけの関係だけだよ」

「だから、安心したまえよ」


「そんなんじゃないんですって! もう!」


「ははは。そんなにホッペを膨らませて。ほれ」


 ワーナさんが「もう」の発音で膨らむ私の頬を突いた。


「お? なかなか触り心地が良いな。ふむこれもなかなか……おおー伸びる」


 さらに何度か突き、しまいには両頬を摘み引っ張っられる。


「ふぁにふるんでふか。ふぁめてふだはい」


 両頬を伸ばして戻してと散々に遊ばれ、ふがふがと抗議するも聞いてもらえない。

 数日の付き合いでもワーナさんが非常に子供っぽい所を持っている事には気づいていたが、現在のワーナさんは、楽しいオモチャを見つけた子供の感動した表情そのものである。


 押しても引いても離れてくれない。


 それならと、私もワーナさんの両頬を摘み引っ張った。


「ふぁ。はにをふるんふぁい、ひみは」


「じふんふぁらやってほいて、ふぁにいってふんでふか」

「おはいしですよ。ほ? すほしはたいですね。ほうして、もみほふせばやわらはくなるんふぁないでふか?」


「ほうなのか!? ひょうからためひてみよう!」


 頬を引っ張り合い、ふがふがと会話を続ける私たち。

 そんな私たちを奇異の目で、周りの人々が遠目に見ていたが、彼らにはこの会話が理解で来ているのだろうか?

 なぜか、このふがふが会話で通じ合っている私たちは、この状態を続け頬を引っ張り合っていた。




「なにしているのですか……」


 出来れば話しかけたくなかった、しかし仕事なのだからそうもいかない。と言うメイガスの心の声が聞こえて来そうな、ため息交じりの言葉だった。


 結局メイガスがやってくるまで引っ張り合っていた私たちの頬は、ほのかに赤くなり始めていて、少したるんでいる気がした。


「なんふぇもないですよ。メイガス君」


 ニヤニヤと言ってやる。

 ふがふがの名残が出てしまったのはご愛嬌だ。


「……」


 あ、ものすごく嫌そうに、こっち睨んでくる。うんちょっと本気で殺気って物が感じ取れるかもしれないってぐらい、眉間にシワを寄せて睨みつけて来ている。

 そんなに嫌だったのか……笑える……。


「……」


 メイガスが何かを言いたげに、尚も睨んでくる。

 私は内心でご機嫌よくぷすぷす笑ってやる。

 表面上はニタニタ笑ってやった。


「ほら、やっぱり仲が良いのではないか」


 ワーナさんの一言でご機嫌だった私の気持ちはどこかへと行ってしまう。


「そんなことありません!」


 私は否定の言葉を叫んだ。

 メイガスは「ふん」と不機嫌そうに顔をそらす。


「そんなことより、本題に入りましょう。ワーナ様は依頼のご確認、あなたは……やっとギルドカードの事を思い出したアホの子ですね」

「ここですと、邪魔になりますし、2階の応接間で行いましょうか」


 いつもの無表情を取り繕うとメイガスはそう言い、さっさと歩き出してしまう。アホの子という時だけニタニタとした表情を向けてきていたが。


 アホの子ということについてはなにも言い返せないけど、ワーナさんは様付けで、私にはニタニタって、この対応の差はギルド職員としていかがなものなのだろうか。


 そう不機嫌に思いながらも、メイガスの後を素直について行った。

 後ろからはワーナさんが、


「やっぱり仲が良いではないか……」


 と呟いたのが聞こえて来た気がするような、しないような……。




 応接間に着くと、メイガスは部屋に用意していた書類などを広げて行く。

 こう言うところがワーナさんの言うメイガス君の、気が効き仕事が早いと言う評価に繋がっているのだろう。

 無駄なく物事を進められると言うのは、それだけである程度、優秀さを証明するものだと私も思っている。


 メイガスは最後にガラス板を、ポケットから取り出すと私にわたした。


「依頼を受ける際に必要になります。失くしたり、もう忘れたりしないようにして下さいね」


 一言余計だと思うのは、私だけだろうか?


「もう忘れないですよ!」


「そうして下さい」


 私とのやり取りを終えるとメイガスは、ワーナさんに向き直る。


「ワーナ様は依頼のご確認と言う事ですが、どちらの依頼でしょうか」


「絵魔職の依頼で、主に絵を描いて欲しいと言う内容のだな」


 ワーナさんが答えると、メイガスは広げていた書類のうち、3束を残しその他の束をしまった。


「それでは、こちらの3件ですね」


「ふむ。ありがとう」


 メイガスから差し出された3束の書類を受け取り、ざっと中身を確認して行く。

 確認し終わったものから、こちらに渡して来るので私も内容を確認させてもらうこととする。


「うん。問題なさそうだな。これらの案件についてミズカにアシスタントを頼もうと思っているのだが、良いかな?」


「はあ。こちらの依頼などの契約内容でしたら、問題はないでしょう。また、見習い期間の仕事としても、妥当だとは思いますが……」


 メイガスはそこで言葉を止めると、私を見つめて来る。

 あ、なんか失礼な事考えてそうな気がする。


「ん? 何か問題でもあるのかい?」


「いえ、問題というほどのことではありません」


 メイガスは首を振りそう応え、その先を続ける。


「ただ、アシスタントへの報酬は決まっているのですか?」


「ああ。決めていなかったが……そうだなぁ。半々で良いだろう?」


 ワーナさんは私に話を振って来るが、良いわけがない。

 メイガスも何かを言いかけていたが、それよりも早く私が声をあげた。


「はあ!? 良いわけないですよ!? アシスタントと行っても私が手伝う範囲も決まってないですし、この辺りの相場がどうかわかりませんが、少なくとも半々は私がもらいすぎです!」


 メイガスは私の言葉でなにかを言いかけ開いていた口を閉じ、真剣な眼差しを私に向ける。

 もらいすぎだと怒られるとは思っていなかっただろうワーナさんは驚きにたじろいでいた。


「この内容なら、私が全て描き切らないと半々の金額に該当しないんじゃないですか? それだともうアシスタントではなくなってしまいますし、あくまでアシスタントとして雇うということであるのなら、背景やラフといった一部の着手と考えて全体の2割〜3割といったところじゃないですか?」

「こういうのって私が知る限りでは、依頼者が紹介料や仲介料に4割前後持って行くのが相場だと思っていたんですけど、この辺だと違うんですか?」


 散々に講釈を垂れた後であったが、ここは私のよく知る世界ではなく、全く知らない世界だったことを思い出し、常識が違うのかもしれないと、最後にメイガスへ確認をしてみた。


「そうですね。この辺りですと、紹介料や仲介料、つまりマージンですね。これの相場は大体3割前後と言ったところです」

「ミズカさんの仰る4割と言うのは少々高めですが、まあよくある範囲ですね」


 メイガスの言葉で、私の言ったことが的外れでないことがわかり安堵する。


「そんな訳で、半々でと言う申し出は嬉しいですけど、しっかりと相談もしてないのに、適当に決めちゃダメです。私の方で見積もりを出してあげますから、ワーナさんの希望を聞かせて下さい」


「う、うむ。わかったのだよ。全く……久々に怒られたと思えば、理由がもらいすぎとは……世はまだまだ不思議に満ちているのだなぁ」


 こうして私は、ワーナさんとのヒアリングを開始した--。


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