86話 シロナの誕生日パーティ
少し短めです。
投稿遅くなりました。すみません。
どうしてこうなった。
俺はシロナの誕生日パーティを企画したはずだ。
「おいウメェなこれはぁ!」
「ステーキだ! ステーキのおかわりを寄越せ!」
「ちょっと、静かにしてもらえないか。スープの味が落ちる。」
キンの周辺で霧の結界に匿われて暮らしていたワケアリ獣人達が、賑やかに宴会を楽しんでいた。
お陰でリーニャとシルヴィリアは料理を作る係のような感じになってしまい、全然食事にありつけていない。
それだけでは人手が足りず、ワケアリ獣人の中で数少ない女性陣がリーニャ達を手伝うことになり、キンの護衛であるシャルラでさえも料理に追われててんやわんやの状態だ。
かと言って俺が特に手伝えることもなく、出来上がった料理をテーブルに運んだりするだけだ。
いや、野菜くらいは切るべきか……? しかし手際だけを見ても、やっぱり女性陣には敵わなそうだ。
声が掛かったら手伝おう。それまではいらないことはしない方がいい。
さて、先程から好き勝手騒いでいる獣人達だが、流石に今日の主役がシロナだという事は分かってるらしく、一応シロナに対して料理を運んだりだとか進めたりだとかはしているみたいだ。
シロナは自分が動かずとも料理が運ばれてくるので、ただひたすら食べては舌鼓を打っていた。
シロナと同じテーブルでは、獣人の中でもかなりの大食漢だと思われる獅子族? まぁライオンの獣人がシロナと競って料理を平らげていっている。
どこの種族でも、やはり大食いバトルと言うものは良い見世物になるようだ。
というか、この世界には地球と比べて娯楽は少ないし、少ないからこそ娯楽を楽しむ事に全力になれるんだろう。
とか考えながら、俺は空いたテーブルに一人で座って料理を口に運んでいた。
シロナの周辺が盛り上がってるから、そこから離れた位置のこのテーブルは人が居ない。
まぁ、わざとこのテーブルを選んだわけなんだけどさ。獣人達の中で騒ぐのは流石に人見知りが顔を出すというか、アウェー感にいたたまれなくなるというか。
いつもハーピィやラミア等の人型と一緒に生活しておいてどの口が言ってるのかって感じだけど、とにかく居心地が悪そうな気がするのだ。
「どうした、行かぬのか。」
急に声を掛けられてそっちを振り向くと、キンが料理を持って立っていた。
俺が気付いたのを確認して、キンは俺の隣に腰を下ろす。
「ちょっと、入りづらいものですから。」
「なんじゃ、あやつらは種族など気にせぬぞ?」
「まぁ、そうなんでしょうけど。」
「くくっ、それも良かろう。どちらかと言えば、妾も静かな方が好みじゃ。」
キンが手にしていた料理は、シンプルな味付けで焼かれたステーキだった。
キンはフォークとナイフでステーキ肉を切り分けていく。
「何故俺の隣へ?」
「おや、気に入らんかったか?」
「そういう訳じゃないですよ。」
「いかに静かな所が好きとはいえ、一人は寂しいものであろう。誰とて温もりを求めるものじゃ。妾も、そなたも、あやつらもな。」
キンはステーキを口に運ぶと「これは美味いの」と感想を漏らした。
クロトガの王女なだけあって、食べ方も上品だ。
いや、あの獣人達が手掴みで食ったりしてるから相対的にそう見えるだけかもしれないが。
「あやつらはな、皆リアと同じようなものじゃ。形は違えど、自分を縛る鎖を抱えておったり、その鎖を断ち切った結果、身を追われる事となった。どうしようもなかった。自分の力のみで、どうにかせねばな。」
「……全員ですか。」
「あぁ。これも一部じゃ。救われんかった者もおる。力が無いせいでな。妾があやつらを匿わねば、もっと多くがこの世を去っていたであろうな。」
あぁ、シルヴィリアから聞いた話が本当なら、心の中では獣人が嫌いだという人族がもっと存在するのだろう。そんなのに目を付けられたら、孤立した彼らはただの的だ。
例えそれが、身に降りかかる不幸な何かをきっかけに犯罪者となった獣人だとしても、それを全ての人に知らせる術はほとんど無い。
大衆はより信じるのが簡単な情報を信じる。有権者が悪だと言えば、それは悪として広まることになる。例えそれが虚偽だとしても。
そんな中でこれだけの獣人を匿うことは、いかにキンが力を持っていようとそれほど簡単なことではないのは容易に想像できた。
「ユウスケ、あれを見てみよ。」
キンの視線の先には、慌てながらも料理をこなしていく女性陣の姿があった。
シロナの周りの宴会のような熱気とは違い、こちらは本当に火を扱っている上に動き回っているので、ほぼ全員が額からは汗を流し、腕捲りをして作業をしていた。
「大変そうですね、やっぱり手伝った方が……」
「いやいや、そうではない。リアを見てみよ。」
キンにそう言われてシルヴィリアを見る。
シルヴィリアは料理と言う慣れない作業に若干戸惑うことが多いようだが、しっかりリーニャの指示通りにこなしているようだった。
その目は真剣そのものだったが、自分の作業が終わる度に食い気味に次の指示を聞きに行く姿は、どことなく楽しそうだった。
「なんか、楽しそうですね。」
「分かるか? そうじゃろう。これ程楽しそうなリアは久方ぶりじゃ。尻尾も振っておるしの。愛い奴じゃ。」
よく見れば、キンの言う通り尻尾が揺れていた。
顔こそ真剣そのものだが、やっぱり尻尾は誤魔化せないらしい。
「妾はそなたに感謝しておる。つかの間とはいえ、あれほど呪いの影響が薄れたリアは初めてじゃ。千年生きたとて、知らぬことはあるものじゃな。」
「いえいえ、感謝されるようなことは何も……」
そう言ってちらりと横を見れば、キンは丁度食事を終えたところだった。
さて、と一息つくと、立ち上がって腰に手を当てる。
「では、妾も料理に参加するかの。」
「えっ。王女様が料理を手伝わなくても……」
「なに、暇潰しよ。娯楽のひとつとして嗜むのも悪くはなかろう。得るものあれど失うもの無し。料理とは良いものじゃ。」
キンはそう言うと、料理組へ向かっていった。
料理組の皆はぎょっとしていたが、キンの話を聞くとすぐさまキン用のスペースを開けて料理の説明を始めた。
それとは入れ替わりにシロナがこちらに向かってくる。
「ユウスケ。誕生日いつ?」
いつも通りジト目気味のシロナから予想外の質問が飛び出してきた。
俺の誕生日か、こっちの暦そのままで答えていいのか分からないけど、まぁ細かいことはいいか。
「六月二十五日だよ。今は冥の月の十二月だから、まだ半年くらい先だね。」
しかし、シロナはなんで俺に誕生日なんて聞いてきたんだろう。
もしかして、誕生日は美味しい料理が沢山食べられるからかな。
まぁ、リーニャやヒサメの誕生日パーティもする予定だから間違っちゃいないけど、ドラゴン肉程のものは提供できそうにないな。
何て思っていると、シロナは俺からレイを奪い去ると、料理を並べているテーブルまでトテトテと歩いていく。
何する気なんだろうと思いついていくと、シロナは並んだ料理を一品ずつ皿によそい、レイに格納し始めた。
「シロナ? 何してるの?」
俺の誕生日と今の行動が俺の脳内で繋がらず、シロナに尋ねる。
シロナは料理を指差した。
「一番おいしい。」
「ステーキが?」
「んー。」
指差されたのがステーキだったのでステーキが一番気に入ったのかと思ったが、シロナは首を横に振った。
「全部。」
「全部? あぁ、ドラゴン肉だからかな? 確かに今までの肉の中では一番美味かったな。」
「ん。」
俺の返答がその通りだったからか、シロナがコクコクと首を縦に振った。
「でも、強い。」
「そうだな、俺達じゃドラゴンは厳しいな。レッサードラゴンでもBランク相当らしいし。」
「肉。」
今度は、シロナがシルヴィリアを指差して言った。
シルヴィリアが肉?
「あぁ、所持者ってことか。」
「ん。」
「まぁ、シルヴィリアがドラゴン肉を食べたくて狩ったわけだし、仕方ないよな。」
「だから、ユウスケの。」
シロナは、そう言ってまた料理を指差した。
つまり要約すると、シロナは手に入れることが難しいドラゴン肉の料理を俺の誕生日に食べさせたいから、ここでレイに保存してもらうと言うことらしかった。
シロナの優しさを感じて、シロナが食いしん坊だと思っていた俺が急に恥ずかしくなった。
「ありがとうシロナ。」
「ん。」
シロナはしっかり一品ずつ格納を終えると、今度はステーキを二皿よそった。
そして片方を俺に差し出してくる。
「食べる。」
俺はその皿を受け取って周りを見る。
シロナが座っていたテーブルは、今や大食いバトル用のテーブルとなっているらしく、多くのギャラリーに囲まれたテーブルの周りには、大の字に転がる獣人が目立っていた。
俺が最初に座っていたテーブルは、やはり人が全然居なかった。
うん、やっぱりあそこに座ろう。
「じゃあ、あそこで一緒に食べようか、シロナ。」
「ん。」
機嫌よくトテトテと歩くシロナと俺は、しばらく大食いバトルを遠目に見ながら二人で食事を楽しんだ。




