15.魔法の威力-初級
タイトルの初級ですが、中級、上級があるかは未定です。
※毎回新規に投稿する前に、一つ前の話を見直し、誤字やちょっとした言い回しなどを修正しています。
今回も見直し、いつもより少し多めに直してあります。
17/12/28
一般の人の月の収入が、銀貨10〜15枚
↓
一般の人の月の収入が、銀貨100〜150枚
に変更しました。
見直したら0が一つ少なくてびっくりしました;
ワーナと名乗った彼女は所謂貴族というものであり、この辺り一帯を治める領主の娘とういう事であった。
自由奔放で、変人として有名でもあると彼女を待っている間、係員に聞いた。
「変人ではありますが、悪い方ではありません。彼女に引率していただけると言うのは、中々に幸運な事だと思いますよ? なにせ魔法職の総合ランクでA級と言う国内でも数少ない人たちの1人なのですから」
係員はそうも言っていたが初対面の時点で、運が悪かったのでは? とその言を疑い始めていた。
実力者の変人よりも程々の常識人に引率してもらった方が、運が良いように思えたのだ。
因みに魔法職の総合ランクとは、一つの職に対する評価ではなく、複数の職に就いている者の総合的な評価ランクだと言う。
ギルドは主に魔法職に対する依頼などを行うが、依頼を受けるには必要ランクが設定されていることと別に、魔法職が指定される場合が多いらしい。
そのため、内容的には問題なく達成出来るのに、指定の職でないため受けられない。というようなことを避けるため、技能や余裕があれば複数の職に登録する者がほとんどだと言う。
余裕というのは、お金のこと。
登録のたび登録料がかかり、しかも登録数が増えるたびに費用は倍に増えるんだと。職を三つ登録しているものがいれば、その人は第一職に銀貨2枚、第二職に銀貨4枚、第三職に銀貨8枚、合わせてギルドに銀貨14枚払っていることになる。実にがめつい事だ。
まあ、職を登録されまくり職を分けている意味がなくなってしまうよりかは良いのかもしれないが。
そんな訳で、そう言った複数の職を登録している人たちは、それぞれの職に階級が与えられており、それとは別に総合的な評価として、総合ランクがつけられていた。
具体的には、
第一職がBランク、
第二職がEランク、
第三職がCランク
だった場合、総合評価はDになるらしい。
平均値で決めていそうなのだが、細かい総合評価の設定基準は教えてもらえなかった。
職が一つしかない場合、総合ランクはつかないとの事で、そのことからワーナさんの総合ランクAと言うのはすごいのがわかる。ワーナさんの職数は7つ。凄さの桁が一つ上がるというものだろう。なにせ7つの職でほぼ全て高ランクをマークしなければいけないのだから。
私としては、登録料に銀貨254枚も払っているのか……と、そちらの方が驚愕であったが。
係員さんが一般の人の月の収入が、銀貨100〜150枚程だと言っていたので、そのほぼ2倍なのだから。さすがは貴族というこのなのだろうか?
まあ、確かに質の良さそうな物を着ている。自分のボロい寝巻きと比べるのも馬鹿らしいほどの装いだ。
また、宝塚にでも入れそうな程美しい顔立ちと気品も感じられなくもない。
見た目の総合評価としては、ベルサイユの麗人級であると言えよう。
でも、私。これが貴族だとはとても思えないんだけれど……。
髪は寝癖でボサボサ。質の良さそうな服は絵の具ですんごく汚れてるし……。
係員さんに聞いていた話と目の前のワーナとを比べそんなこと思っていた。
現在私は、自己紹介も程々にワーナさんに、修練場へ連れてこられている。修練場はギルドの裏にある広場で、魔法の訓練や研究の場として解放されているところらしい。
「まずは、この修練場で魔力の扱い方や基本を学んで貰うらしいのだよ」
修練場に着くとワーナさんはそう説明してくれた。
らしいってなんだよ……。
「とは言っても、私は元々習わずとも魔法を使えていたからね。引率でもこういったことは飛ばしていたみたいなのだよ」
という事らしい。天才発言ですよ。まったく。
「まあ、簡単だからすぐ慣れるだろうさ。ほら」
とワーナさんは宙空に、指を滑らせ何かを描くような動作をする。
指の先はほのかに青く光り、通り道に光の線が残っている。
写真を撮る際に光の軌跡で文字などを書く、ペンライトアートのようだった。
これが魔法なのかと、私は驚きと興奮で目が離せない。
「ど、どうやるんですか!?」
「どう? ふむ……」
考えたこともなかったと言いたげに、ワーナさんは悩み出し。
「そうだな。魔力を指先に流し、魔素を空中に定着させているといったところなのか? んーむ。考えたことがなかったな……、こう、ふっとやってうぬーと伸ばす感じなんだが」
わかるか? とワーナさんは言うが、「わかんねーよ!」と返してやりたい。
しかしわからないと言っても、理解できる説明が帰ってきそうにはないし、必死に頭を回転させる。
ふっとぬーんは除外して、魔力を指先にと言うのは、ギルド登録の際に水晶玉へ魔力を流したイメージでいけるかな? 流す先のイメージを指先に集中させて……。
次に魔素を空中に定着は、魔素自体よくわかっていないが、測定の時のように体外へ出したら魔素なのだろうと無理やり理解しておく。
これに空中に留まるようイメージを追加しておく。
そして指先に絵の具をつけ透明のキャンパスに描くようなイメージを補強し、描いて行く。
「お、出来るじゃないか。やっぱり簡単なもんだろう?」
確かに言われた通り、私にも空中に線を引くことができていた。
「でも、なんとなくすぎて、次も使えるのかとか、不安なんですけど……」
「アッハッハッハ。そんなものは慣れれば問題なかろうよ。それ、ファイーボールだ」
高笑いし言うワーナの指先で描かれていたものが出来上がり、火の玉となって飛んで行った。
描かれていたものは、辛うじてそう見えなくもないアイコン的なデフォルメされた火で、幼児が描いた火でも通るようなものであったが、そこから現れた火の玉は、その面影を多少残し幽霊屋敷などに出てきそうな青い火の玉となっていた。
その火の玉はキャッチボールの玉のような、弧を描く軌道で飛んで行き、そして地へと着弾する--。
--ドゴン!
音ともに軽い爆発によって地面が抉られてしまった。
「な、んですか? 今の?」
「ん? ファイアーボールだが?」
「今のが、ファイアーボール……」
ゲームなどでも良く見かけるものではあるが、実際に見るとこんなにも迫力があるのかぁ……。
「あぁ、確かに普通に使うよりも弱いものな。別物だとでも思わせてしまったか」
とワーナさんは笑って言うが、私はこれで弱いってことに心底ビックリだよ。
「普通に使うよりって言うのは、どう言う……」
「私が複数の職を持っているのは、知っているのであろう?」
「はい」
「今のは絵魔法で使用したのだが、絵魔師は成り立てでな、まだまだ未熟なのだよ。他の魔法での発動なら、ほら、この通り」
そう言ってまた指先の光で何か描くが、今度は文字のようだ。
読めない文字だったが、それが書き終わると共に、文字全体が光り、火の玉が現れた。
そして、キャッチボールでは無く、ピッチャーのストレートのようにまっすぐ、豪速球で飛んで行く。
--ドッゴーン!!!
先ほどと同じように地へと着弾したが、先ほどよりも2倍近く地面が抉れている。
「な……」
もう言葉も出ませんですよ。私。
「その魔法は……」
それでも辛うじて言葉を絞り出す。
「今の魔法か? 文字魔法なのだよ。魔法言語を綴る事で発動する魔法なのだが、この言語が厄介でな。文法を覚えるのが非常に面倒な魔法だよ」
ワーナさんはそう説明してくれた。
言語というフレーズで、数少ない友人との会話を思い出した。彼はプログラマーだったのだが、その時の会話でプログラミング言語についてのうんちくを語っていたのだ。サッパリ分からなかったけど……。
この文字魔法もそういうものなのだろうか。
「今のは、文字はなんて書いたんですか?」
「火、飛ぶ、早く、だな。これを覚えるだけでもかなり面倒だったのだぞ?」
「凄いですね……」
どこか自慢げにしていたワーナさんは褒められ少し嬉しそうにしていた。
でも、私が凄いって言ったのはワーナさんじゃなくて、文字魔法なんだけどね。
発動までの時間が絵魔法と比べるとかなり早い。それはかなりの性能差なんじゃないだろうか。
これは後でメイガスに鬱陶しそうにされながらも聞いた事なのだが、文字魔法は魔法言語を覚え理解するまでは大変だが、それを乗り越えてしまえばかなり使い勝手のいい魔法で、特に人気の高い魔法なのだそうだ。
発動時間もそうだが、通常の他の魔法ではイメージによって、魔法の性能が大きく影響されるが、この魔法だとイメージによる影響がほぼ無いという事も人気の理由なのだとか。
不確定要素が少ないというのは、それだけで有用なものだものなと私も思う。
「ミズカも覚えてみるかね? 本来引率中に他職種を勧めるのはタブーではあるのだけれど、バレなければ良いだけのことであるからね」
「ははは、バレなければっというのは私も思いますけど、覚えるのはやめときますよ」
「そうかね?」
「ええ、だって……まったく覚えられる気がしません!」
そう断言すると、私もワーナさんも一緒に笑い合うのだった。
変人で教えるのもきっと下手で、最初の印象は悪かったけれど、私はワーナさんとも仲良くなっていけるんじゃないかと思い直していた。
お互いに一緒の事で笑えるのなら、気が合う証拠でもあるのだから--。
--気が合うと言うだけで、私が変人という事では無い!!
大事な事だ。
--私は変人じゃあない!
ミズカの魔法は発動していません。絵魔法は幼児レベルでも、描かれたものがなにかわかるものであり、イメージ出来ている必要がある為です。
ミズカが描いたのは棒線だけで、発動されたもののイメージがまったく無かったので、何も起こらなかった感じでした。