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18.事件の真相2

会話文ばかりで単調だったので、地の文も少し書き加えました。

 珍しく早朝に起きた私は、誰にも声をかけずギルドまで来ていた。

 ワーナさんとの約束は昼過ぎだったが、それまでに済ませて起きたいことがあったのだ。

 昨夜悩み、結局答えは出なかったが、取り敢えず出来ることをしようと考えて。


 出来ること、それは--。




「メイガス。あなたの悩みを解決しに来てあげたよ」


 かなり早い時間だった為、ギルドもまだ準備中であったが、気にせず中に入りメイガスに声をかけた。


 メイガスは困惑しながらも、迷惑そうに。


「なにを言っているんですか? まだ準備中です。出てっ--」


 て下さいと続く言葉を、上から塗り潰し私は言う。


「悩みの失踪事件」


 それだけでメイガスの態度はガラリと変わった。


「とりあえず、こちらに来て下さい。二階の応接室……。いえ、私の執務室で聞きましょう」


「へぇ。自分の執務室なんて持ってるんだぁ。意外とえらいの?」


 2階へと続く階段を上るメイガスに私もついていく。


「ふん。ヒラですよ。ただ良いように使われているだけのね。少々面倒な案件を押し付けられてしまったので、せめてその間だけでも集中できるようにと、執務室を借りてるだけです」


「ふーん」


「それも今日までだったんですがね」


 そう話す間にも執務室に着き、メイガスと私は中へと入る。

 メイガスは後ろ手に扉の鍵を締めると、早速切り出して来た。


「それで、どう言うことですか? 悩みの失踪事件と言うのは」


「タヌキ警備隊長がいらんことして、悩んでいるんでしょう?」


「……なんのことですか?」


「あれ、違ったんなら違うで良いんだけど。失踪事件の犯人たちを追い詰める為の計画を立てていたんじゃないのかな?

「それでそれを警備隊長に邪魔された」

「でも警備隊長が犯人たちと繋がっている証拠もないし、犯人たちが人身売買をしている証拠もない。さらに終わった事件を蒸し返す権限もないと」

「しかし犯人たちは確かにいると確信もしている。このままでは犯人たちは逃げてしまう。そしてまた今回のように、どこかで失踪する子供達が増えるかもしれないと、そう悩んでいる」

「違った?」


 メイガスの眼を見ながら語る。


「……」


 メイガスは表情を消し、押し黙ったままだ。


「まあ、先に確認しなきゃいけないこともあるから、そっちから確認しようか」


 私の推測は夢の出来事が基本である。そのためまずそこが本当にあったことなのか、それを確認する意図もあり、メイガスがまとめた書類で見た内容を話して言った。


「--と、こんな内容だったかな? どう? あってる? 違ったら私のただの勘違いってだけになっちゃうんだけど」


「あなたはいったい……それをどこで……」


「それは、まあ置いといて。あってるって事で良いんだよね」


「それだけ知っていれば、もう惚けてもなんの意味もないでしょう。その通りです」


「それともう一つ。口だと判断しずらいから、ペンと紙を貸してもらえる?」


「そこにあるのを好きに使ってください」


 メイガスが指差す作業机に置かれた、ペンと紙。きっと事件が解決された後もここで調べ直し、どうにか出来ないかと悩んでいたのだろう。

 事件について書き殴ったものが散乱している中、まだ白紙のものを選び、私は簡単にイラストを描いていく。大まかな特徴がわかれば良いので、ざっくりと素早く描いた。


「それは?」


 怪訝そうにメイガスがイラストを覗き込み、尋ねてくる。


「私が偶然目撃した怪しい人物です。犯人だと思うのですが、あなたが調べた犯人の特徴と比べて間違いないですか?」


「……フードについたシミや、この右手の指輪、私が見たものと酷似しています……」

「とは言っても、だからなんだと言うのですか? 事件は終わった。あなたの言う通りです。もう私にはどうすることもできません。それなのに、あなたになにができるって言うのですか」


「いやいや、特にできる事はなさそうなんだけどさ」


 そこまで言うと「はあ?」と今にも怒り出しそうになるメイガス。


「なさそうだけど、とりあえず一つだけ。言ったでしょ。あなたの悩みを解決できるかもしれないって、今抱えてる悩みだけなら簡単に解決できるんじゃないかなーと思っているんだよ」


「なんですか! それは! 意味がわかりませんよ! 結局なにができるといいたいんですか!!」


 メイガスの言葉に怒気が混じり始る。

 常に無表情か貼り付けた笑顔の仮面に隠された、その顔は初めて見る本当の顔なのだと感じられた。


「あなたの勘違いを、事件の本当の真相を教えてあげられるかもしれない」


 そう真剣にメイガスの眼を見つめて言った--。




「かん、ちがい?」


「そう。メイガス。あなたはいくつかの勘違いで、本当の真相にはたどり着けていないんだよ」


「それは……どう言う事ですか?」


「あなたは警備隊長が犯人たちと繋がっていると考えているようだけど、そうじゃないんじゃないかな?」


「はっ、警備隊長が実際に事件を解決したとでも言うつもりですか? ありえませんね」


「どうして?」


「誘拐された子供達は今頃海の向こうの筈です。それが隣街で見つかったなどあり得ない」

「あのタヌキが手を回して偽装したのではないですか? だいたい犯人がいないなどとそれこそあり得ないのですから」


 警備隊長への憤りを押し殺し、冷静さを装いながらも、そう言うメイガス。


「まず一つ目の勘違い。警備隊長は確かに事件を解決してはいないけど、子供達を見つけたと言うのは本当だと思うよ。そもそも偽装したってすぐばれちゃうでしょ。そんなの」


 私は人差し指を立て、言う。

 続けて中指も立てる。


「そして二つ目。まだ子供達は全員国外に出されているわけではない。少なくとも隣街の失踪者は10人、いや11人か国内に残っているよ。もしかしたら残りの子達もまだ国外までは、行けてないかも」


「なにを言って……」


「犯人たちはさ。きっと誘拐した子供達をすぐに国外に出すのは危険だと思ったんだよ。だから一先ず隠しておくことにしたんだ。コークの失踪者はサイーダにサイーダの失踪者はコークに」


「そんな事してなんの意味があると言うのですか、それに隠している間に逃げられでもしたら、犯人たちにとってはより危険ではないですか」


 もっともな疑問である。

 しかし--。


「逃げられないんだよ。その子たちはね……だから犯人たちも安心して隠しておける。そして隠しておく意味だけど、これはタイミングを見ていたんじゃないかと思う。警戒がより弱まるタイミングをね。推測だけどさ」


 私はそこで一息の間ほど、思考し、


「商品は逃げないって保証があるんだから、一番安全な時に行動したいんじゃない?」


 そう続けた。

 しかし、当然といえば当然。メイガスは納得いかないようだ。


「逃げられないって、なぜそんな事がわかるのですか」


「それについては、もう一つの勘違いを正してからにしようか」

「まあ、勘違いというか見落としかな?」


「見落とし?」


「うん。メイガスがまとめた書類には、失踪者の両親の職もまとめてあったよね」


「それがなにか?」


「その両親の職には類似性があったんだよ。

 1つ、職を持つ親は片方のみという事、2つ、その職も1種類のみである事。

 これらからから推測されるのは彼らが、スラムに引っ越すはめになる一歩手前だったんじないかなってことなんだ」


 そこまで言ったところで、メイガスがハッとなる。


「な、それはつまり……」


「うん。気づいたようだね。ギルドの職員だもんね。本来ならすぐに気づけたと思うけど、初めから誘拐事件だと思っちゃってたから、見落としちゃったんだね。きっと」


 メイガスは頭のいい人だと思う。だからこそ固定概念が生まれてしまうとなかなか気づけないのかもしれない。


「世帯で働いているのが1人で、職種が一つしかないって、よっぽど高ランクじゃないと家族みんなを食べさせていくのも、キツイんじゃないかな。だってギルドで出す依頼はランク制限と、職種の制限がつくんでしょ? そんな状態で低ランクだったら依頼の数なんてたかが知れてるでしょ」

「それにさ、何より職種が1種類だけだよ? 2種目を登録するだけのお金すら余裕がないって事なんじゃないのかなって思ったんだ」


 そこまで一気に語り。


「つまり、彼らの共通点は貧乏だったって事だよ」


 結論を提示した。


「……確かにそうかも知れません。確か彼らはほとんどがEランクであった筈ですしね……」


 メイガスが思い出すように言う。何も見ずにすんなりと言うあたり、事件に関与した事は粗方覚えてしまっているのかもしれない。


「あなたが言いたい私の勘違い、見落としというのは……お金にした、という事ですか……」


 やっぱりメイガスは頭の回転が早いと思う。

 1から10、全てを言わなくても気づいたのだから。


「そう。自分の子供を売ってお金にしたんだ。これが一番大きな勘違い。人身売買はすでに行われていたんだよ。親が子を売るって形でさ……」


「私が考える本当の真相はこうだよ」


「生活に苦しく、借金をして食いつないでいた家族たちに、犯人たちは人身売買の話を持ちかける。きっと借金をした相手なんじゃないかな、その犯人たちが」

「そして犯人たちはコークの街の子達をサイーダに、サイーダの子達をコークにそれぞれ隠した。親たちの目の届かないとこに隠したかったんだと思う。もし親が変な気を起こして取り返そうとでもしたら、面倒だったから」

「子供は売られた事を理解しているため、逃げようとは考えなかった。逃げても帰るところなんてないと思っただろうし、隠されていた場所も、そう悪くない環境だったからなんだろうね」

「タイミングを見て、子供達を数人送り出したのは比較的最近なんじゃないかと私は思っているんだけど、これに関してはほぼカンかな」

「とにかく、そうやって少しずつ子供達を送り出し、国外で売る。それが犯人たちの狙いだった」

「けれどメイガスの通達のお陰でこれらは、阻止される筈だったんだよ。警備隊長が出て来なければ、ね」


 警備隊長の名前が出たところで、それまで黙って聞いていたメイガスが疑問を口にした。


「そういえばあのタヌキが犯人たちと繋がっていないと言っていましたね。しかしこれでは繋がっていた方が自然ではないですか?」


「それだったら、そもそもギルドに依頼なんて出さないでしょ。バレたらヤバイんだしさ」


「それならなぜ、タヌキは犯人はいないなどと言って、事件を終わらせようとしたのですか」


「そこはギルドからの返金が目的だったんだと思っているよ。それと、名誉欲かな? 事件解決って言う」

「警備隊長はただ偶然に、子供達を見つけ彼らが誘拐された訳では無いと思ったんだ。一応元々調査はしていた筈だからね。彼らの家庭が貧乏である事を思い出し、子供達を出稼ぎに向かわせたとでも思ったんじゃ無いのかな。

 見つかった場所は多分宿だったんだろうし……」

「警備隊長は本当のことを言っていたんだよ。子供達は見つかったが、雇われているから帰らないって」

「ただし、雇われてるってのだけは警備隊長の勘違いなんだけどね」


 そう言い私は苦笑する。


「でもこのせいで、事件は解決されたことになってしまい、メイガスの計画は頓挫。

 警備隊長は自覚のない隠れた犯人たちの協力者、っていうところかな」


 迷惑なものだよね。と嘆息し、棚にあった水差しでコップに水を注ぐ。

 メイガスにも注いでやり、一緒に一息つく。


「子供達が宿にいるというのは、どう言った根拠ですか?」


「経緯はわかんないけど、取引があったんだと思う。犯人たちにとっては、商品が寝泊まりできるから消耗をへらせて、警備隊長が勘違いしたように雇われているということにしておけば、最高の隠れ蓑にもなる。宿側からすれば預かっている間タダ働きさせられる労働力が手に入る。宿側がどこまで知っているのかはわかんないけどね。ただ薄々は気づいているよ。きっと」

「あと、これが一番の根拠だけど、サイーダの失踪者が私の泊まってる宿にいるから」


「はあ!?」


 なんだそりゃと、メイガスが驚きの声をあげた。

 その素っ頓狂な声は滅多に聞けるものではないのだろうなと、私は可笑しくなってしまう。


「はは、念のために宿に雇われている子に名前聞いたら、トーカちゃんっていう子だったんだ。サイーダの失踪者に同じ名前があったから、これでほぼ確定だと思ったんだよ。さらに宿にいる子の人数も"今は"10人て言っていたから、増減しているってことだよね」


 私は"今は"と言うところを強調して言った。

 "今は"という事はつまり、元々は10人じゃなかったと言う事だ。


「それとさ、多分だけど、犯人たちはまだ自分たちが一度は追い込まれていたことを知らないんじゃないかな」


「なんでですか?」


「だって、警備隊長と犯人たちが繋がっていないのなら、犯人たちはそれを知る機会がないじゃない」

「まあ、なんだかんだ言って、全部推測だけどね。これで少しは悩みが解決しそうかな? どうかな?」


 と一連の話を私は締めた。

 メイガスは何か考えるように、目を閉じ黙っている。


 そして、少しの間をあけて、目と口を開く。


「検討の余地は十分にあると思います。少なくとも悩んでいないで、行動しなくてはと思うほどには」


 メイガスの目には、わずかにでも希望が見え始めているのだろうか。

 ギルドに着いたばかりの時は、疲れ切った目をしていたのに、今はどこか力強さを取り戻してきているように見える。


「そっか。なら良かったよ。私にはここまでが限界だったから。この先の事は私にはどうもできないからさ……」


 そう、私ではこの事件を本当の意味で解決する事は出来ないし、この後どのように行動するべきなのかもわからないんだ。


 だからそれはメイガスに丸投げしちゃうことにしたよ。


 無責任かもしれないけど、そもそも責任なんてない訳なんだしね--。


 きっと、また悩んじゃうんだろうなぁ。メイガスは--。


 そう気の毒に思いながら、私は執務室を退室した。



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