一章 魔王さまによる迷宮《ダンジョン》ぶっちゃけ解説 - 08 - 迷宮《ダンジョン》の生態系
一章 魔王さまによる迷宮ぶっちゃけ解説 - 08 - 迷宮の生態系
「戻ったかな? えっ? 仕事が早すぎてビックリしたって? 君、さっき仕事遅いとか書き込んでた人だよね? 遅くて文句を言われて、早くしても文句を言われる。一体どうしろと言うんだい? 常識で考えろって? それを言うなら、君の常識も大概だと思うぞ」
魔王バランはコメントを処理しつつ、新しいフリップを用意する。
「今の戦闘に触れる前に、まずはこれを見て欲しいんだ。今までずっと、冒険者側の視点から見てきたんだけど、今度は逆の立場。つまり、迷宮を造った側からの視点で見た構造図なんだ。
より上の階層に繁殖力が強くて弱い魔物を配置して、下に行くほど繁殖力が弱くて強い魔物を配置してるのはわかっているよね。強い魔物が上の階層にいけないように、迷宮特有の結界が張られてるんだ。
この結界は一方通行で、上から下へは移動できる。この構造があるから、迷い込んできた弱い魔物を強い魔物が捕食することで、生態系が保たれてるんだ。
でも、それだけだと、迷宮の環境はあまりに魔物たちにとって適しすぎていて、繁殖しすぎてしまう。だって、下の強い魔物は上にこれないからね。そこで、冒険者がやってくると、増えすぎた魔物を倒してくれて、適切な数が保たれるようになっている。
これがどういうことかというと……おっ、すぐにコメント来たね。その通り、冒険者の存在があって初めて迷宮は維持できるようになってるんだ。
つまり、冒険者が訪れなくなった迷宮は、最後にはただの廃墟になってしまう。このあたりは企業秘密ってやつだね。ここから先の深い話しは放送後半でしようと思う。
それで、魔物――ここでは迷宮に出没するモンスターのことなんだけど――は、植物系の魔物を含めてすべて肉食なんだ。つまり、食物連鎖が成立していないって構造になってるんだ。
だから、迷宮は食物連鎖における一番上層の階層の生命を維持させることのできる食料は存在していない。逆に言えば、その食料さえ適切に管理することができれば、理論上は迷宮全体の生態系を維持管理できるようになるって話しだね。
そんなにうまくいくのかって書き込みありがとう。世の中計算通りにいかないことの方が多いし、まさしく迷宮の管理こそ、その典型的な例だとも言える。
そこでまた登場するのが、冒険者の存在なんだ。魔物が増えすぎた場合、頻繁にエンカウントすることになるし、逆に減り過ぎたら当然エンカウントすることはそれに比例して減っていく。
つまり、冒険者さえ迷宮に潜ってくれていたら適切な数が保たれることになるって話しなんだよね。もちろん冒険者も暇じゃないから、なんの見返りもなしにやってはこない。
そこで、迷宮マスターはあちこちに宝箱を設置したり、より強い魔物にはよりたくさんの金品の所持させたり、色々と工夫を凝らして冒険者を集めてるわけなんだよね。
なんだって、わざわざそんなことする必要があるのかって? さっきの話しと繋がることだし、さすがにそれは会員限定でさせてもらうよ。
まぁ、すでにけっこうなところまで話したし、ここから先を聞きたいなら会員になって聞いてくれ。おっ、ボス戦そろそろ決着つきそうだね。迷宮からのライブ映像は全部無料で流すから安心してくれ」