16.魔法発動と誕生日
気になる言い回しが多かったので、多めに改稿しました。
今後の展開に影響はありません。
次回の投稿時間には影響ありです;
ちょっと遅くなっちゃうかも;
「さて、ミズカもなにか魔法を描いてみようか」
ワーナさんが私に促した。
「なんか決まった物だったり、描き方とかはあるんですか?」
「いや、特にはそういうものはないよ。好きなものを好きなように描き、イメージしてやればいい。ああ、でも食べ物を具現化しても食べられないからな? 食っても味がせんし、一定時間で消えてしまうから腹にもたまらなかった。虚しいものさ……」
「ああ、食べて見たことがあるんですね……ひとまず、なにを描いてもいいのなら、こう言うのはどうでしょう?」
そう言って私が描いたのは猫である。ささっと描いたのでデフォルメが強めだ。
国民的アニメのタマぐらいだといえばわかるだろうか。
「おぉ! 早い上に上手いのだな! しかし、動物か。私も描いてみたことはあるが--」
これぐらい今時の専門学生でもかけるとも思うんだけど、褒められて悪い気はしないかな。ふふん。
それで肝心の猫ちゃんは……おおータマが動いてる!
その場でタマは毛繕いを初めていた。その姿に数秒の間なごんでいると、次第に身体が透けて行き……。
「あ、消えた」
もうその場には、タマの姿は一切なくなってしまっていた。
「と、こうなる訳だ。込める魔力量によって持続時間は伸びるんだが、私でも1時間ほどが限界だったのだよ。ペットが出来たと喜び可愛がっていたのに、消えてしまい私は絶望したものさ」
「そうなんですか……ちょっと残念ですね……」
上手くいけば、好きなアニメのキャラとか具現化して、愛でられるかと思ったのにな……。でも私でも頑張れば数分ならいけるか!?
今度試してみようかな……。
「まあ、私の時は動きもしなかったのだから、君の画力とイメージ力は凄いものなのだな」
「それって画力とイメージ力が関係あるんですか?」
「ああ、関係するとも。具現化される対象のリアルさは画力に影響され、動作はイメージによって決まるのだよ。あの猫の動きは、両方が高い水準になければ、ああも動けなかっただろう」
「へぇー」
そうなのか~。
と言うか、今更で全然関係もないが、この人動かない動物を1時間も愛でていたのか……。
それで消えたら絶望って……変人ランクたけーな、おい。
いや、ほんとどうでもいいんだけどさ。
「あといくつか試してもらったら、今日はお開きにしようか」
「はい!」
今度はワーナさんに指定された物を描き、一般的な魔法、ファイアーボールやサンダー、ウォーターショットなどを習い、その日はお開きとなった。
次回は明日また昼頃にギルド集合とのことだ。
ワーナさんと別れた後私は、門番さんのところまで来ていた。画材を返すためだ。
「門番さん! これお返ししに来ました! 本当はキッカちゃんに直接渡せれば良かったんですけど、お家の場所聞いてなかったので……」
「おお! わざわざすまないな! その辺に……いやこの後予定ってあるか?」
門の前で手渡そうとした画材を、門番さん受け取らずにそんな事を聞いて来た。
「え? ないですけど?」
「そうか。ならちょうど良い。実は今日が娘の誕生日でな。良かったら一緒に祝ってやってもらえないか? そうすれば直接渡すこともできるだろう?」
と提案して来た。答えはもちろん決まっている。
「是非!!」
「そうか。じゃあ仕事が終わるまであと少し時間がある。終わったら一緒に帰ろう」
「はい。わかりました。終わるまでその辺で待っていますね」
と街の外の平原を指差し言った。
なにして暇つぶしていようかなぁ。と考え、ある事を思いつく。
「門番さん! ちょっとご相談が!」
「なんだ? 突然に」
「いえね、こう言うのはどうかなーと思いまして」
私は思いついた事を門番さんに話してみた。
「それはいいな! 是非お願いしたい!」
門番さんにもOKをもらえた事だし、待ち時間を有効に使おうかね。
そして私は門番さんの仕事が終わるまで、ある事をして過ごすのだった。
門番さんのお家は、門から割と近い位置にあった。通勤が楽そうでなによりだ。
まあ、元の世界での私の通勤時間は0秒だったんだけどね! ふ、勝った!
「ただいまー。帰ったぞー」
と門番さんが玄関扉を開け中に入っていく。
私も後に続いて入り、靴を脱ぎ……門番さんが土足のまま中を進んで行くのを見て、履き直した。
改めて内装を見れば洋式の作りになっている。よくよく考えれば土足厳禁などと言った和風の作りの方が珍しいのだし、当然とも思えた。
これまでの寝泊まりは、おばちゃんのとこの宿しかなかったので、考えが及ばなかったのだ。宿が洋式って元の世界でも普通にあったしね。宿では気にならなかったんだよね~。
さて気を取り直し。
「お邪魔します」
友人の少なかった私である。他人のお家に上がる機会などほとんどなかったため、少々緊張してしまい小声になってしまう。
それでも、門番さんの声でやって来たマリーさんは私に気付いてくれて。
「お帰りなさい。あなた。あら、ミズカさんもいらっしゃい」
と微笑み出迎えてくれた。
料理中だったのだろうか、エプロンを身につけている。
「俺のところまで、画材を届けに来てくれてな。それで良かったら一緒にキッカを祝って貰えないかとお願いして来てもらったんだ」
「そうだったんですか。それはわざわざありがとうございます」
「いえいえ、そんな。私も直接画材をキッカちゃんに返したかったですし……でも、ご面倒をお掛けしちゃはないですか? 勢いもあって来ちゃいましたけど……」
「ふふふ。そんな事気にしなくても良いんですよ。来てくれただけで、私もとても嬉しんです。おもてなしもあまり出来ずに申し訳なのだけれど、私はまだ食事の用意がありますので、キッチンに戻りますね。ミズカさんはどうかゆっくりしていってくださいな。」
「キッカー。キッカー。ミズカさんがお祝いしにいらしてくれたわよー」
マリーさんはそう言って、キッカちゃんを呼ぶとキッチンに下がっていった。
「まあ、気楽にくつろいで行ってくれ」
と門番さんも自室なのだろう部屋に入って行ってしまう。
それと入れ違いになるようにして、ドタドタドタと奥の部屋から、キッカちゃんが走って来て、
「お姉ちゃん! いらっしゃいなのです!」
と抱きついて来る。
「キッカちゃん! お誕生日おめでとう。今日は特に可愛いね! お姫様みたいだよ!」
キッカちゃんを抱き締め返し、褒めちぎる。
お誕生日だからか、特別に着飾っているようで、フリルが多くあしらわれた、可愛らしいドレスを身に纏っていたのだ。
「えへへ。嬉しいのです!」
と、キッカちゃんはとても喜んでくれていた。
その後は門番さんが「料理の準備が出来たようだぞー」と呼びに来るまで、私はキッカちゃんの部屋でキッカちゃんと一緒に遊んでいた。
ちょっとしたおままごとのはずだったのだけれど、熱が入りすぎてしまい、なぜか魔王退治の冒険譚に成り代わってしまっていたのだけれど……。
魔王が通じたと言うことは、この世界にはそう言う存在がいるってことなのかなぁ。
「今日はお客様もいることなので、ちょっと張り切って見ました!」
ダイニングに入ると、マリーさんがそう言って出迎えてくれた。
私たちは3人揃って、「おぉ!」と感嘆の声をあげてしまうほど、目の前の料理は豪華で美味しそうだった。
……もやしじゃない!! ちょっと涙が出そう……。
それから4人で食事をしながら、たわいもない話、主に今日の主役のキッカちゃんの話で盛り上がった。
笑って、美味しくて、温かくて、温かくて。優しい空間がそこに広がっていた--。
「キッカ。おめでとう。これはパパからのプレゼントだ」
「私からはこれをあげるわ。キッカちゃんお誕生日おめでとう」
食事も終わったところで、マリーさんと門番さんは各々プレゼントを取り出し、キッカちゃんに渡していた。
似顔絵はイレギュラーだったと言うことで、本来用意していたプレゼントもあったようなのだ。
門番さんからはぬいぐるみが、マリーさんからはネックレスが手渡される。
「わー。ありがとうなの! パパ! ママ! 大事にするの!!」
キッカちゃんは大喜びだ。
「キッカちゃん。改めてお誕生日おめでとう。これ良かったら受け取って?」
私もマリーさんと門番さんに続いてお祝いし、一枚の絵を手渡した。
「これって……キッカとママとパパなの……」
私からもプレゼントがもらえるとは思っていなかったのだろう。とても驚いているようだった。
「うん。昨日描いた似顔絵には門番さんがいなかったから、家族みんな揃ってる絵をプレゼントしようと思って」
門番さんを待つことになったあの時、門番さんに提案していたのはこの事だ。
門番さんを待っている間に、返す予定の画材を借りてこの一枚を仕上げていたのだ。
あの門の外に広がる草原で、家族が楽しげにピクニックをしている風景が、その一枚には収められている。
キッカちゃんは水彩画が好きなようだったし、気に入ってくれるかなと思って用意して見たのだが……。
キッカちゃんは絵を見てから俯いたまま、押し黙ってしまっている。
「どうしたの? なにか気に入らないところとかあった?」
不安になり、私はキッカちゃんにそう聞いた。
「ううん、すっごく嬉しくてね? すっごくびっくりしちゃってね? すっごーく嬉しいの!!」
そう言うキッカちゃん表情は、笑いながらも目元には涙が滲んでいた。
「嬉しくて、嬉しくて。なんでか泣いちゃいそうなの。 お姉ちゃん、素敵な絵をありがとう--」
私は何も言わずキッカちゃんを抱きしめた。
イラストレーターになってから初めてかもしれない。自分の絵でこんなにも人の感情を動かすことができたのは。
思い出す事が出来た。イラストレーターになる前、好きで描いていただけの絵をおばあちゃんにプレゼントした時、とても喜んでくれた事を。
私はこの時初めて、この世界へ来てしまった事に感謝した--。
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