68話 次の目的地
前回で三章終わりって書いちゃったんですけど、やっぱりもう一話入れました。
次の目的がはっきりしないまま章を切るのって、なんかスッキリしなかったので……
この話で三章は本当に終わりです。次から四章に入ります。
魔王。
魔族を率いて、人間達に戦争を仕掛ける存在。
転生した直後に、エマの町でアルダンに少し聞いただけしか知識がないけど、身を持って知った今では、何も知らずに過ごすことがいかに危険なのかが分かる。
現に、俺達はあの漆黒の渦が魔族が現れる前兆だとか、人の多い所に仕掛けてくるとか、予め知っていれば遭遇を免れたくらいの、とても重要な情報だ。
そんなもの、少し調べれば分かることだったし、それを怠ったが為に全員を危険に晒すことになる。勿論、自分のことも。
『グリルに魔族襲来……ね。』
部屋に戻ってすぐ、アステニアのギルドマスターであるレイフさんに貰った通信用の指輪で、レイフさんと連絡を取ることにした。
今周りにいる人の中で一番的確な情報をくれそうだったからだ。
と言っても、グリルの人達が冷たいとか、情報を持ってないとかそういう訳ではない。
魔族襲撃という爆弾の後処理をするのに、今やグリルは多忙を極めていた。
もちろん、倒壊した建物や施設を直すのもそうだし、負傷した人の治療や、運悪く亡くなった方の身元を探したりとか何とか……。
とにかく、現状冒険者ギルド職員に限らず、都市全体で猫の手も借りたい状態の所に、わざわざ俺の為に時間を割いてくれなんて言えないのだった。
そこで、こちらと比べてまだ余裕のある人で、情報を持ってて、尚且つすぐにコンタクトを取れる人を考えれば、自然とレイフさんになった訳だ。
『それはまた災難だったね。ここ数年は落ち着いていたと思っていたけど、まさか君達が向かった時期に被るとは……。』
レイフさんが言うには、魔王は思いの外高い頻度で魔族を送り込んでくるらしい。
それこそ、昔の記録を参照すれば、酷い時期には年に一回とかの頃もあったそうだ。
「それで、魔王について詳しく知りたいんです。魔王の討伐に関わらないとはいえ、ちょっと今までは無知すぎました。」
『なるほど。それならいい場所を知っているよ。』
「本当ですか!?」
『うん。クロトガって言う所なんだけど。』
クロトガ……元々この世界の地理に詳しくないけど、今まで少しも聞いたことない名前だ。
「何処にあるんですか?」
『そこから言えば、隣の国のクリシュナードを更に越えた場所だね。』
隣の国を更に越えた場所。確か隣の国って、勇者のナオトが魔王が出現しやすい場所って言っていた所だったよな。
「そのクリシュナードではないんですか?」
『うん。クリシュナードは今でこそ一番狙われやすいけど、昔はそのクロトガって所の方が人口が遥かに多かったんだ。』
「それって……」
『そうだね、魔王のせいで、随分と減ってしまった。』
魔王によって壊滅させられた、今でも栄えていたはずの場所。
つまり、直接的に被害を受け続けて、その残酷な事実の記録が全て残っている場所。
『獣人と人族が沢山生活していたらしいんだけど、魔族の襲撃の際に、人族に比べて身体能力の高い獣人の方が多く逃げ延びて、今は殆ど獣人……というか、獣人だけが住む土地みたいになってるね。』
「そうなんですか……情報ありがとうございます。向かってみます。」
『あぁ、それで、一つ頼まれて欲しいんだけど……いいかな?』
「はい、出来ることなら。」
通信を切ろうとした時、レイフさんからの頼み事があると聞いてその先を待つ。
レイフさんには良くしてもらっているし、出来ることなら何でもやりたい所だ。
『一度、アステニアに戻ってきてくれないかな。』
「それはいいですけど、何でですか?」
『いや、そのクロトガに向かう人が一人居るんだけど、その護衛を頼みたいんだ。』
「護衛、ですか? 良いですが、もっとランクの高い人に頼んだ方が……。」
『いや、君達がいい。事情を知ってるし、戦力的にも申し分ないしね。』
護衛と聞いただけで、貴族だったら面倒くさいとか考えた俺だけど、事情を知っていると言う言葉に首を傾げた。つまりは俺の知り合いってことか?
『護衛を頼みたい人っていうのは、ニーアなんだ。』
ニーア? ニーア……ニーアって……?
「え!? "神速"のニーアですか!?」
『そう、"神速"のニーアだよ。』
「ちょっと待ってください。彼女なら俺達の護衛なんて必要ないんじゃ……。」
『いや、必要だ。』
あの戦闘を見た人なら、並の魔物や盗賊なんかにはよっぽどのことがあっても負けないと思うであろう、あの"神速"のニーア。俺達が護衛につくほうが足手まといだと思う。
『彼女は今、戦えないんだ。』
「それって、スクリーマーとの戦闘で負った怪我のせいですか?」
『身体はもう大丈夫だよ。驚くほどの回復力だ。でも、問題は心の傷だね。』
スクリーマーと戦い、負けたことで、彼女の何かがポッキリと折れてしまったらしく、目を覚ました後から戦うことを止めた。
それどころか、敵意を感じると怯えるばかりで、身体の丈夫さ以外はもはや普通の町娘のようになってしまった。
レンノエは高ランクの依頼や指名依頼で忙しく、かと言ってこの状態のニーアの護衛は誰にでも頼めることじゃない。
そこで、事情を知る俺達に送って欲しいと言うことだった。
『クロトガは彼女の故郷なんだ。一度ゆっくり休んで貰うのが良いかと思ってね。そこまで、お願いしたいんだけど。』
「分かりました。じゃあ、一度アステニアに戻りますね。」
『助かるよ。報酬は前渡しするから、向こうについてからは君達の動きたい様に動いてくれてかまわないよ。』
そこで、レイフさんとの通話を切った。
ニーア……あれだけ強くて、戦闘中にスイッチが入ればバトルジャンキーのようになる彼女が、戦いに怯える……。
きっと、物凄いトラウマを植え付けられてしまったんだろう。
それはスクリーマーの強さのせいか、それとも他に理由があるのか。
とにかく、彼女の前ではスクリーマーについての話は止めた方がいいか。
「ねぇ、ユウスケ。スクリーマーって、そんなに凄い存在なのかな。」
隣で座っていたリーニャが、不安そうな顔で尋ねてくる。
「うん、最もSランクに近い人がトラウマを刻まれるくらいだからね……。」
不安を煽ることは言いたくないけど、事実を理解せずに軽く考えるのは危険だ。
だから、最上級に警戒しないといけないことは、不安を煽るような事でもしっかり口にしないといけない。
「私達が出会ったら、どうなるのかな……。」
リーニャは俯いて、そう言葉を零した。
楽観的に考えるのは良くないけど、対策をすることは出来る。
「大丈夫だよ。声が聞こえたら遠ざかればいいし、事前に現在の出現区域を調べてからルートを決めよう。商人やアステニアからの冒険者達なら、身を守るための情報は最新のものを持ってるはずだし。」
事前準備は大切だ。どこかの誰かが言っていたけど、大体どんな物事でも準備が9割実施が1割だ。
準備をしっかりしていれば、後はそれを実行するだけ。準備が整っていれば整っているほど、物事はすんなりと進んでくれる。
俺は『救命の志』のリーダーとして、全員の安全を確保する使命がある。
それに。
「何かあれば、俺が守るし。」
ステータスでも、スキルでも、視野も、あらゆる事で俺は皆に劣っているけど。
だからこそ、俺が頑張らないといけないことがある。
助けたい人達がいる。
守りたい仲間がいる。
「だから、安心してよリーニャ。」
俺みたいな弱い男の言葉なんて、心に響かないかもしれないけど。
それでも、リーニャは俺の方を向いて微笑んだ。
さて、アステニアに行く準備をしようかな。
新しい人助けの為に。




