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我こそはモン娘テイマー也  作者: hoikun
四章 知るモンスターテイマー
88/104

81話 不本意な結果

随分更新が遅れました。申し訳ありません。


2018/01/23 細々とした文章の修正を行いました。

2018/01/29 ニーアの一人称が間違えていたので修正しました みぃ→にぃ

      ちなみに、ニーアの一人称の由来は ニーア→にいあ→にぃ です。

「これで、全部、です。」



 羊人のクルンが、片手で運んで来ては乱暴に投げ捨てる。

 どさり、どさり、と目の前に積まれたのは五人の男。

 この男達は、レイフさんの指示により潜んでいた刺客だった。

 全員黒装束を身に纏っているのは、少しでも暗闇に気配を忍ばせる為だろう。

 キンはクルンにご苦労と声をかけ、彼らが積まれて出来た山を見て、肩をすくめた。



「気配を殺したつもりであったようじゃが、まだまだじゃな。緊張でもしておったのかの? 愛い奴らじゃ。」



 キンがニーアに向けていた左手を下ろすと、ニーアは糸が切れたようにその場に座り込む。

 先程演技をしていたとカミングアウトした時の余裕があるニーアは、もうそこには居なかった。


 キンはそんなニーアを見て笑みを溢した。



「ふふっ、ざわついておるのが分かるか?」



 ニーアの頬に汗が伝う。

 ハルマーが慌てたように窓の外へと視線を向ける。

 それに続いてシロナが、ヒサメが、リーニャが何かに気付いたように身を構えた。

 珍しくレイまでもがカバンから飛び出し、続いて俺はその理由を知る。

 徐々に大きくなる威圧が、俺の身体を押し付けてきたからだ。



「妾はクロトガの民を守る。クロトガの民を愛しておるからじゃ。」



 キンが立ち上がって玄関の方へ歩いていく。リアがそれに続き、その後ろをクルンがついていく。クルンは視線で俺達についてこいと促した。

 俺達は顔を見合わせたが、ハルマーが一番についていくと、俺達も順番についていく。


 玄関を開けて外に出る。辺りは霧に包まれていて何も見えないが、何者かがこちらを見ているような雰囲気を感じていた。



「じゃがなぁ、やはり愛というのは伝わるものなのじゃろうな。」



 キンが右手で空中を摘まむような動作をした後、その右手に向かって息を吹き掛ける。

 すると、周囲の霧が一斉に晴れた。



「……ッ!」



 それで見えた光景に、俺達は言葉を失った。



「妾も民に愛されてたまらぬ。命令せずとも、褒美がなくとも、妾を護る為に集まるくらいにはの。」



 霧が晴れた周囲には、いくつかの住居が立ち並んでおり、その全ての住人が、二十人あまりの獣人達が、俺達を取り囲んでいたからだった。


 静かな、でも肌に刺さるほど分かる殺意が俺達に向いている。



「妾は滅多に魔法を使わぬ。魔法を使う程の事態なぞ、そうないからの。故に妾が魔法を使えば、皆がピリピリしよる訳じゃ。」



 キンが右手を上げる。その合図で、取り囲んでいた獣人の半数程は戻っていったが、まだ残りの半数程は殺気を抑えないままこちらを睨み付けていた。



此奴こやつらは少しばかり事情がある連中でな。普段は結界によって不可視にした領域で暮らさせておる。先程の霧がその結界じゃな。結界内では妾の許した者しか自由に歩き回ることは出来ぬ。知らぬ者からしたら、ただの迷いの森よ。」



 そう言って残った獣人達を見渡した。

 よくよく見れば、顔に大きな傷を負っていたり、腕が片方無かったりと、壮絶な過去を思い起こさせる様な風貌の獣人もいる。



「さて、そろそろそなたらの要望に答えていくとしようか。まずは、ハルマーと言うたか。そなたからじゃ。」


「お、俺は……」


「よい、分かっておる。シャルラ。」


「お呼びですか。」



 キンが名前を呼ぶと、キンの近くに一人の女性獣人が現れた。

 燃えるような赤い長髪に、冷徹を体現したかのような青い目を持つ猫人族。

 凛とした声は、あまり大きくないにもかかわらずはっきりと聞こえる、よく通る声だった。

 左手にヒーターシールドを持ち、ロングソードを腰に携えた彼女は、まるでそこに初めから居たかのように立っていた。

 その存在感は、キンが陽であればシャルラは陰と呼べるくらいに、対象的だった。



「この青年が手合わせを望んでおるようじゃ。相手を。」


「キン様のめいとあらば。」



 そう言ってシャルラは剣を抜き、ハルマーに向けて構えを取った。

 ハルマーの目的は強者との手合わせだ。シャルラが強者ならば、ここでハルマーの目的は一応達成と言えるのか。

 と、ハルマーに視線を向けると、ハルマーはシャルラを見て固まっていた。

 その目には、驚愕の色が見える。

 ハルマーは彼女を知っているのか?



「もしかしてあの人って有名? ニーアさ……」



 ニーアなら何か知っているかと思い、俺がニーアに視線を向けると、ニーアもシャルラを見たまま固まっていた。


 シャルラはそんな状態のニーアに気付くと、声を掛ける。



「久しぶりだな、ニーア。」


「ひ、久しぶりにゃ……」



 一旦構えを解いて、二人は挨拶を交わした。

 シャルラの方は特に表情も変えず、淡々とした様子だったが、ニーアは明らかに気まずいような雰囲気だった。



「ニーアさん、知り合い?」



 改めてニーアに確認する。久しぶりという言葉を交わしたと言うことは、少なくとも一回は会ったことがあるはずだからだ。

 ただ、俺の予想以上に、シャルラはニーアと深い関わりを持つ人物だった。



「シャルラは、にぃのお姉ちゃんで、にぃの師匠だにゃ……」


「えぇっ!」



 俺の予想を上回る答えだった。

 まさかニーアの姉で、しかも師匠だとは。

 しかし、姉妹にしても全く似ていないというか。ニーアは気さくな娘って感じだけど、シャルラはクールな委員長タイプに見える。

 俺とリーニャが驚いていた所へ、更にハルマーが追い打ちをかけに来る。


 

「オマケにだが、世界に三人しか居ないSランク冒険者の一人だ。剣聖の極めし者"疾風迅雷"のシャルラ。」


「あぁ、そんな二つ名もあったな。」


「えぇぇっ!」



 畳み掛けるような事実に俺とリーニャは驚愕。ていうかSランク冒険者が三人しか居ないという事も今初めて知った。



「ランク制度も始めこそ良かったが、上がるに連れて指名依頼やら何やらが面倒くさくなってきてな。冒険者は辞めた。強さとある程度の資金さえ手に入ってしまえば、後は他人に拘束されるだけの物でしかなかった訳だからな。」


「辞めたって、じゃあ今は何をしてるんですか。」


「キン様の護衛だ。とは言っても、キン様は私より遥かに強い。護衛とは名ばかりで、私はキン様が直々に動かなくて良いように、厄介者の処理を行っているだけだ。」


「これ、謙遜が過ぎるぞシャルラ。そなたのお陰で妾は助かっておるのじゃ。」


「は、勿体なきお言葉です。」



 やり取りを聞く限り、シャルラはキンにかなりの信頼をおいている。いや、シャルラだけじゃない。クロトガの皆が恐らくそうなんだろう。

 シャルラは改めてハルマーと向かい合うと、剣を構えた。



「まさか本当に強者と戦うことが出来るなんて思わなかった。」


「キン様のめいだからだ、と言いたいところだが、正直私もウズウズしている。久しぶりの強者つわものの香りだ。」



 ハルマーとシャルラ。二人が互いに構える。

 と、俺はこの戦いを見ている場合じゃないんだよな。



「さて、次はそなたらじゃの。付いて来るがよい。」



 キンはそう言うと、きびすを返して小屋の中へと戻っていく。

 その後ろを、ハルマーとニーアを除いた俺達はついていった。

 ニーアは、久しぶりに会った姉の戦いを見たいのだろう。魔王についての情報収集はニーアには関係ない話なので、特に同行を強要することもない。


 小屋の中へ戻ると、キンは先程の高級感の有る椅子に座っていた。

 俺達はまたソファに座ると、キンが話し始めるのを待つ。



「そうじゃの。そなたらは、魔王についてどこまで知っておる?」


「殆ど何も知らないです。魔族を率いていて、漆黒の渦から魔族を排出して街を襲うくらいしか。」


「ふむ……」



 外でハルマーとシャルラ、二人の戦いが行われているのに、それが気にならないくらいの静寂の中。

 キンは、数秒目を瞑ったあと、ゆっくりと目を開いた。



「今は、それで充分じゃな。」


「えっ……?」


「それ以上は、そなたに教える訳にはいかぬ。」


「そんな! どうして!」



 魔王の襲撃を受けて、魔王について調べると決めて、形だけでもニーアを護衛して。

 折角ここまで来た結果が、教えることは出来ないなんて納得がいかない。



「そなたらはその段階にまで至っておらん。」


「段階って、俺達はただ魔王の襲撃から逃げたいだけで……」


「そなたは魔王のことを知れば、逃げられなくなる。」



 魔王のことを知れば、逃げられなくなる?

 俺が魔王の討伐に乗り出すとでも言うのか?



「自分の力量なんて分かってます。魔王を討伐しようなんて言いませんよ。それこそ勇者のナオトさん達も居ます。」


「どうだかの。そもそも勇者が……おっと、これもまだ言うてはならんこと。」


「勇者が、何なんですか。」


「教えぬ。」



 魔王のことも教えてもらえず、更に気になる単語まで聞かされて、尚更引き下がるわけには行かなくなった。絶対聞かなきゃいけない、この人は、全てを知っている。そんな気がする。



「どうしても知りたいというのならば、妾の言う条件を揃えてくることじゃな。」






 翌日、俺達はクロトガの近くにある古代遺跡へと向かっていた。

 キンの出した条件をクリアする為だ。


 キンが出した条件は三つ。

 一つ、単純にレベルを上げて強くなること。最低でも、冒険者ランクはBランクまでは上げる。

 一つ、仲間を増やすこと。クリシュナードとクロトガの間にある森にアラクネの目撃情報が上がっているので、それをまずは仲間にする。

 そして最後に、エルフの里へ行き、魔王についての情報を手に入れてくること。


 エルフ達が魔王の何を知っているのか俺達には分からないが、そこの情報を持ち帰ればエルフの里で手に入れた情報以上の物をキンが教えてくれるはずだ。

 要するに、試されている。俺達が本当に魔王について知るべきかどうか、知りたいと思っているかどうか。それを自分達の手で少しでも手に入れようとするかどうか。


 とにかく、情報を自分で掴む為には強くならなければならない。

 強くなる為には、やはりダンジョン等で経験を積む事が一番と言える。

 そんな訳で、古代遺跡へ向かっている訳なんだけど。


 そこの古代遺跡を選んだのは、もう一つの理由があって。



「……」



 俺達『救命の志(ライフセイバー)』を先導しているのは、リアだった。


 リアは、キンから俺達の引率を任されていた。

 曰く、手っ取り早く強くなる場所を、リアなら知っているという事だった。

 一度は俺を殺そうとしたリアだが、キンの命令となれば流石に俺に殺意を向けることもなく、ただ淡々と言われた通りに俺達を先導してくれるようだ。

 そのリアが俺達を連れて行くと言った先が、古代遺跡だった。



「古代遺跡には、ゴーレムが居る。ゴーレムは古代人の魔法技術によって生み出された人形の様なものだ。あれに安定して勝てるようになれば、Bランクくらいすぐに行く。」



 そう言ったリアの横顔は、俺達への憎悪を完全に失った顔だった。



「なぁ、リア……」



 俺がリアに、何故俺達の引率を引き受けたのかを聞こうとしたら、リアは俺が名前を呼んだ瞬間に俺の口を手で塞ぐ。



「気安く呼ぶな。私の名前はシルヴィリアだ。リアと呼んで良いのは、キンとシャルラだけだ。」



 と、思いもよらぬところでリアの本名を知ることになったのは、運が良かったのか悪かったのか。


 古代遺跡まで歩きで三日。不安しか無い旅になりそうだった。




~ クロトガ中心部 ~




 クルンがユウスケ達を先導してクロトガ外周へ戻っていった後、ハルマーの相手をしていたシャルラがキンの元へと戻る。



「して、どうであった? あの青年は。」


「ニーアには、まだ及ばないくらいでしょうか。」


「そうか、有望じゃな。」



 香りの良い紅茶を手に、キンは笑みを見せる。

 物事が順調に進んでいることを感じながら。



「さて、シャルラよ。彼は戻ってくると思うか?」


「どうでしょうか。」



 ユウスケが無事に条件をクリアするか、そんな事は分からない事だと、シャルラは答えを返す。

 それを聞いて、キンは愉快そうに笑う。



「そうじゃの、そうじゃの。どう転ぶかは分からぬ。妾の目、妾の経験を持ってしても、それは時の運じゃ。」



 コトリ、と紅茶の入ったコップが机に置かれる。

 ゆらりと揺れる紅茶を見ながら、キンは今までの記憶を振り返る。



「じゃが、妾は勝負運が強いからの。ここぞという賭けには、負けたことが無い。」



 キンは千年近くも生きてきた妖狐。今までくぐり抜けてきた死線も数知れず。

 それ故に、自分の判断、自分の計画に迷いはなかった。


 不意に、コンコンとドアをノックする音が聞こえる。



「よい、入れ。」



 キンの声に応じて姿を表したのは、キンのよく知る男だった。



「よぉ、久しぶりだな、ばあさん。」


「妾にそのような口を聞く男はそなただけよの。リスタリベラよ。」



 一国の王に対して余りにもぞんざいな口調の男、リスタリベラに、キンはさして不愉快になったような様子はなかった。

 シャルラも、それがいつもの事だと分かっている。



「ここに来たということは、計画もついに大詰めか?」


「あぁ、しっかりエマの町(・・・)の方まで仕掛けてきた。」


「随分時間が掛かったの。」


「各地回ってたんだ、仕方ねぇだろ。」


「くくっ、しかし最後にエマの町を選ぶとは、お前らしいの。」



 キンは愉快そうに笑う、それに対して、リスタリベラは特に反応しない。

 キンも特別反応を待っていた訳では無いようで、紅茶を一口飲む。



「そう言えば、ここにエルフの娘が来たが。そなたの関係者かの?」


「白々しい質問すんじゃねぇ。」


「くくっ、その娘に、エルフの里へ向かうように言うておいたわ。」


「……チッ、めんどくせぇことを。」



 愉快そうに笑うキンに、初めてリスタリベラは恨みがましい表情を作った。



「取り敢えず、報告はそれだけだ。俺はまだやることがある。」


「うむ、頑張ってくるのじゃぞ。」


「どっかのババアのせいで仕事が増えたんだがな。」



 そう言い捨てると、リスタリベラは小屋を後にした。


 来客も終わり、静かになった部屋で紅茶を口に運ぶ。



「さて、見せてもらおうかの。そなたの答えを。」



 霧の中へ向けたキンの目には、先程出て行ったテイマーの少年達がしっかりと映っていた。

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