71話 リハビリ
2017/12/19 誤字修正しました。
クリシュナードに辿り着いて初日の宿泊。
宿代の節約の為にも、部屋は二部屋までしか取らない。
勿論俺用の一部屋と、女子たち用の一部屋だ。向こうは少し大きめの部屋を借りてある。
部屋の中では必然的にシロナやヒサメと顔を合わすことになる。
なので、半強制的にでもニーアにはこの二人くらいには慣れてもらわないといけないのだ。
本当にどうしても無理なら部屋を増やすなり何なりしないと行けないけど……。
まぁ、ヒサメの事は知らないとしても、シロナのことは知ってるし、そこら辺の魔物を見るよりは抵抗も少ないはずだ。
という訳で始めたリハビリだが、実際の所かなり難航していた。
始めに提案したのは、スライムであるレイに触ること。これはすんなりとクリアした。ていうかスライムって元々敵意ないし、そもそも魔物ですら無いんじゃないか実は。
その次はベッドに座ってリラックスしてもらったニーアに、距離を取って向かい合ったシロナが少しずつ近寄っていく作戦だった。
だが、これはあえなく撃沈。
理由は、魔物が近寄ってくるという恐怖心が何よりも勝る為に、半パニック状態に陥ってしまうからだった。
少し考えれば分かった事だ。ニーアにはかなり悪いことをした。
そしてその次に提案したのが、立ち位置を逆にすることだった。
「……っ! くぅっ……、ふぅっ、ふぅっ、むっ、無理にゃぁぁ……」
ベッドに座るシロナと距離を取って向かい合い、震えながらそろりそろりと近寄っていったニーアだったが、最初に立った場所から半分も進まずギブアップしてしまった。
自分の匙加減で歩みを進めることができ、尚且つベッドに座るシロナはめちゃくちゃ小動物みたいに可愛い。まさに最高の案だと思ったわけなんだけど……。
「うーん、やっぱり恐怖心が勝るみたいだなぁ。」
「やっぱり負担がかかるようだし、部屋割りを考えたほうが良いんじゃないかしら。」
何も無理やりニーアを治そうと思っているわけじゃない。本人が拒めば止める。それはリーニャも同じ意見だし、必要なことなら部屋代なんて出すのも躊躇わないんだけど。
「いっ、いや、やるにゃ……。」
最初にリハビリを提案した時からニーアはやる気なのだ。本人的にも、これは治したい事らしい。
そりゃぁ、今まで冒険者としてブイブイ言わせてきたわけだし、それに見合う力も持ってるし、冒険者ができなくなるのは物凄く勿体無いと思う。
だから、ニーアにやる気がある以上は、俺達だって手伝いたい。
でも、詰めて詰めて心身を削ってしまうのは良くない事だ。
「まだ時間は沢山ありますから。少しずつ慣れていきましょう。心が落ち着くまでは休憩ですね。なんなら明日に回しても問題ないですし。」
俺がニーアにそう言葉をかけると、リーニャがニーアの肩に手を回して落ち着かせる。
シロナはそのままベッドに寝転がった。心なしか、切なそうな表情をしていたようにも見える。
やっぱり、少しでも交流があった人に距離を置かれるのはつらいものがあるんだろう。特別表情には出さないが、シロナは結構甘えたがりだ。
それとは対象的に、ヒサメは腕を組んでやれやれといった表情でニーアを見ていた。
「難儀なものねぇ。まぁ、分からないこともないけどぉ。」
出会った時、感情のままにシロナへ襲いかかったことを思い出したのか、言葉の最後の方で複雑な表情を一瞬見せたが、そんなことはなかったかのようにひらひらと手を振ってシロナ方面の部屋の端へ移動した後、とぐろを巻いて休み始めた。
うーん、どうしようか。
今は夕方、依頼や外出はもう出来ないし、今日はご飯食べて終わりにしようかな。
「皆、ご飯食べようか。」
「ん!!!」
「そうねぇ。」
シロナはいつもの通りテンション高めで、ヒサメは落ち着いて返事をする。
「ほら、ニーアさんも。ご飯食べましょ?」
「……にゃ。」
リーニャに促されてニーアも夕飯に。
それにしても返事が「にゃ」って。うーん、ニーアはこのまま小動物化してても良いのではなかろうか。
いやいや、俺の趣味にちょっと掠るからってそれはイカンぞ。
失礼な事を考えてる暇があったら良いリハビリの方法でも考えるんだなユウスケよ。
さて、ご飯いこか。
「す、すまん。こんなものしか出せないのだが……。」
この宿『浪々楽々』のオーナーで、手招きしていた少年――ケインという名前らしい――の親父さんであるダートンが申し訳なさそうにしている。
今目の前に出ている料理は、何というか男の料理って感じのあれだった。
サラダと、何かの肉を焼いた物と、パン。
肉も、至ってシンプルにそのまま焼き、素材そのものの旨味を楽しめる様になっている。
まぁ、こんなこと言っちゃ何だけど、料理苦手なんだなこのおっちゃんって感じだ……。
「んー!!!」
「懐かしい雰囲気の味だわぁ。」
モン娘二人組は特に文句もなくバクバクと食べている。
ヒサメの発言は後で聞いた所、ラミアの集落で狩りをしていた時は、魔物の肉を味付けもなくただ単に炎魔法で焼いて食べていたからだとか。
それ、意味分かったら結構ヒヤヒヤもんの発言だからね? 一歩間違えれば煽りよ。ダメよ。
そんでリーニャも俺もまぁ、作ってもらっている手前特に文句はない。
ニーアも、まぁ文句はなさそうに食べていた。
食べ終わった後に、リーニャがダートンを連れて台所に向かっていたのは、まぁなんだ。リーニャなりの優しさなのだろう。
自分の知っているレシピを幾つか伝授したリーニャが帰ってきたのは、相当後になってからだった。
翌日、朝食に出てきたのはサンドイッチだった。どうやらこれもリーニャが教えたらしい。
野菜を挟んでいるのだが、少しぴりっとしたハーブを入れることでいいアクセントになっている。
朝にはもってこいの食事だな。
「いやぁ、嬢ちゃん。助かったよ。思ったよりも簡単なレシピなのに、一手間かけるだけで味って結構変わるもんなんだな。」
ダートンはそう言って笑った。
その手には、昨日の夕飯で出ていたであろう肉が、タレを絡めて焼いてあった。
「これは昨日のお詫びだ。食ってくれ。」
「なんかすみません、ありがとうございます。」
「いや、謝るのはこっちの方だ。金払わせてるのにそれに見合った料理も出せないんじゃダメだからな。」
そう言うと、ダートンは全員のテーブルにタレを絡めて焼いた肉を置いていく。
「そろそろ女房が帰ってくる頃だろうから、その頃にはもっと良い飯が食わせてやれるんだがなぁ。」
ダートンの奥さんは、親の所に顔を出しに行っているらしい。
本来は奥さんが料理を作って出すらしいのだが、今は里帰り中。仕方なくダートンが料理を作っていると。
そんな話を聞きながら料理を食べていると、ふと視線を感じた。
この宿の入り口からだ。
視線を向けると、そこには誰も居なかった。
「ねぇリーニャ。誰か宿の入り口に居なかった?」
「うん、見てはないけど、気配はあったわね。お客さんか何かじゃないかしら? 少なくとも敵意はなかったわ。」
「そうなの? まぁ、敵意がないなら良いか。」
昨日よりも断然美味しくなった肉を平らげると、俺達は早速ニーアのリハビリに取り組む。
目標は昨日より一歩近くだ。ゆっくりでいい。無理をしない程度に。
リハビリが終わると、冒険者ギルドへ俺とレイだけで向かう。
近くの人型の情報を受付に聞いたり図書室で調べたり、俺、レイ、シロナ、ヒサメのメンバーで出来そうな依頼を探す為だ。
どうやらクリシュナードの付近にはケンタウロスの集落があるらしい。ケンタウロスといえば、毅然とした態度で人間との間に不戦協定を結んだ程の強種族だ。
まぁ、何かに困ってたとしても俺達の出番はないだろうな。
ニーアを送って済んだら、一度くらいは顔を出してみたいものだけど。
それと受付の話では、森の方ではアラクネの目撃情報が上がっているらしい。
これは確かなものではなく、目撃回数も一回と信憑性に欠けるものだが。
と、まぁそんなところか。
噂では海にはマーメイドが住んでいるって話も聞くし、そっちも一度は見てみたい。
ここから海はかなり遠いが。
さて、依頼の方だけど、討伐や素材集め依頼はまぁそこそこだ。Dランクの依頼もそれなりに沢山あるし、Eランクの依頼も多い。俺達で出来る依頼もある。
採取依頼も結構あって、まぁ大体Fランクなんだけど、こっちで安全にちょこちょこお金を稼ぐって手もある。
今のところは貯蓄がそれなりにあるから、Eランクの討伐依頼でも良いかな。
やけにゴブリンの依頼があるから、ゴブリン討伐だけ何個か持っていこう。
受付にゴブリンの討伐依頼書を持っていくと、少し驚いたような顔をした。
「ゴブリンの討伐をするんですか?」
「え? えぇ、そうですけど。何か問題が……?」
俺が聞き返すと、受付嬢は慌てて首を振る。
「いえいえ、ゴブリンの討伐をやられる方は珍しいので。」
「へぇ、何でですか?」
「ココらへんでは、ゴブリンみたいな低ランクの魔物を好んで狩る人が少ないんですよ。皆さんプライドが高いので。」
最後の方は小声でコソコソッと教えてくれた。成る程。クリシュナードは優秀な魔法使いが集まるくらいだし、ゴブリン狩っても別に旨味がないわけか。
いや、旨味がないじゃないな。受付嬢のニュアンスだと、そんな雑魚は俺達がわざわざ狩る魔物じゃねぇ! って感じか。
まぁ、俺はこの国の人間じゃないし関係ないけどね。
「じゃあ、俺達が多めに減らしておきますよ。」
「お願いしますね。余り増えられても困りますので。」
依頼を受領し、早速ゴブリンの討伐へと向かう。
俺は周りの冒険者からの好奇な眼差しを背中に受けつつ、冒険者ギルドを後にした。




