92話 銀狼との別れ
投稿遅くなりました。
少し短いのですが、投稿しないとズルズルと修正を繰り返してさらに遅れそうなので、区切りとして投稿します。
「……開放的な場所だな。」
クロトガに戻るなり、クロノスが居心地が悪そうにそう呟いた。
うん、森から比べれば確かに開放的な場所である。
アラクネという種族にとっては、巣を張ったり身を隠したりできないような見晴らしのいい場所は好ましくないのだろう。
クロノスに聞いたところ、どうやらアラクネは集団で生活をすることはないみたいだ。
同族だという認識はあれど、それぞれがライバルというか、そういう競い合うような関係性にあるらしい。
それだからクロノスは、他に比べて自分が優れていると証明する為にあれやこれやと努力していた。クールなキャラ作りも威厳を示す為だ。
まぁ、クールなキャラ作りで威厳が感じられるかといえば人によるとは思うのだが。
しかし、周りの視線が凄い。
クロノスの存在感が物凄いおかげで、今までとは違って獣人の人達もこちらを二度見するようになってしまった。
二度見はするけど、アクションを起こすわけでもない。ただびっくりしただけなのか、触らぬ神に祟りなし的な事なのかは判断がつかないが、面倒事が起こるよりはいいだろう。
もとよりアステニアやクリシュナードと比べて無関心な方だったし、あれ増えてる? くらいにしか思っていないのかもしれない。
ここのところ色々てんやわんやしているが、俺の最終的な目標は人間と人型の共存である。
今どう思われていようが、最終的に無害であると時間をかけてでも証明できれば、何も急ぐ必要はないのだ。
とりあえず落ち着いた場所で話をしたいので、近くにあった喫茶店に入ることにした。
注文を取りに来た兎の獣人が、俺達の座っているテーブルを見て一瞬ビクッとしていたが、何事もなかったかのように注文をとる。接客業のプロ意識を感じるな……いや、ほんとこんな濃いメンツですみません……
みんなが順番に飲み物を注文していく。クロノスはメニューに書いてあったコーヒーを見て、なにやらうんうんと唸っていたが、最終的には水を頼んでいた。やはり人前では酔いたくないらしい。
「よし、それじゃあ今後の方針を一度確認しとこうか。」
「そうね。キンさんに提示された条件のうち、クリアしたのはアラクネを仲間にすること。残りは冒険者ランクとエルフの里だけど……とりあえずはランク上げって言ってたわよね?」
「うん。でも改めて考えたら、拠点を決めてランクを上げるのは効率が悪い。」
リーニャの言った通り、ここからの方針は冒険者ランクを上げることだ。
だけど、ランクを上げきってから町を移動していたんじゃ時間がかかる。
「幸い残り二つの条件は平行して進めることが出来る。少しずつエルフの里に近づいていきながら、途中の町で都度ランクを上げることにしよう。」
「なるほど、それがいいわね。」
エルフの里がどこにあるのかは、シルヴィリアが知っているようだった。元々悪どい奴隷商人を裁いてきたシルヴィリアは、結果的に捕らえられた人達を開放して回っていたことになる。その中でもエルフや獣人等の自力で故郷に帰るのが難しい人達については、故郷まで送り届けたことがあるらしい。エルフ達からしたら英雄みたいなものだな。
しかし、シルヴィリアとは、一度ここで別れることとなる。
パワーレベリングにクロノスのテイムも手伝ってもらったのだから、もう十分すぎる。これ以上俺達に時間を割いてもらうわけにはいかないだろう。
と言うわけで、簡易的ではあるが、エルフの里までの地図を描いてもらった。
かなり遠回りになる道だが、舗装されているわりかし安全な道を選んでくれたみたいだ。
なんだかんだと最後の最後まで世話を焼いてくれるシルヴィリアに、感謝の念が尽きなかった。
「ありがとう、シルヴィリア。」
「よせ。この程度の事で。」
シルヴィリアは描いた地図を乱暴に俺に渡すと、机に金を置いて立ち上がった。
「これからどうするの?」
俺は無意識にシルヴィリアに尋ねた。深く考えずの発言だったので、自分でも何を聞きたかったのかよく分からない。
ただ、この先シルヴィリアが奴隷商人や、それに関わる盗賊達を殺して回ることは無いような気がしていた。
「どうだろうな。今まで通り、衝動に任せて生きるだろう。」
「そうか……」
「今まで積み重ねてきた生活というのは、なかなか変えることはできない。私の思い、行い、罪。それらが私の生きる理由であり、意味でもあった。この、忌々しい短剣を手にした時からな。」
そう言って、腰に差した断罪者に視線を落とす。
シルヴィリアを狂わせた元凶の一つであり、シルヴィリアの相棒でもあるそいつは、ただ黒く怪しく光るだけだった。
「……今は、特にやりたいことがある。私はきっと、この衝動は抑えられないだろう。」
シルヴィリアはごそごそと腰のバッグに手を突っ込むと、机の上にドカッとソレを取り出した。
「……えーと、衝動って?」
「料理だ。せめてリーニャは一泡吹かせたいのでな。」
いきなり机の上に現れたドラゴンの生肉。
周囲の獣人達はその高級肉に驚き、俺は今更ながらマジックバッグを持っていることやら、いつの間にかレイから生肉を回収していたことやらに驚く。
そして、俺は思わず吹き出した。
「おかしいか?」
「はは、いや、なんか安心しちゃって。良い趣味だと思うよ。料理ってさ。」
リーニャも、シルヴィリアも微笑む。望まぬ接触ではあったが、結果的に俺達にもシルヴィリアにも良い結果となった。
正義の反対は、別の正義である。
誰かの言葉だが、悪と決めつける前に、理解しようとすることがきっと重要なのだろう。
シルヴィリアは、肉をしまうと振り返って歩き出した。
しばらくは会わないだろう。少なくともエルフの里から帰るまでは。もしかすれば、それ以降も会わないかもしれない。
それでも。
「今度、食べに行くよ。」
一度関わった縁は、大切にしたいと思う。
シルヴィリアは、尻尾を少し揺らしながら、右手を挙げて答えた。
~
次の最終目的地は、エルフの里である。
そこに辿り着くまでに、いくつかの町を経由しなければならない。
クリシュナードやクロトガの時みたいに、新しい出会いや、新しいトラブルがあるだろう。
なんにせよ、気を引き締めていかねばならない。
その途中の町で、ランク上げも行っていく。どれくらいの期間がかかるか分からないが、長期間であることは間違いないだろう。
「次の町ってどんなところなの?」
宿に向かう途中、リーニャが俺に尋ねた。
「次の町はマールコット。商業が盛んな町みたいだな。商業都市って言っても良いかも。」
商業によって栄えた、いわゆる商業都市のような所は沢山あるのだが、マールコットはその中でも特異だ。
その理由は何と言っても、他の町へのアクセスのしやすさだろう。マールコットに行けば、大体行きたい主要都市へのルートかあるとまで言われている。言わば全ての町の中継地点なのだ。
そんな場所が、栄えないわけがない。土地も大きく、数々の商社が拠点を置く事も出来たお陰で、金の動きも非常に大きいだろう。
それに、マールコットの冒険者ギルドの依頼は、他の場所に比べて少し報酬が良いらしい。
勿論難易度の高い依頼が多いのも一つの理由なのだろうが、それ以上にみな羽振りが良いのだろう。
魔物の素材を集めて欲しいと言う、商社からの依頼も多いお陰で、低ランクから高ランクまで様々な素材収集依頼が常に掲示板に張り出されているのだとか。
長旅の初めの町としては、まさにうってつけの町と言える。
「じゃあ、一度マールコットで依頼をこなしつつ、お金稼ぎと物資調達をしていくわけね。」
「うん。ついでに装備も新調しておきたいかな。」
「高ランクの依頼をこなせば、素材もいくつか手元にくるんじゃないかしら。」
「うん、指定された素材分を渡せば、それ以外は丸々俺達の物だしな。良い素材が集まれば、オーダーメイドのような形で装備を作って貰おう。」
厳密にどのくらいの期間滞在するかは決めていないが、まぁ恐らく一月程度だ。
ちらと時計の裏を見る。今日は12月25日だ。もとの世界で言えばクリスマスだが、この世界では冥の月。良くないことが起こる月の終盤である。今まで何の問題もなく進んできていたが、まだ気を抜かない方がいいだろう。
マールコットまでは馬車で二日。途中に小さい村がいくつか存在するので、道中の休息についてもそれほど悩まなくて良さそうだ。
今回は、ヒサメが馬車に乗って、シロナとクロノスが馬車と並走する形になる。
全員が乗るスペースが無く、かと言って俺が馬車から降りると移動速度とスタミナの関係で大幅に到着が遅れてしまう。
ヒサメは二人よりスピードが低いのと、前回馬車に乗っていなかったので今回は馬車に乗ってもらい、クロノスはこの中で一番スピードとスタミナがあるので歩き、シロナはたまに飛んでたまにクロノスの背や馬車の屋根で休憩といった形で移動することになった。
というか、そもそもクロノスは蜘蛛の下半身がかなりスペースを取るので、これから先馬車に乗れることは多分ないだろう……かなり申し訳ないとは思うのだが、これに関してはクロノスからも了承を得ている。
ヒサメの胴体も長いが、とぐろを巻けば思いの外スペースを取らないので大丈夫だ。
冥の月だということや、行く先に対する不安もあるが、それでも進まなければならない。
みんなの顔を見回すと、それぞれが頷いた。
「じゃあ、行こうか。」
マールコットに向かうべく、俺達は馬車に乗り込んだ。




