74話 そういえば
ちょっと短いです。
クリシュナードについて六日目。
今日と明日は依頼は休みだ。
普通の冒険者っていうのがどの頻度で依頼をこなしているのかは分からないが、俺達は週休二日制を取っていた。
まぁ、週休二日って概念は恐らく俺達転生者にしかないんだろうけど。
という訳で、今日は買い物をしたり町をぶらぶら歩いたりしようと思う。
俺は、ここ最近になってからあるものが足りないとずっと思っていた。
いや、寧ろ今まで何故ないままで過ごしていたのかというくらいの必需品なんだけど。
朝から『救命の志』のメンバーとニーア、全員揃って町を歩く。
ニーアはリハビリのお陰か、シロナやヒサメが随分近くに居ても、そんなに抵抗がないようだった。まだ触るのは無理そうだけど。
まぁ、シロナの方は元々見知ってるし、従魔という安心感のお陰かもしれない。敵意を向けてくるゴブリンとかの魔物は、多分まだダメだと思う。
目的地はマジックアイテムを主に扱っている魔道具屋だ。
目的地に向かう途中、人型に慣れない人達の視線が向けられるが、まぁどうせ後一週間程でここを出るんだし関係ないかと知らん振りしていた。
それなりに大きいその店に到着すると、全員で中へ入る。
中はデパートのような感じで、それぞれのマジックアイテムが種類別に陳列されていた。
さて、目的の物を売っている場所は……と。
冒険者用と書かれたプレートを通り過ぎ、日用品の場所へ向かう。
日用品の棚を見ていくと、発見した。
「あった、これだよな?」
後ろを付いてきていたリーニャに確認する。
一応リーニャに間違ってないか確認する。まぁ、合ってると思うけど。
「そうね、これがそうよ。」
リーニャもそれがそれで間違いないと言っているので、俺は手のひらサイズのそれを手に取る。
俺達が探していたのは、時計だ。
この世界の時計は、機械式ではない。勿論電子回路なんてもんもないし、電波を受信して時間を調節するなんてもんもない。
じゃあ、どういう物なのか。
魔道具屋に来ている時点でわかると思うが、これはマジックアイテムだ。
古代遺跡の部類になるダンジョンでは、古代人が使用したと思われる時計が数多く発見されている。
後々ヒロツグさんが作るかもしれないが、今は一応ダンジョン産の時計しかない。
それで、時計の見た目から言うと、地球上にあるものとほぼ同一だ。
ただ、針はあるが、一つしかない。時刻も書かれていない。代わりに何か紋章のような物が四ヶ所、上下左右に描かれている。何故かと言うと、一日を一周で表しているからだ。上が真夜中、右が朝、下が昼、左が夜って感じか?
まぁ要するに、細かい時間までは分からないってことだな。
それでもあるのとないのじゃ大違いだし、買っておきたいと思って今日見に来たわけなんだけど。
「思ったよりも高いな……」
そう、金貨一枚。時計一つの値段が金貨一枚だった。
リーニャの首元に視線をやる。そこにはグリルで購入した真っ赤な魔石のネックレスがあった。
時計を見る、金貨一枚。
ネックレスを見る、金貨一枚。
「高級ブランドかよ……」
「……高級ブランドって?」
リーニャの質問には答えず、時計をガン見する。時計は現在、朝と昼の中間辺りを指していた。
うーん、あったほうが便利だよなぁ。
幸い、特にお金に困っている訳ではない。ニーアの護衛代ということで、前払いでレイフさんからもいくらか貰ってある。
そもそも金貨一枚というのは、この世界の一般層で言えば一ヶ月程の収入だ。まぁ、出費を考えたら一ヶ月では買えないが、それでもどうしても手が出ない物でもない。
農業とかやってる人達は一家に一つくらいは置いてあるんじゃないだろうか。
「……よし、買うか。」
「随分悩んだわね。」
「まぁ、金貨一枚はね……」
そんな会話を交わしつつ、時計を購入。取り敢えずリーダーだからという事で俺の鞄の中へ。
まぁ、鞄の中へとは言うけど、鞄の中にはレイがいるし、実際はレイの中へ格納されてるわけなんだけど。
その他にヒロツグさんが開発した結界石も幾つか購入。いざという時にあって損はない筈だ。
魔道具屋を去り、次に向かったのは冒険者向けの普通の道具屋。
ここには回復薬や解毒薬等が置いてある。これらもまた足りない分は補充した。
とは言っても、うちのパーティは優秀だからあんまり使うことないんだよな。
それから次は武具屋へ。主に新しい防具の確認と矢の補充だ。
武器は、まぁ今は変えなくてもいいかな。そもそも俺はいい剣を二つも持っているし、リーニャの弓も思い入れ深い良い弓みたいだし、壊れさえしなければずっとこのままで良さそうだ。
防具は、やっぱり命に直接関わる物だし、俺的には一番気になる所だ。
籠手と足回りの防具は、破損具合や元々の防御性能もちょっと気になっていたので買い替え、それ以外は現状維持。
他の場所はそれ程破損した場所もないし、今俺達が相手にする魔物にとってはこれくらいでも問題無い。
これ以上にいい装備を整えようとすると、今の俺達じゃ散財してしまう。
リーニャは、やはり女の子だからなのか多少は見た目にも気を配りたいらしく、同じくらいの防御性能の物を幾つか前にしてウンウンと唸っていた。
まぁ、服じゃないからそんなに派手なフリルがついてるだとかそういうのはないけどね。
結局今の防具の状態と、商品の性能、デザイン、値段と相談してリーニャは今回の購入は見送ることにしたようだ。
ちなみにシロナとヒサメにも防具を購入した。
シロナは回避メインなので動きを阻害されず、それでいて多少の防御力を見込める皮系の上半身を覆う奴を。
ヒサメはどちらかと言うと受けるタイプなので、アイアンタートル――実際に鉄ではないが、そう例える程に硬い甲羅を持つ亀の魔物――の素材を使った籠手と胸当てを。
今までこういう物を身に着けたことがないからか、シロナとヒサメは若干着心地が悪そうにしていたが、我慢してくれ、慣れれば大丈夫だ。
そうして、俺達の買い物が終わった。
早速本日購入した時計を確認する。
時計の針は、昼を少し過ぎたところだった。
「よし、じゃあご飯にしようか。」
「そうしましょうか。」
クリシュナードに来ておよそ一週間になるが、未だにこの町の人達はシロナやヒサメに慣れていない。
なので飲食店には入りにくく、俺達は基本的に屋台に出ている食べ物を買って食べていた。
今日も屋台を探し、適当に見つけた串焼きの屋台から幾つかの串焼きを購入する。
「おっ、美味いなこれ。何の肉なんだろ。」
「ブル系の魔物の肉かしら?」
「んーーーーーー!!!」
「料理って、本当に凄いわねぇ。」
シロナはいつも通り美味しそうに串焼きを頬張り、ヒサメも料理という人間の文化に感嘆の声を漏らしていた。
「それにしても、そろそろ冥の月なのね。」
ふとリーニャがそう呟いた。
「冥の月?」
「そう、冥の月。時計の裏を見てみて。」
リーニャに言われて時計の裏を見る。
そこには、1123と書いてあった。
「この1123?」
「そう、この11は月の事ね。」
11は月の事? 11月ってことか?
じゃあ今日は11月23日ってこと?
「あ、そういえばユウスケって暦知らないんだっけ。」
「そういえば、全然気にしたことなかった。」
「やっぱり、何か変なところで抜けてるわね……」
リーニャ曰く、この世界の暦は地球とほぼ同じだ。1月から12月まで。違う所は全て30日区切りで月が変わること。月によって気温の変化もあるが日本ほどではなく、夏は暖かくて冬は涼しいなぁくらいらしい。
うーん、自転とかそういう関係で若干地球と違うのかな。
まぁとにかく、本日の日付は11月23日だ。
「それで、12月は冥の月って呼ばれているの。」
「なんで?」
「言い伝えなんだけど、良くないことが起こりやすいんだって。だから冒険者達は冥の月にはあまり魔物討伐の依頼は受けないのよ。Aランク程に強い人達ならそんなこと関係ないかもしれないけど。」
「そうなんだ。」
冥の月ねぇ……クロトガに向かう馬車が出るのが丁度12月に入ってからくらいなんだけど、大丈夫なのか?
「まぁ、言い伝えなだけだから、気にせずに魔物討伐したりとかする人も居るけどね。私達もそう心配することはないと思うわよ。」
サラッとそんなことを言ってリーニャは会話を締めた。
いや、やっぱりそんな話聞いたらちょっと気になってくるから……
折角の休日に、新しい悩み事が増えるリーダーであった。




