73話 これまた来客
2017/11/15 文章を一部変更しました。どうにも詰めてイベントを起こす癖があるみたいなので少しゆとりを持たせました。
ゴブリンの討伐は極めて平穏に終わった。
平穏とは言っても、そこに広がっていた光景はゴブリン達にしてみれば無残な殺戮劇だったんだろうけど。
最近頭が飛ぼうが腕が飛ぼうがそれが当たり前になってきていると言う事を自覚して、慣れって怖いなーなんて棒読みで言ってみたり。
ジャックザリッパーよろしく大量の右耳を削ぎ落として冒険者ギルドに持っていった俺達だが、その数がそれまた凄まじく、ヒサメとシロナもほぼ個人で団体さんを狩りに行っていたこともあり、全てが手元に来た頃には凡そ100を越えているのか? という様な量だった。
数えるのは面倒くさいので数えていない。これはギルド職員の仕事だろうと言うことで丸投げだ。
しかもシロナとヒサメが持ってきたのが右耳なのか左耳なのかも見てない。まぁそこは流石に間違えないだろうと信頼している上だけども。
それで、それを持ち帰った時の受付嬢の表情と言ったらもう……
誰もゴブリンなんて狩らないからだろうね、めちゃくちゃ感謝された。
そりゃ、たかがゴブリンだけど、それは戦える人間にとってはたかがなのであって、戦えない人間にしてみればゴブリンごときでも脅威なわけだ。
戦闘慣れした高ランク冒険者でも、一歩間違えれば負けてしまうかもしれないくらいの数に膨れ上がった集落は、Cランク冒険者が集まっても慎重に作戦を練るくらいの脅威になりえるという話も聞いたことがある。
つまり、誰かがゴブリンを減らさないといけない訳なんだけど、その部分がこの国では上手く回ってないんだな。
低ランク冒険者は居ないこともないが、他の国に比べて少ない。
他国から魔法を学ぶ為にクリシュナードに来て、わざわざゴブリンなんて狩ってる暇はないわけだ。
大抵クリシュナードに来る魔法使いっていうのは優秀なやつばっかりだし、ゴブリンより旨味のある依頼をこなすに決まってるよな。
という訳で、ゴブリンを狩ったにしてはそれなりの金額を手に入れた俺達は、これまた奇っ怪な輩を見るような視線を背中に受けつつ冒険者ギルドを後にした。
俺達が簡単な依頼をこなし始めて四日。金銭的な問題は全くもって発生していなかったし、ニーアのリハビリも、本当に一歩ずつ位の距離だけど順調に進んでいた。
それで、今日も簡単な依頼を終え『浪々楽々』に戻ってきた俺達は、入り口に近づいたところで、これまた宿の中の雰囲気が怪しい事に気付く。
何でこうも俺が居ない時にトラブルが発生するんだ? いやクリントさんの商談は別にトラブルでもなんでもないけど、俺がいる時に遭遇してくれよ。いや出来ればトラブルなんて遭遇しないに越したことはないけども。
とか心の中で愚痴をこぼしつつ、開けないという選択肢も無いのでさっさと開ける。
宿の中では、テーブルに向かい合って座るリーニャとニーア、それに話しかけている――というか怒っている?――剣を腰に下げた剣士風の若い青年。
カウンターの奥ではオーナーのダートンが腕を組んで、事の成り行きを見守っていた。
その4名は、扉を開けて俺が入ってきたことに気付くとこちらに視線を移した。
剣士風の男性は俺に興味がなさそうだったが、リーニャは内心ホッとしたような顔でアイコンタクトを送ってくる。
オーケー。今から話し合いでおさめようじゃないか。
俺はテーブルに近寄って剣士風の青年に声を掛けた。
「俺の仲間に何か用ですか?」
剣士風の青年は眉をピクリとも動かさず、ただリーニャを見据えて言葉を発する。
「彼女に決闘を申し込みに来た。」
そういい終わると、まるでこれ以上伝えることはないと言いたげに腕を組んで黙り込んだ。
決闘という言葉を聞いて顔をしかめる俺とリーニャ。
動機はよく分からないが、今までの流れからして九割九分リーニャが欲しいだシロナが欲しいだという事だろう。
丁重にお断りするしか無いな。今ならニーアも居るし、名前を出せばどうにかなりそうな気もするし。
「申し訳ないけど、それは諦めて貰えませんか。」
「いいや、諦めることは出来ない。こんなチャンス滅多にないからな。」
えっ、こんなチャンスとか堂々と本人に対して言います?
いやそりゃエルフや白いハーピィなんてそうそうお目にかかれることはないだろうけど、それでもやっぱり若干はぼかして言うもんじゃないの?
とにかく、目的はハッキリしたな。尚更決闘なんてさせる訳にはいかない。
「とにかく、決闘させる訳にはいきません。お引き取りください。」
「いいや、引き返さない。」
「良いんですか? こっちにはAランク冒険者が居るんですが?」
「あぁ、知っている。だからわざわざここまで来たんだ。」
「……は?」
知っている? ニーアがここに居るのを知ってて来たのか?
ということは、コイツはニーアをねじ伏せて連れていくだけの自信があるのか?
ドクン
急に襲ってきた殺気に全身から汗が吹き出る。
剣士風の青年が、俺達に威圧を放っていた。
恐ろしく鋭いソレは、肌がピリピリする程であり、まるで全身に針を刺されているかのようだった。
彼の威圧によって、俺達は全員身動きが取れなくなる。ニーアだけは、いつもと変わらずただ俯いているだけだったが。
剣士風の青年は、そのままリーニャをしばらく睨みつけて、小さく舌打ちをした。
そのまま剣を抜き、リーニャに構える。
「茶番だ。いつまで実力を隠しているつもりだ。」
苛立った声でリーニャを睨みつける。
ここまで来て、俺は違和感を感じ始めていた。
違う、何かが違う。俺はとんだ思い違いをしている。
剣士風の青年は、リーニャを鋭く睨みつけたまま言葉を続けた。
「我が名はハルマー、剣聖。決闘を申し込む。現状最強の名を有するAランク冒険者ニーア、その極めし者の師であり、Sランク冒険者のエルフよ!」
「……へ?」
何とかハルマーを椅子に座らせた俺は、ハルマーと俺達との認識の相違を正そうとしていたのだが。
「……あのー、もう一度確認してもいいです?」
「だから、極めし者のニーアをここまで育て上げたと言われている、幻の師匠であるエルフに決闘を申し込みに来たんだが?」
俺は頭を抱えていた。
理由はお察しの通り、この剣士風の青年改めハルマーが言っていることがサッパリ分からないからだ。
なんだ? リーニャがニーアの師匠で、めちゃくちゃ強い?
噂によればこの世界に存在する数少ないSランク冒険者の一人で? アーチャーなのに格闘術に長けていて? ニーアをまるで赤子のようにあしらうことが出来る?
ホワイ? どこからそんなデマが?
横を見ればリーニャも何がなんだか分からない表情をしてるし、まさに混乱の極みだ。
「えーっと、それ、嘘ですよ。」
「嘘だと? もう誰もが知っていることなんだぞ?」
「何で!? どこでそんな情報が!?」
何だよ誰もが知ってるって! 俺達ここに来てまだ数日だぞ!
えっ? もしかしてソレよりもっと前からそんな噂が立ってたの?
「どこでも何も、最近とある貴族がニーアにボコボコにされたらしくてな、その貴族がニーアの隣にエルフの師匠が立っていたって言っていたらしいが。」
「は……? 貴族?」
誰だ貴族。知らんぞそんな奴。
ニーアにボコボコにされた? 何で? いつ?
「は? もしかして街中で絡んできたあの剣士っぽい奴か?」
俺の脳内に浮かんできたのは、いつぞやリーニャとニーアを寄越せと近寄って、ニーアに腕を折られていた奴だった。
あいつ貴族だったのか? 言われれば確かに貴族っぽいような気もしないでもない。
いや、それでもおかしいだろ? だってリーニャは全く手を出してないし、実際あいつを追い払ったのはニーアであって、何故そこにリーニャが絡んでくるのかがわからない。何の陰謀だ?
「奴はBランクの剣士だな。それにまぁ、確かに改めてみてみれば、何だ、その、弱いな。」
ハルマーが俺達を見ながら、申し訳なさそうにド失礼なことを口走った。
いや、事実よ? 剣聖ってあれでしょ? セイバーの上でしょ? ディトの上でしょ?
そんなのから見たら俺らなんて雑魚よ。否定はしない。素直な人は好きよ。
しかし、やっぱり強い人ってパッと見で強さを計れるんだな。
「すまん、奴のデマに踊らされていたみたいだ。よくよく考えれば、奴は自分の思い通りにならなければ珍妙な行動に出ることが多かった。」
ハルマーはそう言って頭を下げた。
落ち着いて話してみれば、ハルマーは穏やかな人だった。
ただ、強さの事になると、どうも見境なくとまでは行かないが、暴走気味になってしまうらしい。
今朝の朝食中に誰かの視線を感じたのだが、それが実はハルマーだったらしい。
何故その時に決闘しなかったのか謎だが、まぁ彼なりにポリシーがあるんだろう。
「俺はどうしても、強くなりたい。強くなる為にはいろいろな方法があるが、やはり強者との立ち合いが一番為になるかと思ってな。」
ハルマーはどうしても強くなりたいとか言ってるけど、彼はAランクである。剣を使う戦士ツリー、つまり剣士職の最上位の剣聖である。
それで年齢は聞いた所、なんと21歳だとか言うではないか。
21歳でAランク冒険者って、俺からすれば相当強いんじゃないかと思うんだけども、本人的にはまだ足りないんだとか。
そういや勇者のナオトも見た目は若かった。あの人も20そこらじゃないだろうか。
この世界若いのに強い人多くないか? いや年取っても弱い人が多いのか? それは失礼か。
「とにかく、申し訳なかった。決闘は取り消そう。」
「分かってもらえて助かります。」
「ところで、代わりに極めし者に相手をしてもらうことは出来ないのか?」
「あー……」
ハルマーがニーアを見る。俺もニーアを見る。
ニーアが今は戦える状態じゃないのは誰の目にも明らかだ。
ただ、これの理由を伝えても良いものなのかどうか悩む。
まぁでも別に黙っててくれと言われたわけでもないし、話しても良いのか?
いや、というか話しておかないと、何かこの人はまた別のタイミングで決闘を仕掛けてきそうな気がしてきたので話しておこう。
リーニャにアイコンタクトを送ると、リーニャはすぐに意味を理解し、ニーアを部屋につれて戻った。
スクリーマーの話をする時に、ニーアの前でしないほうが良さそうだからな。
「実はですね……彼女は今戦えないんです。」
「何?」
「詳しいところまでは聞いてないんですけど、その、スクリーマーという人型の魔物にやられたらしいんですよ。」
「魔物にやられたのか? 極めし者が?」
「それも、ニーアともう一人、レンノエっていうアサシンの人も一緒だったんですけど。」
「レンノエ……"絶影"か。極めし者二人でも勝てない人型がこの世界に居るとはな。」
「それでニーアさんは大怪我を負ったらしくて、まぁその肉体的な怪我は完治しているんですけど。」
「精神的なトラウマのせいってことか。」
ハルマーは顎に手を添えて思案顔になった。
まぁとにかく、これで彼女が戦えないっていうのは伝わっただろう。
性格は良いのかもしれないが、やっぱり厄介事を持ち込んできそうな人はお断りである。
ん? お前が言うなって? 誰が疫病神だ、失礼な。
まぁその流れで、クロトガという獣人族の里まで送る事になっているという所まで説明した。
「それなら、仕方ないな。」
ハルマーは渋々納得したのか、席を立った。
「そう言えば、いつまでこの国に滞在するつもりだ?」
「え? あと十日程ですけど。」
「そうか、それまでには詫びの品を持ってこよう。」
え? マジで? そんな大層な事でも無いと思うんだけど。
でも最近になって図々しさを覚えてきたので何か貰えるならありがたく頂戴することにした。
「また、別の強者を当たってみる、長らく失礼した。」
そう言うと宿を出ていった。
はぁ、騒がしい一日だったなぁ……
何だかドッと疲れがたまったので、取り敢えずダートンに果汁ジュースを頼むのであった。




