75話 魔法学校
時計や回復薬の補充など、買い物を終えた翌日、ニーア含む俺達全員はある場所へと向かって歩いていた。
今日も一つ目的があるのだ。
その目的とは、ズバリ魔法学校を見学してみようの巻だ。
とは言っても、見学したいと言ってすぐに見学できるわけがないと思うので、遠巻きにどんなことをしているかを見てみようと思っただけだ。
勿論中には入れないだろうし、授業風景とかは見れないだろうけど、例えば広場で魔法の練習とかしてたらそういうのをちらーっと見れたりするかもしれないし、魔法学校自体がどんな見た目なのかってのもちょっと気になるしな。
まぁ、俺は魔法を覚える気もないし多分覚えれないだろうから、本当にただの好奇心だけで提案したのだが、意外とリーニャが食いついてきたので驚いた。
でもリーニャってエルフだし、魔法ちょちょっと教えてもらえばすぐに使えるようになりそうだけどね。
「おっ、あれか?」
宿から歩くこと一時間程、勇者ナオト曰く魔王に一番襲撃される程の人口を抱える国であり、魔法大国と言うだけあって広大な土地の先に見えてきたのは、いかにもな校舎だった。
建物はU字の様な形で、中央にグラウンドがある。校舎の真ん中の部分にはこの世界式の時計がついており、時計の上には鐘がある。恐らく時間とリンクして鐘が鳴るようになっているんだろう。
学校の敷地は柵で区切られており、中の様子はちょっと見づらい。
「あれが、学校なのね……」
リーニャもしみじみと校舎を見ている。
そう言えば、最初にエマの町を出発した時の馬車の中で俺とリーニャは世間話をしていたのだが、その時に学校にかなり興味を示していたような覚えがある。
リーニャにとって、魔法かどうか以前に学校と言うものを見てみたかったのかもしれないな。
「ねぇユウスケ、あの大きい建物の中で、沢山の人達が魔法について勉強しているのよね?」
「うん、多分ね。中央の広場の方では、魔法の練習とかしてるんじゃないかな。」
「あそこ、丘になってるわ。あそこからなら広場を覗けるんじゃないかしら?」
リーニャがずっと先の道から左側にそれた場所を指差す。指差した先には、確かによく見渡せそうな丘があった。
「おぉ、中々良さそう。行くか……っておい、リーニャ!」
リーニャは会話の途中で駆け出して行った。
ここまではしゃぐリーニャなんて初めて見たかもしれない。
「皆ー! はやくー!」
一人でどんどん離れていくリーニャは、振り返って俺達を呼んだ。
「はは、リーニャも呼んでるし、俺達も走るか!」
「ん!」
「仕方ないわねぇ、子供なんだからぁ。」
「走りなら、負けないにゃ。」
ニーアに完敗したのは、言うまでもない。
「うわぁー……ここから見ると、学校の広さがよく分かるなぁ。」
丘についた俺達は、学校を見下ろしながら改めてその大きさに感心していた。
そりゃあ、あれだけ大きくないと生徒全員の席を確保できないんだろうな。
その生徒の一部が広場で魔法の練習をしているようだったが、そこにいる生徒だけでも百人は軽く超えそうだった。
あれはなんだ? 的当てかなんかをしてるのか?
「凄い……あの人達全員、魔法を学んでるんだ……」
リーニャが食い入るように練習風景を見つめている。
それに比べてシロナとヒサメはあんまり興味なさそうだし、ニーアもあんまり興味なさそうだった。
まぁ、ニーアはあれより凄い魔法を沢山見てきただろうし、シロナとヒサメは学校自体をあんまり分かってなさそうだ。
「ここから見る感じだと、得意な魔法を飛ばして的当てをしてるような感じだね。」
「そうね、やっぱり最初は狙った所に飛ばすのも難しいのかしら。」
飛ばされた火の玉や風の刃は、的に当たったり当たらなかったりしている。
中には凄い速度で氷の刃を撃ち出すような人達も居るし、凄く山なりな火の玉をヨレヨレと撃ち出すような人達も居る。
どうやら、魔法を使えるレベル別でグループも別れているようだ。
一緒に練習するのに、そんなにレベルの差がある人達を混ぜても良いんだろうか? まぁ俺は教育のプロじゃないし、そんなもんなのかもしれないな。
「私も……学んだら魔法覚えられるのかな。」
じーっと練習を見ていると、ふとリーニャがそう呟いた。
「魔法覚えたいの?」
リーニャが呟いた言葉にそう聞くと、リーニャは慌てたように首を振って否定した。
「いっ、いやいや! そんなこと無いわよ! ただ、エルフって魔法に長けた種族らしいし、そう言う未来もあったのかなーと思っただけで!」
「そうなの?」
「そうよ! そう!」
うーん、本当か? 結構魔法学校を見る目が切なそうなんだけど……
リーニャ、魔法覚えたいんだろうなぁ。でも、魔法を覚えるのに時間が掛かるから、遠慮してるんだろうなぁ。
俺は、ニーアの護衛が済んだ後なら魔法学校に通ってくれても問題ないんだけど。
旅はしたいけど、軽い魔法なら数年で覚えれるらしいし、数年くらいならクリシュナードで生活しても良いかなとか思ったりする。
リーニャも魔法を覚えれば、戦略の幅も広がるわけだしな。
まぁ、取り敢えず。
「もっと近くで見てみようか。」
そう言ってリーニャの手を取り、走り出す。
「えっ、あっ、ちょっとユウスケ!?」
今はただ、リーニャに魔法学校の見学を気の済むまでさせてあげたいよね。
「モン娘好きとか言いながら、何だかんだ言って一番リーニャとイチャイチャしてるわよねぇ。」
「んー?」
「シロナ、貴方はまだ分からなくてもいいわよぉ。」
「ああ言うの見たら、にぃもカレシ欲しいにゃぁ……」
小走りで魔法学校の柵の前までやってきた俺達は、柵の間から中を見る。
遠くで見るより、やっぱり迫力があるな。
今俺達が見てるのは恐らくエリート組のグループなんだろうけど、あの組の生徒たちは特に凄い。
魔力を感じるような力を持ってるわけじゃないけど、それでもあの魔法に込められている魔力が他の生徒達と比べて桁違いなのは見て分かる。
ただ、想定通りというか、他のグループの事を見下してるような視線を向けていた。
なんなら舌打ちをしてるような人も居る。
感じ悪いなぁ。教師はそこを指摘しないんだろうか。
まぁ、その感じ悪い生徒が貴族とかなら、何も言えないのかもしれないな。
ん? なんかこっち見てないか?
「ねぇユウスケ、そろそろ行こっか? なんか見られてるみたいだし。」
「あ、やっぱり見られてた? バレちゃったか。まぁ、ここで声かけられてもめんどくさそうだし、引き上げようか。」
そうして振り向いて立ち去ろうとした所だったが。
「おーい、君達。見学か? 是非中に入っていきなよ。」
駆け寄ってきた教師っぽい人にガッツリと声を掛けられてしまったのだった。
「……リーニャ、どうする?」
「どうするって言われても……」
うーん、でもどちらにしても声を掛けられた時点で目を付けられてるわけだし、もう中に入っちゃうか。なんならニーアも居るしな。他人任せバンザイだ。
「まぁ、こういう機会もそうそうないだろうし、入っちゃおうか。」
「ユウスケがそう言うなら……でも、大丈夫かしら……」
「大丈夫大丈夫、元々見学は自由なんだ。それに君達の噂は聞いているよ。人型をテイムした冒険者がクリシュナードに来てるってね。」
おいおい、こんな所まで噂が回ってるのかよ。すげぇなマジで。世間話好きすぎかよ。
「まぁまぁとにかく、中に入って見学していきなよ。入学を強要はしないからさ。」
その台詞が逆に怪しいぞ!
とは思いながらも、やっぱりこんな機会は早々なさそうなので見学することに。
正門? から校舎まで続く道を歩いている途中、生徒たちの視線がめちゃくちゃぶっ刺さったけど、どうせ後一週間で町を出るからと自分に言い聞かせながら足を進めた。
校舎を外から見た時もそうだったが、中を見て更にびっくりした。
建築技術が高い。普通に日本の校舎って感じの作りだ。
凄いな。
そのまま応接室のような所に通される。途中で会う教師達が驚いたような恐れているような顔をしていたが、俺達を先導している教師が都度説明してくれた。
この人俺達の噂聞いたって言ってたけど、周りの教師全然知らなそうだぞおい。シロナとヒサメにめちゃくちゃビビりまくってるじゃないか。
そんなこんなでたどり着いた応接室で、俺達は自己紹介を交わす。
「俺はこの学校の教師をしているネイヘルだ。今日は見学を担当するよ。」
校門からここまで引率してくれたこの教師の名前はネイヘルらしい。
特に特徴もない普通の教師って感じの人だ。
「あれ、ネイヘルさんって今さっき授業の途中だったんじゃ?」
「あぁ、いいんだ。彼らを教える教師なんていくらでもいるからね。」
結構適当なんだなぁ。大丈夫なのか?
ちょっと不安になってきた俺なんて関係ないかのように、ネイヘルは話を切り出してきた。
「ところで、リーニャちゃんはエルフだよね? 初めて見たよ。」
「そうです。やっぱり、私……エルフって珍しいですか?」
「珍しいねー。珍しいっていうか、エルフ自体伝承でしか聞いたことないくらいのレベルだね。」
マジか、伝承でしか聞いたことないって、そりゃ皆に注目されますわな。
「ところで、どのくらい魔法は使えるの?」
「私、弓使いなので魔法は全然なんです。」
「ええっ、そうなの? 勿体無いねぇ。エルフって魔法が凄い種族なんでしょ?」
「そうなんですけど、私はちょっと特殊な環境で、周りに魔法使いが居なかったので……」
リーニャがちょっと切なそうに笑った。
それを見てか、ネイヘルがとんでもない事を言い出した。
「なんなら、魔法を教えようか? 授業料は免除でいいよ。」




