70話 お約束は突然に
ちょっと短いです。
最初はユウスケの視点ではないです。
「おい、だーれが魔物をつれて入っていいなんて言ったんだよ?」
ざわざわとしていた大通りが、一瞬にして静まり返った。
中々に大きい声だったのもあるが、何より通行人の視線が初めからあいつらに向いていたせいだ。
俺は非常にムシャクシャしていた。
狙っていた女が思い通りにならない。それは俺にとって許せないことだった。
幸い、俺には力がある。だから今度殺して屋敷にでも飾ってやろうなんて考えながら帰路についていた時だった。
目の前に現れた女はエルフだった。
初めて見る、が、あれは間違いなくエルフだ。
すっと伸びた耳、後ろで束ねられた美しい金髪。
そして何より、今まで出会ったどの女よりも美しい。
何故か俺の方を向いて、露骨に嫌そうな表情をしているが。
欲しい。
先程まで頭に残っていた女の事が、この時すっぽりと抜け落ちてしまった。
それ程に、このエルフが欲しくなったのだ。
エルフの腕にもう一人深くフードを被った女がくっついているが、身体的な特徴からして猫人族だろう。
まぁ、具合は良いと聞くし、そいつもついでに手に入れればいいか。
そうして声を掛けた。俺が正面から声を掛けた時点で、こいつらは俺から逃れられない。
「従魔ですので、門番にも許可を貰っています。」
人型の主人らしきガキがそう答えてくる。
正誤なんて関係ない。何とでもこじつければ後は力でどうにかなる。
「はぁ? 俺に楯突くのか? 言っておくが、そこの雑魚どもなどすぐに殺せるぞ。」
コイツの噂も、薄っすらと聞いたことがあった。
人型をテイムしたモンスターテイマーが居ると。
だがどうだ? ハーピィは基本Cランク程の強さだし、本体もDランクらしいじゃないか。
俺はBランクだからハーピィくらいなら余裕で殺せる。
それに連れているラミアは知らないが、どうせハーピィで勝てるレベルなら俺でも余裕だ。
ガキが苦い顔をしているので、俺はエルフと猫人族に近づきながら続ける。
「まぁ、でも俺は優しいからよぉ。この女二人よこせば許してやるよ。」
そうして猫人族の腕を掴もうとした。
「……ッ! いやッ!!!!!」
グシャッ
伸ばした俺の腕は、曲がらないはずの方向へと曲がっていた。
それが猫人族が振った腕でそうなったのだと気付いたのは、少し遅れてからだった。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い。
獣人は身体能力が高いとは聞くが、何なんだこれは。
俺はBランクだ。ステータスもかなり高い方だ。その俺が全く反応できないだと。
俺の腕をこの様にした猫人族を睨みつける。そいつは、フードが取れて顔が見えていた。
俺はその顔に見覚えがあった。
いつか参加した大掛かりな魔物討伐の時、先陣を切って魔物を仕留めていっていたAランク冒険者。
極めし者であり、二つ名を持つ武道家。
「神速の……ニーアぁ!?」
様々な憶測が脳内を駆け巡る。
何故彼女がここに居るのか。
ほぼSランクのような強さを持つ彼女が、何故エルフに縋り付くようにしているのか。
少し考えて、俺は一つの可能性にたどり着いた。
それは、あのエルフはニーアよりも強いかもしれないという事だ。
だから、ニーアがあのエルフに全信頼を置いているのでは?
もしかして、ニーアを鍛えたのはあのエルフなのでは?
そう思い始めると、初めから俺の方を見て嫌な顔をしていた理由がわかった。
俺が来ることが分かっていたからだ。そんな事を把握することは朝飯前なんだろう。
俺は腕の痛みなど忘れ、一目散に野次馬に紛れるようにして逃げた。
とんでもない奴らに絡んでしまった。俺の命はもう無いかもしれない。
願わくば、彼女らが俺のような雑魚に構わぬ寛大な器の持ち主であることを祈るばかりだった。
~ クリシュナード ユウスケ ~
「……ユウスケ。あいつ、もう私の感知外まで行ったみたい。」
リーニャがそう呟いた。
最近リーニャも人型同様の鋭さで悪意を拾うことがある。
まぁ、アステニアとかでの経験がそういう感覚を育てたんだろうけど……今回も、男から声を掛けられる前にリーニャが何か来そうとか言ってた時には正直焦った。
結局、絡んできた男はニーアの顔を見るなり冷や汗をダラダラと流しながら逃げていった。
やはりランクの高い冒険者というのは知名度があるのか、何にせよ助かった。
魔物と戦えないとはいえ、自衛くらいならニーアも余裕で出来そうだな。
ニーアはフードを被っていないと落ち着かないのか、すぐにフードを被り直していた。
だが、皆が注目している中でフードが取れてしまったせいでニーアの事はモロバレだ。
しかしそれが功を奏したのか、騒動以前の様な鋭い視線は少なくなった。
Aランクの冒険者が俺達を管理しているとでも認識したのか分からないが、何にせよ少しありがたい。
やっぱりネームバリューっていうのは大事だな。うん。
ニーアがこのような状態になった理由を何回か尋ねられたが、お忍び旅行だからフードを被って隠しているんだとか適当なことを言いつつのらりくらりと躱して停留所へ到着。馬車を予約して宿探しへ。
馬車は今から約二週間後に出るってことだったので、その間は泊まりだ。
二週間もあれば、いくらか依頼を受けたりも出来るかもしれないが……ニーアがどうかだな。
まず最初のうちは、シロナとヒサメからリハビリを開始してみようかと思っているが、うーん。
「え、えぇとなぁ。うちはその、従魔を泊めることは出来なくてな……。ほ、本当に申し訳ないのだが、他を当たってもらえないか。」
宿を探し始めて、かれこれ一時間程歩き回った。
見つけた宿は、全て従魔を泊められないと言う理由で断られた。
うーん、アステニアとグリルが特別だったのか?
ていうか俺の勘違いでなければ、厄介者は泊めたくないというオーラをひしひしと感じるわけでだな。
つまりこれ、泊まれるとこ見つからないんじゃないか。
「はぁ。」
思わず溜息をつく。俺の溜息に同調するかのようにリーニャも溜息をついた。
「ユウスケ、最悪私は野宿でもいいわよ……テントとか買って、レイに格納してもらっといた方がいいんじゃない?」
「そうだね……こりゃ手強いなぁ。」
次は宿屋と同時に道具屋も探さないとな……とか思いながら大通りを歩いて行く。
すると視線の端っこに、ぴょこぴょこと何かが映った。
「ん、なんだ?」
そっちに目を向けると、どうやら細い路地から手招きする誰かがいる。
本来なら罠とかを疑うべきなのだが、どう見てもそれをやってるのが子供なので、取り敢えず近付くことにした。
「おい、にーちゃん達、宿探してんのか?」
少年が小声で俺に問いかける。
「そうだけど、良いところ知ってるのか?」
「良いところかどうかは分かんないけど、泊まれる宿ならあるぞ。」
うーん、いかにも罠臭い展開ではあるけど、子供がそんなことしないだろうし、リーニャもシロナもヒサメも特に警戒してないし、ていうかニーアも加えたこのメンバーなら何があっても大丈夫そうな気もしてきたのでついていくことにした。
案内された先には、外観はとても綺麗で立派な宿があった。
「綺麗な宿だな。」
「そうなんだよ。でも、この宿を知ってる客が居ないから、全然収入なくてさ。」
だろうね。
地元の人じゃなくて基本的には外からの人を泊める為の施設なのに、それが地元の人じゃないと分からないような裏道とかの先にあるんじゃ、そりゃ客も増えない。
「とにかく、ここに泊まってよ。もう生活費がピンチなんだ。」
「生活費がピンチって……何で知ってるの?」
「僕の父さんの宿だからだよ。」
あぁ、そういうことね。
普通に客引きしてたのね。
取り敢えず、宿に入る。
カウンターには、突っ伏して寝ている男性が居た。この子の親父さんかな。
少年がカウンターの男性を起こしにいく。
「父さん! 客だよ客!」
「グゥ……ん、何? 客だと!?」
客という言葉を聞いた瞬間、飛び起きるように顔を上げた。
そして俺達を一人ずつ確認していって、案の定シロナとヒサメで止まった。
「な、な、何で人型がこんな所に!?」
お父さん、あれこれこういう訳で従魔なんです。もう説明も何度目かわからないくらいしてるので察してください。
ってのは無理な話だったので、イチから説明。
「信じられねぇが、本当に従魔なんだなぁ。」
親父さんは従魔証明証であるネックレスと腕輪をまじまじと見つめながらそう呟いた。
結構人型が従魔ってことを受け入れるの早い人多いよね。テイム限界解放って案外凄いスキルでも無いのか?
「それで、泊めるの?」
「当たり前だ。唯でさえ客が少ないんだから、四の五の言ってられんだろう。宿の物さえ壊さなけりゃいくらでも泊まっていってくれ。一室一泊銅貨十枚だ。」
もう二週間は泊まることが決定しているので、前払いで二部屋二週間分払う。
いつもは一部屋で借りるけど、流石にニーアが居るし二部屋借りるべきだろう。
よし、取り敢えずこれで宿は問題無しだな。後はニーアのリハビリか。頼まれたわけじゃないけど。
俺達は案内された部屋に向かっていった。




