61話 マダラからの帰路
ちょっと短いです
無事にテイムも終わり、俺達はマダラを出ることにした。
最深部もちらっと見てみたが、結局めぼしいものは無し。得たものと言えば、ヒサメくらいだ。
あぁ、ヒサメっていうのは、新しく仲間になったラミアの名前だ。
氷を弾丸のように打ち出す魔法を、氷の雨、氷雨ということで、名前をそのままヒサメにした。
シロナの時もそうだったけど、どうやら人型界には名付ける風習はないらしい。
だから今後も人型の誰かが仲間になれば、名前を考えなければならない。
今回も結構ひねり出すのに時間がかかったので、次は予め何か考えておかなければ……
「……。」
「~♪」
取り敢えず、ここから出た後どうするかを考えないと。
今のところやらなきゃいけないことは、クライムさんにディト達が大丈夫だったって伝えること、依頼の完了報告、それと……一応テイムしたってギルマスに言ったほうが良いのかな。
いや、まずはレイフさんに伝えてみようか。レイフさんから通信用の指輪を貰ったことだし、一回試しに使ってみるか。
「……ユウスケ。」
「ん? 何? リーニャ。」
「顔、だらしない。」
考え事をしている最中に何かと思えば、俺の顔がだらしないだと?
仕方ないだろ、だって。
「~♪」
ヒサメが俺の腕にずっと抱きついてるんだから。
テイムが終わった後、ヒサメは俺に過去の事を話した。
人型界での掟というか、ルールみたいな物が人間と大きく違うんだろうなと薄々予想はしていたけど、やっぱり人間より厳しい環境みたいだ。
俺が掲げた人型との友好的に接する目標を、結構簡単に了承してくれたレイフさんや、人型が一緒に歩いていてもそれなりに受け入れてくれる町の人とか、人型界からしたら理解できない物なのかもしれない。
それでも、そんな環境の中で俺と同じような目標を立てたヒサメは、もしかしたら特別な存在だったのかもしれない。
そんで、過去の話が終わって、俺がそれに頷いて、でもこれからは一緒に目指せるねみたいな、そういうなんやかんやな会話を交わした後、マダラを出る為に歩き始めたらスルッと俺の隣へ近寄ってきて、がっしりと俺の腕をキャッチしたのだ。
それから、ずっとこの状態だ。
もしかしたら、俺がヒサメをヒールしたのも影響があったのかもな……。
「……だらしなすぎるわ。」
「だらしなすぎるわね。」
おっと、リーニャに加えてライラまでも俺にそんな事を言い始めたので、ヒサメには悪いけどそろそろ普通に歩こう。
「ヒサメ、そろそろ腕を離してくれないか。」
「嫌よぉ。」
「嫌か、なら仕方ないな。」
「そうよぉ、仕方ないの。」
後ろで二人分の溜息が聞こえつつ、俺はレイフさんに通信を入れる。
……で、どうやって通話するんだっけ。
普通に思い浮かべれば良いのかな。
レイフさーん、聞こえますかー?
『……おっと、これはユウスケくんかな?』
「お、繋がった。」
『久しぶりだね。』
「お久しぶりです。」
指輪からレイフさんの声が聞こえてくる。普通に携帯で通話してるような感じで馴染むなこれ。
『何か困ったことがあったかい?』
「いえ、そうではないんですが。」
『ん? じゃあ何だい?』
「新しくですね、仲間が増えたので報告しておこうかと思いまして。」
『ほう、誰だい?』
「ラミアです。」
俺がラミアですと言った瞬間、隣からヒサメがずいっと指輪に顔を近づけた。
一瞬バランスを崩しそうになる。
「どうも、ヒサメでぇす。」
『へぇ、ハーピィに続いてラミアまで。君は本当に凄いね。』
「いえいえ、付いてきてくれたのはヒサメの意思ですから。俺は何もしてないですよ。」
「何よぉ、あんなに身体を撫で回してくれたじゃない。」
「その言い方はやめろよ! ヒールしただけだろ!」
『ははは、とにかく、無事でよかったよ。これからも気をつけて冒険してくれ。』
「はい。」
そこでレイフさんとの通話は切れた。
何か、まるで俺が出来るのを分かってたみたいな言い方だったな。
そんなに信用されてるんだろうか。
「……カーシュ、俺も一度はああいうのしてみたいと思う。」
「そ、そうですか。確かに羨ましくはありますが……。」
ディトとカーシュの呟きを聞きつつも、俺達はマダラの外を目指して歩き続けた。
~
「はぁー! やっと外だ!」
「長かったわねー……。」
「流石に疲れました。」
「あ、あの、はやく冒険者ギルドに……。」
外に出た途端、パーティ『鋼鉄剣』のメンバー各々がそれぞれの反応をしめす。
最深部から出口まで、戦闘も含めれば相当時間が掛かるはずだったのだが、ヒサメが仲間になったお陰で相当戦闘が楽になった。
ヒサメはあの戦闘の通り、鱗の防御力を売りにした前衛タイプだ。その上魔法で攻撃力も上げることができ、遠距離援護も可能。
防御力が高いからと言って、動きが遅いわけでもない。シロナ程の速さはないが、それでも俺なんかよりは断然速いだろう。
まさに俺のパーティに欲しかった、完璧な前衛だった。
ヒサメが前に出て尻尾を振れば、その硬い鱗は破壊的な攻撃力へと変換される。
尻尾を盾にすれば、何も通さない防御力。
ヒサメが前で暴れつつヘイトを稼ぎ、シロナが動き回りながら適当に攻撃を加えるだけで、マダラの魔物達はあっけなく撃破されていった。
その御蔭で、潜った時とは比べ物にならないくらいの早さで地上に出てきたのだ。
俺も久しぶりに吸う外の空気を満喫していると、遠くから近づいてくる姿が見えた。
あれは……。
「おーい! ディト! 無事だったか!」
クライムさんだ。
ディトの顔を見ると、かなり驚いた様子だった。
「ク、クライムさん? 何故ここまで?」
「あまりに帰りが遅いから、心配したんだぞ。そこのユウスケ達に捜索を頼んだは良いけど、やっぱり俺が動かないと落ち着かなくてな。用事が済んですぐこっちに向かってきたんだが。とにかく無事でよかった。」
クライムさんが子供にするようにディトの頭をわしゃわしゃした。ディトは嫌がる様子もなくそれを受けている。
なんか、いい関係だな。
「ところで……。」
クライムさんはディトの頭から手を離すと、こっちに視線を向けた。
「ユウスケ、お前そんな従魔いたか?」
そんな従魔、と、言えば。ヒサメの事だよな。
いきなりラミアを見て、ここまで全く動じないとは、クライムさんはかなり肝が据わっている。
俺がヒサメの事を説明しようとしたら、ヒサメが先に口を開いた。
「さっき仲良くなったのよぉ。隅から隅まで身体を撫でられたわぁ。」
「おい、今さっきより誇張してるだろ!」
「私の身体から溢れる液体を掬い上げるように……。」
「血な! それ血な! ヒールしただけだから!」
ヒサメが誤解させたがるような事を言うので、俺は慌ててそれを訂正する。
すると、クライムさんが俺の近くまで寄ってきた。
「ユウスケ、物事には段階があってな?」
「いや、違うんですって!」
クライムさん半笑いだし、絶対乗っかってるだけじゃん!
「俺はいじられキャラじゃねぇー!!」
大声で無理やりこの場を収めようとしたが、いじられキャラってなんだとしつこく問われるはめになった。ヒサメェ……。
マダラの入り口から離れ、迷宮都市グリルへと向かっている最中、クライムさんは驚いていた。
「モンスターテイマーがヒール? それ本当かよ。」
「本当なんだよ。実際にこの目で見た。」
先程のヒサメと俺のやり取りでヒールという言葉が出て、クライムさんが何気なく聞いてきたのだ。
最初は冗談の言い合いで出た言葉だと思っていたらしいのだが、この場全員の証言によって俺がシロナやヒサメをヒールしたことが真実だと知ると、それはもう驚いていた。
「いやしかし、そんなことが出来るなんてな。」
「でも、多分これはテイムした相手にしか出来ないことですよ。」
「そうなのか?」
俺はあの時の状況を思い出す。魔力を流す感覚とか、パスが繋がっているとか、そういう状況をすべて含めて、俺のヒールはレイやシロナやヒサメ、つまり従魔にしか使えないものだと思う。
テイムすることによってパスが繋がり、俺だけに魔力の通る道がある。そのせいで他のヒールを受け入れられないから、俺の魔力がヒール代わりになっているのだ。
まぁ、詳しいことはヒロツグさんとかに調べてもらわないと分からないけど、リーニャが傷ついたからと言って、俺がリーニャをヒールは出来ないだろう。
「そうだとしても、凄いことだな。」
凄いことだ。本当に凄いことだと思う。
リビテラさんのお陰で、俺はこの世界の常識に縛られなくなった。
出来ると思えば、本当になんでも出来てしまいそうなくらい。
「そろそろグリルだ。ちょっとスピード上げていくか!」
クライムさんは元気に走り始めた。
ディトもそれを追いかけていく。
「いやー、元気だなー。」
「どうする? 私達も行く?」
隣でリーニャが俺に聞いてきた。そうだな、たまにははしゃぐか。
「よーし! 誰が一番に着くか競争するか!」
思い切り足に力を入れ、走り始める。
グリルまでは何の障害物もなく、一直線の道が続くのみだ。
俺の方が先にスタートしたのに、リーニャが後ろからすっと隣を抜ける。
「お先!」
「あーーっ!!」
速い、速すぎるよリーニャ。テイマー遅いよ。
するとそのリーニャの隣にヒサメが並ぶ。
「負けないわよぉ。」
「こっちこそ!」
バチバチと火花を散らすリーニャとヒサメ。
ズバァッ
その上を、シロナが風爆を使って一瞬で通り過ぎていった。
「「「それ、卑怯すぎぃ!!!!!」」」
地面を進む三人組の叫び声が、空へと響いた。




