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我こそはモン娘テイマー也  作者: hoikun
四章 知るモンスターテイマー
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83話 銀狼族の過去

遅くなりました。もっと頑張ります。

 地球に居た頃に見たのと、殆ど変わらない星空が広がる深夜。

 俺達は古代遺跡に居た。


 どうやらこの『王宮騎士の寝室』では、防衛システムであるゴーレムは決まった場所にしか出現しないらしく、居ないと分かっている場所でなら危険もなく夜を明かすことが出来るみたいだ。


 ベッドが備えてある建物の中に入り、それぞれが一部屋ずつ確保して寝られるように簡単に整える。

 古代遺跡と言うだけあって、やはり過去に誰かが住んでいたようで、生活をする為の設備は備え付けられていた。

 ベッドもそうだし、鏡やクローゼット等もそうだ。

 人の暮らしていた形跡があるというだけで、幾分か安心して過ごせるのはありがたいところだった。


 屋根が崩れて空が丸見えになった建物の中で、俺はベッドに寝転がって空を見上げていた。

 この世界の空も、数々の星がその存在を主張している。

 地球と同じく星座なんてあるのかなと、ふと思ったりしたところで、俺は誰かの気配を感じた。

 扉の方を見ると、そこには全身に黒い武装を纏い、黒いマスクで口を隠したシルヴィリアが立っていた。



「やはり、気付くか。」



 何の音も聞こえなかった辺り、この部屋に入ってくるまでは気配を消していたのだろう。

 一度バレてしまえば気配を消す気もないのか、スタスタと遠慮無く近づいてきた。

 体が強張る。



「安心しろ、もうお前は殺さない。」



 アステニアに居た頃あれだけ振り撒いていた殺意も憎悪も、まるで全てが抜け落ちたかのように穏やかなシルヴィリアは、俺の寝転がるベッドに腰かけた。



「……何の用事?」



 つい、言葉がそっけなくなる。

 当たり前だ、だっていくら今がこうだとしても、過去に殺されかけた事実は消えないし、近くにリーニャ達が居るならまだしも、シルヴィリアと二人きりになってしまうのは居心地が悪い。

 シルヴィリアはそんな俺の語調も気にせず、空を見上げた。



「お前、転生者だったよな?」


「そうだけど……」


「お前の住んでいた世界は、どんな世界だった……?」



 普段の気丈な口調とは違い、柔らかなトーンで俺に話しかけてくる。声だけ聞けば……いや、今はその空を見上げる姿さえも、殺人などしないような、血の色も知らないような、普通の女の子のようだった。



「そんなこと聞いて、どうするの?」



 俺は、シルヴィリアの真意を確かめたかった。

 わざわざ俺の元に来るのだから、何かがあるはずだと。

 シルヴィリアはこちらを向いて、そんな俺にひとつため息をつくと、俺の口に人差し指を突きつける。



「少し話をしたくなった。付き合え。」



 付き合わなければ痛い目を見る、と言外に含ませたようなトーンで言われてしまえば、俺も黙って頷くしかなかった。

 シルヴィリアが大人しく話をしたいと言っているのだ。刃を交わすよりなんと平和的なことか。

 等と脳内でわざわざ文章にしつつも、聞きたい半分聞きたくない半分に、耳を傾けた。



「まぁ、興味の無い話だろうが。」



 そう前置きに始まった話は、彼女の過去についてだった。





 銀狼族という種族名が広まったのは、たったひとつのきっかけによるものだった。

 ある男性が魔物に襲われていたところ、謎の女性獣人が救ってくれたという、いかにも在り来たりな話。

 美しい銀色の毛並みに、凛とした佇まいの狼人だったとの事もあって、男性の話は妄想の類いだと思われていたようだ。

 この銀狼族の女性は、シルヴィリアの姉のストゥシーだった。


 しかし、男性は事実を証明したく、銀狼族を探し始めた。

 冒険者ギルドに高い金を払い、依頼を出して他の冒険者達にも手伝わせた。

 その必死な姿に、あの話は真実だったのではないかと思い始める人も少しずつ増えていったそうだ。


 男性のそんな動向に気づいたストゥシーは、男性が一人になったタイミングを見計らい、接触した。



「すみません。これ以上私たちを探すのは止めてください。目立ちたくないのです。」



 その言葉を聞いた男性は、命の恩人にこれ以上迷惑はかけまいと、きっぱりと探すのを止めた。

 ギルドへの依頼も取り下げ、友人達にはやはり夢だったのかもしれないと話した。

 人族の男性を助けた伝説の銀狼の話は、表向きはここで幕を閉じた。



 ケイルという男がいた。

 ユニークスキル『共有者』

 これは、当時最大規模だった盗賊組織のトップである彼の持っていた能力だ。

 能力内容は、同意を得た者の視界を借りて見ることが出来る能力。

 ケイルは、この能力を巧みに使い、数々の犯罪を成功させてきた。

 痕跡を全く残さない技術のお陰で、彼の名は知られることがなく、その全ての事件は未解決のまま風化していった。


 そして、そのケイルを引き込んで商売の友としていたのがハウシャ・ドーマンという男。

 スラムで孤児を拾い、奴隷という階級を付けることにより、働き口を探すというスタンスの男であった。

 彼の扱う奴隷は身なりも綺麗で質が高く、また管理している奴隷への待遇も良いと世間からは評判の、表向きは優良な奴隷商人であった。


 しかし、それは奴隷が人族であった場合の話。

 彼は、裏では獣人の奴隷も販売していた。

 ハウシャは獣人が嫌いであった。理由など無い、ただ、見た目が気にくわなかったのだ。

 獣風情が同じような容姿で生きているのは不快だ、という思想により、本気で獣人など絶滅すれば良いと考えているような男であった。


 一部の貴族には物好きがいる、獣人を求めている貴族に売れば金になるという情報が手に入ると、ケイルの力を使い、獣人を仕入れ続けた。


 そのハウシャの耳にも、銀狼の話は届いていた。

 ハウシャはケイルに、獣人に助けてもらった男性と接触させ、その眼を共有させた。

 ケイルの話術は大したもので、男性には意識させずに視界を共有する条件を満たしていた。


 男性は知らなかった、ケイルが自分の視界を見ていることを。

 ストゥシーは知らなかった、そんなスキルがあることを。


 不幸にも二人が接触した瞬間に、ハウシャとケイルは笑みを溢していたのだった。



 ハウシャはケイルに指示を出した。

 銀狼族の居場所を突き止めろ、それから女子供はつれてこい、無理なら皆殺しで構わん、と。

 男性の視界を使って銀狼族を見ていたケイルは、その容姿から必ず金になるとそれを承諾し、数人の精鋭を使い銀狼族の居場所を突き止めた。

 ケイルは、自分の組織全ての人員を使い、銀狼族の集落を襲撃。

 銀狼族は激しく抵抗し、状況は拮抗。ケイルの部下達は数では勝っていたが、捕獲は無理だと悟り、隙を見て銀狼族の民家へ放火。

 銀狼族には動揺がうまれ、そこから崩れていった。


 その日、銀狼族の集落は消えた。


 シルヴィリアは、少しの隙をついてストゥシーに逃がされ、数人の銀狼族と共に集落から出たお陰で生き延びた。


 だが、人族に頼ることはできない。

 情報の流出を恐れ、他の獣人族とも距離をおかねばならない。

 そうして身に付けたのが、人の認識外に自分を置く技術だった。





「そして私は復讐を決めた。呪いの武器を手にしてでも、奴等を殺すと。」



 いつのまにか握られていた俺の手に、汗が滲んでくる。

 シルヴィリアから聞いた話、それはあまりにも残酷な話だった。



「それで……そのハウシャとケイルは……?」


「殺した。この断罪者でな。」



 そう言って、腰から取り出した漆黒の短剣を見つめた。



「それに、姉も殺した。」


「……えっ。」


「姉は奴等に捕まっていた。私が行った時には酷い状態でな、僅かに残った理性で、懇願された。殺してくれ、と。姉は人を助けたのに、その対価がこれかと思うと、私は頭がおかしくなりそうだった。」



 シルヴィリアは当時を思い出したのか、短剣を握る手に力がこもり、僅かに震えていた。

 それほどに酷い状態だったのだろう。

 俺は、その時のシルヴィリアの心を推し量る事はできない。

 シルヴィリアも慰めなんて求めてないだろう。

 俺はそのまま、先を促した。



「それで、終わらなかったんですか。」



 本来なら、ハウシャとケイルを殺した時点で仇は取れている。

 他に悪徳な奴隷商人が居たとしても、それを殺すことが復讐にはならない。

 だが、シルヴィリアは首を振った。



「終われない。こいつのせいでな。」



 シルヴィリアはそう言うと、断罪者を親指と人差し指だけでつまみ、ぷらぷらと振った。



「断罪者のせい……?」


「こいつの呪いは、時間を止めることだ。私はこの短剣を手にした時から、肉体が老いることはなくなった。」


「……不老の呪いですか。」


「それだと聞こえは良いが、実際はそんなものじゃない。心も、それを握った当時のまま、どす黒い感情が渦巻いたままだ。ハウシャとケイルを殺した後も、まるでまだ生きていて、また殺さなければいけないような感情に駆られる。」


「そのまま、ずっと悪徳な奴隷商人を殺して回っていたと……?」


「ああ……。5年間、続けた。でも、私の時間は進まない。心も、体も、ずっとあの時のままだ。」



 これじゃ、まるでシルヴィリアは無理矢理やっているようなものだ。

 負の感情は、どこかで発散させないといけない。例えば地球では、ストレスはカラオケや食事、運動などによって解消されていた。

 悲しみも怒りも、それ相応に何かで発散して人は生きる。


 シルヴィリアは、それが出来ない。

 心に渦巻く負の感情は何をしてもこびりついたままで、そんなの、普通の人は狂ってしまう。


 シルヴィリアは断罪者をしまうと、また空を見上げる。



「……前の世界の環境のせいか……お前は、何と言うか、純粋だ。」


「はい?」


「邪な心が、ほとんど無い。だから私が見えるんだろうな。」



 少し表情を柔らかくしたシルヴィリアは、ベッドから立ち上がった。

 部屋から出ていきそうだったので、引き留める。



「ちょっとまって。何で俺にこの話を?」


「……さぁ、何でだろうな。」



 シルヴィリアは、振り返らずにそう言うと、そのまま部屋を出ていった。

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