88話 次のステージ
投稿遅れました。すみません。
2018/06/25 シロナの年齢が12歳だったのを13歳へ修正しました
「……んー、んー!」
ゆさゆさと体が揺すられている感覚がした。
誰かが俺を呼んでいるみたいだ。
体を起こそうとすると、なにかに突っ伏したような体勢であることが分かる。
ぼやける頭で、どうやら俺は寝ていたらしいと理解した。
重い瞼をこじ開けると、真っ暗だった視界が急に明るくなる。
徐々に鮮明になっていき、目に映ったのは俺達が借りた宿の部屋だ。
昨日、シロナの看病をしながら、シロナのベッドにもたれ掛かって寝てしまったようだ。
隣のベッドではリーニャが座ったまま、こっくりこっくりと船を漕いでいた。
リーニャもシロナのことが心配で、ベッドに座ってシロナの様子を見ていたんだな。
ヒサメだけは何も不安なく、部屋の隅で眠っていたが。
「やっと、起きた。」
「あぁ、ごめん。そのまま寝ちゃってたみたいだ。起こしてくれてありがとう。」
礼を言うと、シロナははにかんだ。
見たところ、体調も戻っているようだ。顔色も悪くないし、ヒサメの言う通り、病気とかではなかったみたいだ。
と、思いながらシロナを見ていると、ある違和感に気がついた。
「あれ、シロナ。なんか、毛並みが変わった?」
「?」
シロナ自身は気になってないようだが、確かに毛並みが変わっている。
どうと言われたら難しいのだが、ちょっと毛や羽が長くなって、もふもふになっている。
昨日大量に羽根が抜けていたし、やっぱり換毛期なんだろうか。
「んぅ……ふぁぁ……あれ、二人共起きてるの……?」
ベッドに座ったまま器用に寝ていたリーニャが、眠たそうな目を擦りながら起きる。
「もう朝だよリーニャ。」
「えっ……ホントだ。座ったままぐっすり寝ちゃってたみたい。」
リーニャは俺に言われてようやく窓の外が明るいことに気がついたようだ。
俺達の会話を聞いてヒサメも目を覚ましたらしく、伸びをしながらこちらへ近づいてきた。
「おはよぉ。さぁて、シロナはどうなったかしらぁ?」
「毛並みが良くなってると思うんだけど、換毛期かな?」
「ふぅん? どれどれ。」
ヒサメがシロナを見つめる。
シロナもそれをジト目気味の無表情で見つめ返す。
うん、女の子二人が見つめ合う姿、尊い。
しばし見つめていたヒサメだが、ふと俺に声を掛けてきた。
「ユウスケ? ステータスって確認したのかしらぁ?」
「ステータス……? そう言えば朝起きてからは確認してないな。」
そう言われては確認せざるを得ない。
大人しくステータスをオープンする。
-
シロナ
13歳
種族:オキュペテー
状態:普通
Lv35
HP 388/388
MP 290/290
STR:300
VIT:204
INT:309
DEX:454
AGI:506
【所持スキル】
[U]痛覚遮断
風属性魔法
気配感知
-
「あ、あれ。ステータスが全部上がってる。それに、種族がオキュペテーになってる。」
「お、おきゅぺてー?」
聞き慣れない名前だと思う。今のリーニャみたいにきっと首を傾げる人の方が多いに違いない。
オキュペテー。神話で出てくるハーピィ姉妹の次女の名前だ。
長女がエアロー、伝承によってはケラウノーと言う三女が居る場合がある。
オキュペテーの名前の意味は「速く飛ぶ者」だ。今のシロナの戦闘スタイルにもピッタリだろう。
いや、そんなことはどうでもいい。種族がハーピィからオキュペテーに変わったということは……
「間違いないわ、進化してるわよぉ。」
「し、進化!!」
進化! この世界にも進化という概念があったのか!
ゲームなんかで言えば、より強い存在、状態へと変わることを進化と呼ぶ。
ソーシャルゲームでは進化によってレアリティが上がったり、某ポケットやデジタルなモンスターでも、やはりより強い存在へと変わる事を進化と言う。
この世界はゲームではないが、要するにその進化という物が現実に起こる世界という事だ。
シロナは、何かを引き金により強い存在へと身体を作り変えた。
「だから一度羽根が抜けたのか。」
「羨ましいわねぇ進化するなんて。でも、オキュペテーなんて聞いたことないけれど。」
「確かに、そう言えばハーピィってCランクまでしか居ないんだったよな。上位種になる者が居ないからなのか?」
「どうかしらねぇ、私達ラミアは、一応上位種であるエキドナになったものが集落の長を務めることが多かったけどぉ。」
うーん、そもそもハーピィは性格の面で、そこまで強さを求めている訳ではないのかも知れない。
力に貪欲なら、俺がシロナをテイムした時みたいに仲間を差し出すような事をせず、正面からかかってきそうなもんだし。
しかし、人型はランクがCからAまでピンキリとは言うが、上位種を見分けることさえ出来れば戦闘力の判断も出来そうだ。
ずっと一緒に居たシロナの変化だから俺は気付けただけで、普通の冒険者にハーピィとオキュペテーの違いを見分けろっていうのは困難だろうけど……
「ともかく、短期間でめでたいことがよく起こるな。冥の月って言うけど、所詮迷信って事か。」
「めでたい? パーティ?」
「あー、シロナ。今回もパーティしてたら流石に金欠になるよ……」
見るからに落ち込むシロナ。
パーティは出来ないけど、シロナへの今日のご飯は量を多めにして貰おう。
「ともかく、シロナのお陰で戦力的にかなり余裕ができたな。アラクネとも、より対等に話せそうだ。」
「あれ、そう言えばシルヴィリアさんは……?」
「えっ? あ、そう言えば……」
昨日別行動していたシルヴィリアだが、宿のベッドでは寝ていない。
何処に行ったのだろうか。彼女が居なければアラクネの元へは向かえない。
「どうしよう。この宿に帰ってこないって事はないだろうけど、念の為探しに行くか……?」
「探すなら、こういう時こそシロナちゃんの出番よ。」
「確かに、空も飛べて移動も速いし、適任だな。シロナ、動けるか?」
「ん!」
シロナは元気にベッドから立ち上がる。元々動くのが好きなシロナだ、思い切り空を飛べるなら寧ろやりたい方なのだろう。
俺達は宿屋から出る。宿屋の付近に落ちていたシロナの羽根は綺麗サッパリなくなっていた。まぁ誰かが拾い集めたんだろう。
「とりあえずシロナに飛んで探してもらって、見つけたら俺達を呼びに来るって形にしようか。」
「ん!」
「え? お、おぉぉぉ!!」
俺の計画では、シロナが縦横無尽に飛び回ってシルヴィリアを見つけてもらう作戦だったのだが、何ということか、シロナは俺をガッツリ足で掴むと上空に飛び上がった。
心の準備が出来ていなかった俺は、かなり間抜けな声を出すことになった。
「ちょ、ちょーっと! 待って待って! うおぉぉぉ高いぃ!!」
かなり大声でシロナに静止を求めるが、シロナは応じてくれない。俺の身体は恐怖で固まっているから、暴れて落ちる見たいな心配はないけども。
「大丈夫。」
「だ、大丈夫って言っても……」
俺がメンタル的に大丈夫じゃないんだが……何とも言えない浮遊感が、やっぱり怖い。
怖い、けど。
「おぉぉ……すごい眺めだ。」
上空に飛ぶことによって、クロトガの街並みが一望できる。
それは、ヘリコプターで上空から世界遺産を見ているような、何とも言えない感動があった。
クロトガは、かなり特徴的な作りをしている。
歪だがドーナツ型のような形をしていて、街の内側の方は壁で封鎖してある。一つだけ壁を通ることが出来る門が設置してあり、その先にある、街の中央に当たる部分には霧の結界を施したキンの居る場所。
いやしかし、上から見ると中心に何かあるのは容易に想像できるな。
まぁ、何があるかは分からないし、分かったところで結界を突破出来なければ気付いたって意味ないのか。
「で、シロナ。シルヴィリアは見えるか?」
シロナはキョロキョロと見渡すが、首を横に振った。
まぁ、こんな簡単に見つかるわけないよな。
「脇道を確認できるくらいのレベルまで高度を下げて、街の大通りの外側を沿うように飛んでいこう。」
「ん。」
シロナは高度を下げて、大通りから外れた脇道の上をゆっくりと飛び始めた。
大通りの方は見やすいから、脇道をメインで確認していける方が効率がいい。
しかし、シルヴィリアの姿が見つからないまま、一周してしまった。
「見逃したかな……とりあえず一回宿屋に降りようか。」
「ん。」
探して見つからないなら、もう待っている方が早そうだ。
シロナと俺は宿屋に戻ると、結構時間が経った筈なのにリーニャとヒサメが玄関で立って待っていた。
「おかえりユウスケ。」
「ただいま。結局見つからなかったよ。」
「えぇ、それなんだけどね。」
リーニャがちょっと困ったように笑いながら、俺の後ろを見た。
俺が振り向くと、後ろにシルヴィリアが立っていた。
「二人が飛び立ってすぐ、戻ってきたのよ。」
「そ……そうなの……」
なんとも綺麗にすれ違っていたようだ。飛び損にも程がある。
でも街の景色を見れたから良いか。
「空中散歩もいいが、早くアラクネの所へ向かうぞ。」
先頭を歩き始めたシルヴィリアの後を、何とも言えない表情のまま俺達はついていった。
~
アラクネの目撃情報は多数の場所で報告されているが、やはり目撃情報の一番多い場所へ向かうのが一番効率がいい。
という事で、クロトガからクリシュナード側に出た所にある森へと到着した。
距離的にはかなり近い為、徒歩でも一時間程で問題なく着いた。
これから、目撃されたとされる森の奥へと進んでいく。
「ついに、アラクネに会うんだな。」
「シロナちゃんみたいに話が通じればいいけれどね。」
「……悪かったわね。」
「ああっ、いやそういう意味じゃないわよ!」
何気なくリーニャが言った言葉に、ヒサメが少し頬をふくらませる。
まぁ、本気で拗ねている訳じゃないだろうから大丈夫だろうけど。
「アラクネは人型の中でも強い部類に入る、気をつけておけ。」
シルヴィリアの一言で、皆が気を引き締める。
アラクネは、身体能力は平均的に高い。打たれ弱く瞬発力の高い攻撃寄りのステータスをしており、オマケに森や閉所と言った場所では種族的に大きなアドバンテージを得る。
もし俺達と会話する気がなかったら、俺達はアラクネの土俵で戦う事になるのだ。
森は奥に進めば進むほど暗く、ジメジメとした空気へと変わっていった。
大きい木が密集しているので、陽の光が差し込みづらいようだ。
何となく不気味なその様子は、過去にランクアップの為に訪れたスワンプウッドを彷彿とさせた。
緊張したまま暫く歩いていると、急にゾワッとした感覚に襲われた。
つい先程感じたから分かる、これは恐怖だ。
前を歩いていたシルヴィリアが手を横に出して静止の合図を俺達に送る。
感じた威圧、シルヴィリアの合図。
つまり、この先に居るのだ。
立ち止まった俺達に向かって、それは姿を現す。
人間の上半身に、下半身が蜘蛛の人型。
暗めの森に溶け込むような黒い蜘蛛の胴体、長く黒い髪に隠れた表情は読めない。
「問う。」
落ち着いた低めの声で、アラクネは言葉を発する。
言葉一つで、俺達は身体が動かなくなる。
「何用だ。」
何度も感じたことの有る圧倒的な強者の威圧。
黒い髪からちらりと見えたアラクネの目には、俺達に対する明確な敵意が見て取れた。




