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我こそはモン娘テイマー也  作者: hoikun
四章 知るモンスターテイマー
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89話 アラクネ

 長く黒い髪が顔を覆う。

 真っ黒な蜘蛛の下半身も相まって、この薄暗い森に溶け込んでいた。

 女性的な上半身は、クモ糸で作られたであろう簡易的な衣服で覆われていた。

 恐らく身体を隠すためではなく、その耐久性を使った防護服のようなものだろう。



「何用だ。」



 冷たく、鋭い視線を俺達に向けるアラクネ。

 身体が動かなくなる程の威圧を受けて、俺は返事ができない。



「威圧を解け。」



 固まっている俺の代わりに、シルヴィリアが腕を組みながらアラクネに言った。

 それでも威圧を解かないアラクネに、シルヴィリアが溜め息をつきながら親指で俺を指差す。



「用があるのはこいつだ。威圧があれば、いつまでも用件を話せん。」


「……こいつが?」



 アラクネは訝しげに俺を見た。

 アラクネにとって明らかに格下な俺が用件を持ってきた事に、疑問を感じているようだ。


 しばらく俺を見た後、アラクネは威圧を解いた。

 途端に身体を押さえつけていたプレッシャーがなくなり、大きく深呼吸をする。



「それで、用は。」



 アラクネは、手元で糸をくるくると玉にしながら俺に聞く。

 本当は願い下げだが、とりあえず聞くだけ聞いてやるといった雰囲気を醸し出すアラクネに、俺は単刀直入に切り出す。



「俺達の仲間になってくれないか。」



 俺の言葉を聞いて、アラクネの動きが止まる。

 俺をジロッと見た後、俺の周りの仲間達に視線を送った。



「断る。」


「……理由を聞いても?」


「当然だろう。弱者のりなど御免ごめんだ。」



 予想していた答えの一つだ。

 さて、ここからどうするか。



「確かに俺は弱者だ、だからただで仲間になってくれなんて言わない。」


「……ほう?」


「俺達は君のような人型の助けになりたいと思っているんだ。もし何か困り事があれば……」


「無い。」



 俺の話を途中で遮ってアラクネが答える。

 だが、俺もここで引き下がる訳にはいかない。



「どうしてもダメか?」


「どうしてもだ。お前じゃ私を満足させられない。」


「満足……?」


「そうだ。」



 アラクネを満足させる事、これが仲間に引き入れる条件になるな。

 アラクネが満足する要素を満たせば、どうにかなるかもしれない。



「俺がもし強ければ満足するのか?」


「ほう、やるのか?」


「い、いや、やらない。」



 アラクネの目が妖しく光った。ダメだな、強さの話をすれば、強制的にバトルする羽目になりそうだ。

 どうにかしてバトル以外で納得してもらう方法を考えないと。

 と、考えていたら、今まで黙っていたシルヴィリアが口を開いた。



「つまり、私がお前を徹底的にぶちのめせば良いのか?」



 心なしか、額に青筋が浮かんでいるように見えるシルヴィリア。

 弱者の守りのくだりで、自分も含まれていると思って苛ついているのかも知れない。

 それを知ってか知らずか、アラクネは肩をすくめた。



「それは魅力的な提案だが、それじゃ意味がない。見た所、そのハーピィやラミアはソレと契約のようなものを交わしている。私がソレの仲間になるとしたら、当然私もその契約を交わすだろう。ならば、お前ではなくソレが私の主人たる証を示さねばならない。」



 俺の事をソレと指さしながら話すアラクネ。

 まぁ、確かに言っている事はその通りだ。

 別に主従関係を結んでいるわけでも契約をしている訳でも無いんだけど、傍から見ればモンスターテイマーというのは魔物と主従関係を結んでいるようにしか見えない訳だし。

 自分がつかえる主として相応しいかどうか、か。



「言っておくが、私はそこらのアラクネとは違う。それ相応の物を示せねば、認めることはない。」



 アラクネは言いたいことを言い終わると、また糸をくるくると巻き始めた。



「分かった。今日はとりあえず帰ろう。」


「何度来ても同じだろうがな。」



 興味が失せたかのような物言いのアラクネを背に、俺達は森を後にした。





 さて、困ったな。宿まで戻ったは良いけど、何をすれば良いのか全くわからない。

 とにかく、全員で一度話し合うことにした。



「アラクネが言っていた通り、アラクネが満足できる何かを用意しないといけない。」


「それも、お前自身で用意できるものだ。」


「それ、一番問題だよなぁ……」



 シルヴィリアの言う通り、俺が用意できる何かじゃないといけない。俺が強ければ、ただ戦って勝てば良かったのかもしれないが、それが出来ない以上、力ではなく知恵で勝負しなければならない。



「とにかく、人間の強みを売り込んでいくしか無いわね。」



 リーニャの提案は、人型には無い人間特有の何かを使うことだった。

 しかし、人間特有の何かと言われても、そうパッとは思いつかない。



「俺達人間が考えるのは難しいのかもしれないな。シロナ、ヒサメ、人間にしか無いものとか、人間にしか出来ないことってあるか?」


「ごはん。」


「ご、ご飯……?」



 シロナ、今はご飯の時間じゃないぞ……って、そういう意味じゃないよな。

 ご飯、料理か。確かに人型には無い文化ではある。

 だけど、あれほどの強さを持つ人型が、たかが飯に釣られるだろうか……



「それと、ものづくりじゃないかしらぁ? 特にヒトの作る服はよく分からない技術よねぇ。」


「服か……」



 アラクネは自分の糸を糸玉のように巻いていたし、興味はわくかもしれない。

 それを使って何かを作る技術というのも、恐らく人間の方が優れているだろう。



「でも、結局ユウスケが作れないと意味がないんじゃない?」


「いや、例え作れなくても、提供できるという事そのものが強みとして売り込めそうだ。」



 というか、そうでないと困る。

 服も作れないし、料理も作れない。そこら辺は俺が作れるという形ではなく、金を使えば用意できると言う形で納得してもらわないと、もし仲間になったら後が大変だ。

 俺にしか出来ない事なんて、それこそテイムくらいなんだから。



「そんな事をしなくても、奴の弱点を握れば従えさせる事は出来るだろう。」


「いやいや、それじゃダメなんですよシルヴィリアさん……」



 双方が納得した形で仲間にならないと、俺のポリシーに反する。

 弱点を握るようなことは出来ないし、そもそもアラクネに弱点なんて……



「いや、やはり一度は力でねじ伏せるべきだ。多少強いからと言って、調子に乗っているからなあの蜘蛛女は。」


「あの蜘蛛女って……蜘蛛女?」



 蜘蛛、蜘蛛か。

 そう言えば、一つあるじゃないか。恐らく俺しか知らない情報が。

 アラクネに効くかどうかは分からないが、一度は試してみるべきだ。

 そうと決まれば、買い出しだ。



「よし、買い物に行こう。」


「なんだ、結局物で釣るのか?」


「まぁ、そんなとこ。」



 心底残念がっているようなシルヴィリアを尻目に、出かける準備をする。

 物が準備できたら、後はいい結果が出るのを祈るのみだ。







 日もそろそろ落ちてきた頃、俺達はもう一度アラクネの所へ来ていた。

 律儀なもので、アラクネは出会った場所から殆ど動かずに俺達を待っていた。

 いや、待っていたと言うよりかは、今の巣の位置がここなだけかもしれないが。



「また来たのか。」



 興味なさげに言っては居るが、一応話は聞いてくれるらしい。

 糸をくるくると巻きながら、俺が話し始めるのを待つ。



「とりあえず、仲良くなる為に一緒に食事でもしようかと思って。」



 俺はレイに格納してもらっていた出来たての料理を広げる。

 今回はしっかりレイに机や椅子を格納してもらっていたので、地面にではなく机の上にだ。

 あぁ、自分の成長を実感するな。



「食事……?」



 アラクネは最初同様、訝しげに俺のことを見る。

 訝しげというか、半ば呆れているようにも見えるが、ここはゴリ押しだ。



「人間は料理を行うことで、食材をより美味しく楽しむんだよ。美味しさを知ったら、普通に生じゃ食べられなくなるかもね。」



 料理の美味しさに魅了された銀狼を一人知っているので、恐らく美味しいという感情は多少でも良い方向に向かうはずだ。

 今回出した料理には、ドラゴンステーキもある。

 最高にもてなして、俺達と一緒に来れば美味いものが食えるという特典を感じてもらう。



「これは、肉か。焼いてあるのは分かるが、なんだこれは。」


「まぁまぁ、とりあえず食べてみてよ。」


「……」



 俺がナイフとフォークで肉を切り分けて、アラクネにフォークを渡す。

 アラクネはフォークを受け取ると、切り分けた肉に突き刺して口へと運んだ。


 静かに咀嚼するアラクネ。それを見る俺。

 緊迫した空気の中、アラクネは肉を飲み込んだ。



「……確かに美味い。」


「はぁー、良かった。」


「だが、これだけでは満足できんな。」



 うん、勿論食事だけで満足してもらえるとは思っていない。

 続いて、レイに格納してもらっていた飲み物を取り出す。



「さて、次は飲み物をどうぞ。この飲み物は人間の中でも、特に大人に好まれる物なんだ。」


「ほう?」



 アラクネは飲み物の注がれたコップを手に取る。

 その飲み物を見て、アラクネは顔をしかめた。



「おい、これは本当に飲み物か?」


「そうだよ、俺も飲むからさ。」



 そう言って同じものを取り出して、アラクネより先に飲む。

 うグッ、俺この味苦手なんだけど、今は我慢して飲むしか無い。


 アラクネは飲めることを確認して、その黒い液体(・・・・)を飲んだ。



「ちょっと、何を飲ませたの?」



 リーニャが小声で聞いてくる。

 俺はまだ飲み干してないそれをリーニャに見せた。



「これって……コーヒー?」


「そう、コーヒーだよ。」



 コーヒー。日本に居た頃にテレビ番組でみたことあるけど、蜘蛛はコーヒーを飲むと酔っ払うらしい。

 厳密には酔っ払うに似た症状なだけで、中枢神経が麻痺するとかどうとか。

 アラクネは蜘蛛の人型だ。蜘蛛ならコーヒーで酔っ払ってくれるかなと思って用意した。

 勿論、酔っ払ってる内にテイムしようとかは考えていない。俺は酒は飲まないけど、やっぱり大人は酒を飲むのが楽しみらしいし、純粋にその酔う楽しみを知ってくれたらなと思っただけだ。

 勿論、コーヒーで酔わなかった時の為に一応エールも用意してるけど、蜘蛛はアルコールじゃ酔わなかった気がするから意味ないかな。


 もしコーヒーを飲んで何の変化もなかったら、この作戦は失敗だ。また一旦引き返して何か他の作戦を練るしか無い。


 固唾をのんで見守る中、アラクネはまだ半分ほどコーヒーを残してコップを机においた。


 さて、どうなる。



「……」



 アラクネは、ゆらゆらと揺れながら後ろによろけると、どさりと座り込んだ。

 こ、これ、ヤバい症状なのでは……? もしかして、死んだりしないよね?



「だ、大丈夫か?」



 慌てて側まで駆け寄ると、アラクネはこちらを向いた。



「らいじょーぶれっす! わたくし、とてもげんきれぇーすぅ。」



 そこには、ビシッと敬礼する、とても大丈夫じゃないアラクネが居た。

クールな人の酔った姿って、グッとくると思うんですね。

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