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我こそはモン娘テイマー也  作者: hoikun
三章 助けるモンスターテイマー
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64話 ついに訪れた魔の刺客

ちょっと短めです。

 禍々しい漆黒の渦が、上空で存在を主張している。

 それは、瞬く間にこの都市全体を覆う程の大きさへと変貌した。


 言い様のない悍ましさが全身を支配した。

 何かが、何か良くないことが起こる。そう直感する程にあの渦は威圧感を放っていた。

 いつの間にか握りしめていた拳が、じっとりと汗ばんできている。


「……来やがったか。」


 近くで、誰かの声がした。

 その声を皮切りに、漆黒の渦から何かが湧き出てくる。

 それは、腐敗した木を無理やりこねて人の形にしたような、形容し難い物だった。

 その醜悪な見た目に、背筋が凍る。


「魔族だ!」


 年季の入ったブロードソードを担いだ冒険者らしきおっさんがそう叫んだ。

 魔族? アレが魔族だって?

 どう見たって生物だなんて言えないような、あの塊が?

 降りてきた――と言うよりは、降ってきた――魔族と呼ばれた塊は、地面にゴシャッという音を立てて着地――もとい落下――した後、出来の悪いロボットのような動きで立ち上がった。


「きゃああぁァァァァァァっ!!」


 冒険者なのか、商人なのか、女性の叫び声が聞こえた途端、周りに居た冒険者や野次馬達も叫びながら散っていく。

 しかし禍々しい漆黒の渦はこの迷宮都市グリルを覆う程の大きさだ。

 都市の至る所に魔族は降ってきていた。

 そしてそれは、この都市に居る人々を混乱に陥れる。


「いってぇ!! てめぇ何処見て走ってやがる!!」


「何処に行っても魔族が居る……もうお終いだ……」


「レミィ!! レミィ何処に行った!!」


 ある人は脇目も振らずに逃げるあまり衝突して揉めていたり、ある人は絶望してその場に座り込んでいたり、ある人は仲間か子供かとはぐれて探していたり。


 そんな中で、一際大きな声が響いた。


「戦えるやつは戦え! 戦えないやつは中心に向かえ! 冒険者ギルドの周りには避難用の建物がある!」


 先程魔族だと叫んだブロードソードを担いだおっさんだった。

 おっさんはブロードソードを構えると、ぎこちなく動く魔族に向かって走り出す。


「おおおおぉぉぉぉぉ!!」


 まるで叩きつけるような暴力的な一振りが魔族の腕らしき物を切り落とす。

 落ちた腕らしき物は、瞬く間に溶けて消えていった。

 顔らしきものはあるが表情の見えない魔族は、斬られた腕なんてまるで気にしていないようにおっさんへと襲いかかる。

 でも、魔族は軋む音が鳴りそうな遅い動きだ。おっさんはしっかりと攻撃を躱しながら、反撃していた。


「こ、こっちだ! 冒険者ギルドを目指せ!」


 一人の青年が冒険者ギルドの方角を指差す。逃げ惑っていた人々は、その指示通りにその方向へ向かい始めた。

 その一言をきっかけに、他の冒険者達も戦いだし、あるいは人々の護衛に付き始めた。


「Eランク以下は逃げろ! Dランクでも無理すんなよ!」


 最初に叫んだブロードソードのおっさんがそう叫ぶ。

 その声で、戦う姿勢を見せていた冒険者の一部が、悔しそうな顔をしながら、あるいはホッとしたような顔をしながら都市の中心に向かう集団の中に混ざっていった。


 俺は、その集団や冒険者達を横目に、中心とは違う方向へ走り始めた。

 目的地は『ふぇんりる』

 俺の仲間たちが待っている宿へ。




~ 迷宮都市グリル 宿屋『ふぇんりる』 リーニャ ~




 ユウスケが冒険者ギルドへ出かけてから、私はぼーっとヒサメを見ていた。

 外でスティエちゃんと一緒にうたた寝している姿は、まるで母親と子供だ、なんて思いながら。


 そういえば、ユウスケがヒサメのステータスを見た時に、ヒサメは19歳だと言っていた。

 私と同い年だ。絶対ウソだ。

 あの発育で、あの雰囲気で、私と同い年? 見た目だけで言えば絶対私より年上よ。

 特に、その、む……スタイルとか。

 決して私が太っているとか小さいとかそういうのじゃなくて。

 いや、私もある方よ。うん、間違いなくある方だわ。


 いや、そんなのはどうでも良くて。


 スティエちゃんと二人でうたた寝している姿を見ると、ユウスケの気持ちが分かる気がした。

 シロナちゃんの時も、ただの女の子にしか思えないと思ったけど、この光景はそれよりもっと、どう表現して良いのかわからないけど……

 あ、そう! 家族!

 種族の隔たりとか、血筋とか、そういうのが全く関係無い、純粋な繋がり。

 家族のような暖かさを、今とても感じている。


 ぼふっ


 身体を動かせないのがストレスなのか、シロナちゃんがベッドにダイブしては立ち上がってを繰り返し始めた。

 シロナちゃんは軽いからベッドが壊れることはないだろうけど、あんまり良くないし、ちょっとまた散歩に行こうかしら。

 でもユウスケとすれ違いになったら、ユウスケが焦って街中を探し始めるかもしれないし……


「シロナちゃん。運動したいの?」


「んーーーー」


 シロナちゃんは不満げな声で返事した。

 シロナちゃん的には、もう身体の不調もないから思う存分動きたいんだろうけど。


「ごめんね、あと一日だけ我慢して?」


「んーー」


 上半身だけベッドに乗っけてうつ伏せになっているシロナちゃんが、ベッドに顔を埋めてこもった声で返事する。

 今日しっかり休息を取ったら、明日からは少しずつ依頼を受けていくようにユウスケにお願いするつもりだ。


「動きたい。」


 シロナちゃんが、ベッドに埋めた顔をこちらに向けて言う。


「明日から、また依頼を受けるようにユウスケに言うから。」


「身体、もう大丈夫。」


 私は、返す言葉がなくなってしまう。

 今は無理やり休ませているようなものだ。私とユウスケのエゴだ。

 それでも、心配なのだから譲ることは出来ない。

 私が冒険者をするって言った時、町を出るって言った時、イルダさん……いや、お母さんは私をよく送り出してくれたと思う。

 もし私に娘が居たら、それこそ怖くて、手放したくなくて、絶対行っていいだなんて言えない。

 でも、ユウスケだったら冒険者をやらせてあげるのかしら。

 ユウスケも、シロナちゃんの事を見てる限り、私と一緒に娘が冒険者になることには反対しそうね。

 ……自分で言ってて顔が赤くなった。無意識に、隣にはユウスケが並んでいて、しかもそれが夫婦だなんて。妄想が過ぎるわ。


「おいで、シロナちゃん。」


 ごまかすようにシロナちゃんを私の膝の上に呼ぶ。

 シロナちゃんはトテトテと向かってきて、ちょこんと座った。

 それを、私は後ろから抱きしめる。


「今日までだから、お願い。」


「……ん。」


 渋々、本当に渋々なんだと思うけど、シロナちゃんはようやく納得してくれた。


 しばらくそのまま抱きしめていたら、急にシロナちゃんがぶるっと震えた。


「どうしたの?」


 わたしの問いには答えず、シロナちゃんは窓の外を見ていた。

 つられて私も外を見る。

 そこにはヒサメとスティエちゃんが居るだけだ。

 ……?

 今さっきまでうとうとしていたヒサメが、鋭い目付きで空を見ている。

 何か嫌な予感がして、窓に駆け寄って外を覗く。

 見上げた空には、私の嫌な予感と違って何もなかった。

 何だか、雨が降りそうな天気だ。


「何か、くるわ。」


 不意にヒサメがそう呟いた。

 いつもの間延びした喋り声ではなく、すごく真剣な声で。

 ヒサメはスティエちゃんを抱えて、私の居る窓まで近寄ってくる。


「ヒサメ? どうしたの?」


「この子を中に入れておいて。出来れば外から何もはいれないように細工も。」


 そう言って窓から私にスティエちゃんを預ける。

 私は何も分からず、ヒサメに説明を求めようとした。

 でも、それは遮られた。

 急に大空に広がった、黒い渦の出現によって。


 禍々しい黒、それはこの世の悪を全て詰め込んだかの様な威圧感を放っていた。


「なに……あれ……」


「リーニャ。」


 ヒサメに声をかけられてハッとする。

 あれは、多分悪いものだ。今から何かが起こる。

 だから、少しでも安全な場所にと、ヒサメはスティエちゃんを避難させたのだ。


 私はスティエちゃんをベッドに寝かせる。


「ヒサメ、あなたはどうするつもりなの?」


 何が起こるかは分からないけど、ヒサメも建物の中にいた方が安全だ。

 でも、ヒサメから帰ってきた言葉に、私は耳を疑った。


「迎え撃つのよ、あれらを。」


 ヒサメの視線の先、禍々しい漆黒の渦から、得たいの知れない何かが迷宮都市グリルへと降り注いでいた。


 いつのまにか、シロナちゃんもその光景を見つめている。

 その中のひとつが、ヒサメの近くに落ちる。

 それは汚い土塊人形つちくれにんぎょうのようだった。

 人形とひとつ違うのは、それは自力で動くということ。


「ヒサメ、あれ、なに?」


 シロナちゃんがヒサメに尋ねる。


「分からないけど、危険ねぇ。多分、結構長く続くわよぉ。」


 ヒサメは少しずつ戻ってきた間延びした口調で答えた。

 隣を見ると、シロナちゃんはうずうずしている様に見える。


 はぁ、何かよく分からないけど、今日はゆっくり出来そうにない。


「シロナちゃん、やっぱり今日から運動しよっか。」


 私はいつもの装備を手に取り、シロナちゃんを連れて外に出た。

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