63話 不穏な空模様
「へぇ、これが従魔の証明証ねぇ。」
道具屋で購入した腕輪を早速ヒサメに付けてもらったのだが、これが中々綺麗なもので、ぱっと見は本当にアクセサリーにしか見えない。
どうやって従魔だと見分けるかといえば、腕輪の中心に入っている紋章が従魔の証だそうで、何かはよくわからないが何かの動物の形を模しているように見える。
「いいんじゃなぁい? 可愛くて気に入ったわぁ。」
ヒサメはその腕輪をつけてから、上機嫌だ。
いや、付ける前から結構上機嫌だったが、今はそれ以上に上機嫌だった。
それから、シロナにも新しい従魔の首飾りをつけた。
シロナのつけていた首飾りは、それこそ従魔の紋章が描かれているだけの唯の首飾りだったが、新しいのはしっかりとしたネックレスのような物だ。
シロナは表情こそ変わらなかったが、やっぱり可愛い装飾になったからか喜んでいるように見えた。
それで、気のせいじゃなければなんだけど……
「……むぅ。」
リーニャがレイを腕に抱いて、非常にムスッとした表情をこちらに向けている。
まぁ、そうだよな。だってシロナとヒサメには従魔の証明証とはいえアクセサリーをプレゼントしているというのに、リーニャには全く何もプレゼントしていない。
リーニャはレイの次に仲間になったのだ。この中では古株だ。姑を差し置いて嫁にばかり良いものを買い与えるようなものだ。それが悪いと言うわけではないけども。
こりゃぁ近いうちにちょっと良い奴買ってプレゼントしよう。
門番の人からも通って良しとのことで、俺達は門を潜りグリルの中へ。
まぁ、予想はしていたことだけど、これまた凄い注目度だった。
ただ、シロナの時と比べてかなり恐れの視線が多い。見た目のインパクトがまだ柔らかいシロナと違って、こういう言い方もアレ何だけどヒサメはがっつり人型なのだ。
いや、シロナも腕や下半身を見ればがっつり人型なんだけど、そうじゃなくて、冒険者が出逢えば生きるか死ぬかってレベルの存在だっていうのがひしひしと伝わるというか……
まぁとにかく、戦えない人々や低ランク帯の冒険者にとっては、そりゃもう死神が歩いてるようなもので。
でも、その空気をぶち壊したのは、これまた冒険者だったのだ。
「おっ、さっきのラミアちゃんじゃん。」
「あら、誰だったかしらぁ?」
「今さっき外で囲んでた野次馬の一人だよ。いやぁー、凄かったぜあの芸は!」
「そうかしらぁ? ありがとう。」
すれ違う冒険者が、外でシロナとヒサメの氷の輪潜りを見ていて、声を掛けられる。
そんな事が何回も起き、仲良く冒険者と談笑する姿が人々の目に映り、それが繰り返されることによってヒサメへの恐怖心は徐々に薄れていっていた。
マダラから帰還して数日。
俺達は休養を取っていた。
俺は特に疲れていなかったのだが、シロナがあれだけのダメージを負ったのだ。シロナ程ではないにしろ、ヒサメもかなりダメージを受けた。
ヒールで傷は治っても、失った血は時間が立たないと元には戻らない。
という訳で、この宿屋『ふぇんりる』でダラダラするという有意義な時間を過ごしているわけだ。
流石にリーニャもシロナを休ませたいらしく、軽い散歩に出かける以外は部屋でシロナを休ませていた。
シロナはこれまた無表情のままでベッドに寝転がっては起き上がって、また寝転がっては起き上がってを繰り返していた。
多分動きたいんだろうとは思うんだけど、あの身体に氷が突き刺さった光景が頭に浮かぶと、どうしても充分な休息を取らせないとという思いが湧き上がってくる。
うん、それも行き過ぎた心配なんだろうけどさ。
ステータスを見たって、異常なんかこれっぽっちもないし。
そんな事を思いながらステータスを広げる。
-
ユウスケ・マツイ
18歳
種族:人族
職業:モンスターテイマー
状態:普通
Lv17
HP 250/250
MP 188/188
STR:63
VIT:88
INT:50
DEX:101
AGI:102
【所持スキル】
[U]テイム限界解放
[U]多言語理解
テイム
意思疎通
治療
-
-
レイ
1歳
種族:スライム
状態:普通
Lv17
HP 401/401
MP 136/136
STR:122
VIT:167
INT:84
DEX:139
AGI:146
【所持スキル】
悪食
格納
酸弾
液化
気配感知
-
-
シロナ
12歳
種族:ハーピィ
状態:普通
Lv16
HP 172/172
MP 128/128
STR:136
VIT:94
INT:144
DEX:208
AGI:232
【所持スキル】
[U]痛覚遮断
風属性魔法
気配感知
-
-
ヒサメ
19歳
種族:ラミア
状態:普通
Lv21
HP 308/308
MP 182/182
STR:175
VIT:240
INT:160
DEX:197
AGI:199
【所持スキル】
水属性魔法
氷属性魔法
気配感知
-
シロナもヒサメも、ステータス上では至って健康だ。
それでも心配してしまうのは、性格なんだろうな。
それは置いといて、ステータスの件で驚いたことがいくつかある。
まず一つ目だが、ヒサメがめちゃくちゃ強い。
ユニークスキルこそは持っていないが、気配感知や魔法が使え、ステータスも軒並み高い。オーソドックスな強さを持っている。
ステータスだけで見れば、正直シロナに勝ち目なんて無かっただろう。
あの時シロナが勝てたのは、風爆の意外性とシロナの機転、そしてヒサメが冷静さを欠いていたという複数の要素が積み重なって、本当にギリギリ勝ったのだと思う。
続いて二つ目だが、ヒサメはなんと19歳である。リーニャと同い年だ。
見た目ではかなりお姉さんな雰囲気を醸し出していたが、俺とは1つ違いだ。まぁ年上だしお姉さんに変わりはないのだけど。
ただ人間と同じ歳の取り方なのかと言われれば多分違うだろうと思うので、実際もっと歳上なのかもしれない。
続いて三つ目だが、なんと気配感知を持っていないのは俺だけである。
スライムのレイですら持っている気配感知、人間の俺が習得できていないのはかなり悔しい。
っていうか、君らそうポンポン気配感知できるのおかしいから。俺みたいな、ザ・一般人は人の気配なんてわかりましぇん。
そして最後に、俺めちゃくちゃ弱ぇ!
ステータスがマジでクソ雑魚だ! やってられっか! 何がSTR63だコラ。非力乙女か。
ヒール……もとい治療を覚えなければまさに役立たず、金魚のフンだ。
いや、ステータスが低いからこそユニークスキルや治療を手に入れたと思えば安いものか。
そう思わなければやってられない。
ステータスを閉じ、ため息を付きながら窓の外を見る。
窓の外には、ヒサメが軒下でとぐろを巻いて休んでいる姿があった。
ヒサメは、どうも宿屋のような建物は落ち着かないらしい。
最初は中に入って休んでいたが、すぐに外に出て建物の日陰で休み始めた。
まぁ、好みの場所なんて好き好きだ。ヒサメがそこが良いなら俺は何も言えない。
いつの間にかオーナーの娘であるスティエちゃんと仲良くなったらしく、スティエちゃんもヒサメに寄りかかってうたた寝していた。
お姉さん感が安心できるのだろうか。鱗は枕にするには少し硬そうだけど。
たまに通る冒険者達も、ヒサメのことが気になるようだ。チラチラと見ていたり、話しかける人もちらほらと居た。
しばらくぼーっと眺めていたら、あることに気がついた。
道行く人々の数が多いのだ。
「あれ、冒険者の人口増えてない?」
リーニャに声を掛けると、リーニャはレイを抱きしめながら答えた。
「うん、ここ数日で新しいダンジョンが見つかったらしいわよ。」
「新ダンジョンが?」
「それで、久しぶりに安全なダンジョンに認定されたらしくて、数日後に一般公開されるんだって。だから、Dランク帯の冒険者が素材や依頼目当てでグリルに集まってるらしいわ。」
「へぇ、それで人口が増えてるのか。」
新ダンジョン開放なんて、ゲームのイベントであれば、こぞって皆参加するだろうなぁ。この世界でも同じ様な感じなんだろうか。
まぁ、俺達は急いでやる必要はないし、なんなら新ダンジョンに潜らなくても問題無いくらいだ。
あんなに競争率の高いところで必死こいて依頼やるより、別の所に潜ったほうがいい。
「どれくらいこの状態なのかな。何ヶ月も続くようなら、また違う街に移ったほうがいいかもね。」
「そうね、ちょっとこういう事に詳しい人って居ないのかしら。」
こういうことに詳しい人ねぇ。冒険者ギルドとかで話し聞いたほうが良さそうだけど。
ついでにリーニャにネックレスでも買ってこよう。
「ちょっと冒険者ギルドに行ってくるよ。」
「あっ、じゃあ私も行くわ。」
それは困る、こっそりネックレスを買いに行けない。
どうにかこの部屋に居てもらわないと……そうだ。
「いや、リーニャはシロナとヒサメを見ていて欲しいんだ。何かあっても困るし。」
「それは、逆にユウスケが居たほうが良いんじゃない? 一応二人のマスターなんだから。」
ぐっ、正論だ! ここで更に何か捻り出さなければ納得してしまう。
苦し紛れだけど仕方ない!
「いや、立場は仲間だから関係ないよ。それに、ほら、ステータス面でも俺がどうにか出来る事の方が少なそうだしさ……」
秘技、ステータスを言い訳に!
これによって、俺より強いリーニャしか実力行使は出来ないと納得させることが出来るのだ。
まぁ、男としてはクソだ。
「うーん、そんなに言うならそうするわ。あ、でもレイは連れて行ってね。ユウスケに何かあっても困るし。」
先程から抱きしめていたレイを俺に渡しながら、俺の口調を真似してくるリーニャ。
こういうおちゃめな所もある。可愛い。
それは置いといて、渋々ながら納得してもらったところで早速お出かけタイムだ。
冒険者ギルドの受付嬢から話を聞いた所、二ヶ月ほどは賑わっているそうだ。
迷宮の攻略速度が、やはり初めてということで慎重になるというのと、皆一気に攻略することはなくて、大体「我先に組」と「落ち着いてから組」が居るから、街中はもう冒険者で溢れるらしい。
「落ち着いてから組」の中には、まずグリルに来るのも遅らせるパターンの人も居るらしいので、それのせいもあって終わるのはいつ頃か分からないと。
困ったな。やっぱり次の町に移動したほうが良いか。
ダンジョンで俺達もレベルは上がったし、ヒサメという心強い仲間も加わった。
上のランクを狙って依頼を絞っていくのも悪くない。
宿への帰りがけにアクセサリーショップに入る。
アクセサリーショップと言っても、まぁ道具屋だ。ちょっとお高い所ならアクセサリーがあるかもってレベルだ。
店の中を歩いていると、金色に塗装された豪華なネックレスを発見した。
値段は……金貨10枚!? た、高い……
結構依頼をこなして金は沢山持ってるつもりだったけど、金貨10枚は持ってないな。
そこから横に並ぶネックレスを眺めていく。
金貨7枚、金貨6枚、金貨4枚……
金貨1枚。見た目も悪くない、真っ赤なルビーのような宝石が真ん中に埋め込まれている。
そこから左右に翼をひろげているような装飾がされていて、色はシルバーだ。
金貨1枚なら……まぁ痛くないか。そのネックレスを手に取る。
「お客さん。」
ネックレスを手に取った瞬間、店員から声がかかった。
「はい、何ですか?」
「それ、買うんすか?」
「はい、買おうと思ってますけど……何か?」
店員は頭をポリポリと掻いた。
「それ、真ん中の宝石、偽物すよ。」
「え?」
「魔石なんすよ。本来魔石って価値のある物のハズなんすけど、それ使えないらしくて。仕方なくネックレスになったんす。見た目の品質はやっぱり宝石に劣るし、どうせ買うなら本物の宝石の奴にした方がいいすよ。」
店員はそんなことを言った。
へぇ、これ魔石なのか。光にかざしてみてみる。
綺麗に透き通った赤に見えて、結構綺麗だと思うんだけど。
やっぱり、分かる人には分かるのかな。
「ちなみに、こっちのルビーの奴は本物で、金貨3枚すね。」
「金貨3枚……」
本物のネックレスを買えば、金貨3枚……
いや、でもそれはちょっと金を使い過ぎな気がするな。
元々、リーニャも俺も結構節約して暮らしてきたし、あまり高いのを買いすぎるのはマズい気がする。
かと言って、安すぎるのもなんか、駄目な気がするし。
やっぱり、金貨1枚。これがちょうど良い値段だ。
「いえ、こっちを買います。」
俺は持っていた金貨1枚の方のネックレスを購入することにした。
店員は、頭をポリポリ掻きながら、その場で精算する。
「毎度、どうも。後で返品とか、聞かないすからね。」
「えぇ、大丈夫です。」
カバンにはレイが入ってるから、ポーチにネックレスを入れて、宿へと向かう。
何やら怪しい空模様だ。雨でも振りそうな気配だな……
小走りで宿へ向かおうとしたが、俺の足はたまたま聞こえてきた声で止まることになる。
「おい! 何だよアレは!」
声がした方を反射的に向くと、男は空を指差して震えている。
男が指差した方向に視線を向けると、そこには。
大きく禍々しい漆黒が、渦巻いていた。
今更になって、ステータスという概念を作ったことを若干後悔してきました。
数値考えるのが大変ですねこれ……




