56話 マダラの最奥
更新直後ですが、ラミアの口調を変更しました。
2019/07/13 マダラヘビの全長を修正しました。
まさか、ダンジョンの中でサンドイッチを食えるとは。
そんな台詞が聞こえると思っていた時期も、僕にはありました。
「保冷石と一緒に保存用の容器に入れておけば、サンドイッチくらいなら私達でも持ち歩けるんじゃない?」
「汎用保冷石でも充分そうだしな。」
「容器はうちにも沢山ありますし……そ、その、サンドイッチくらいなら私でも作れないことは、無いというか……」
「へぇ、クルエさんの作るサンドイッチですか。一度食べてみたいですね。」
「そ、そんな、期待するほどじゃ……」
俺達の泊まっている宿『ふぇんりる』で購入したサンドイッチを食べながら、『鋼鉄剣』のメンバーは談笑していた。
「容器に保冷石……保冷剤的なものか? まさかそんなものまで普及しているとは……」
思わず口に出してしまう。そりゃそうでしょ。だって保存食のような干し肉とかよく食べてるから、そういうの無いと思うじゃん。
実際保冷石とやらを手に入れることが出来るなら、少しはバージョンアップした飯を持ち運べるのは間違いない。
「問題は、いくら保冷石を入れたとしても、長期間持ち歩くことは出来ないってところか。」
「それを考えると、羨ましいわね……」
ディトとライラの台詞の後に、『鋼鉄剣』のメンバー全員の視線がレイに向く。
レイはそれを気にした様子もなく、ぽわぽわとしていた。
「スライムが物を格納……今まで一度も聞いたことないですね。」
「それに、状態を維持したまま保存出来るなんて。」
「暖かい飯も食べ放題かぁ……」
どんどん心の中の台詞がこぼれ落ちているのを端から聞いていて、レイをテイムして良かったと強く思う俺であった。
そんなこんなで食事も終わり、俺達はダンジョンの最深部を目指して進み始めた。
ディト達を連れて、このまま地上まで戻ってもよかったんだけど、やっぱり最深部付近まで来たなら制覇してから帰りたい。
一番奥には良質な魔鉱石がある可能性も高いし、このタイミングで行かなきゃどうするって話だ。
進むに連れて、淡い光を放っていたダンジョンの壁がより強く光っていく。
魔素の濃い場所に近づいている証拠で、それはすなわち最深部に近づいている証拠でもある。
「そろそろ最深部っぽいな。」
壁の光を見ながら、ディトがそう言った。
その顔は、最深部に初めて到達するからか、それとも疲労のせいか、険しい。
進むにつれて、他のメンバーも口数が減っており、今では殆ど会話がなくなっていた。
「沢山魔鉱石があればいいんだけどね。」
少しでも緊張をほぐそうと、会話を振ってみる。
それに乗ってくれたのはディトだった。
「そうだな。魔鉱石が手に入ったら、新しい剣を作ってもらうか。いや、鎧のほうがいいか?」
「後ろにマジシャンという火力が居るし、鎧や盾を優先した方が良さそうだけどね。」
「確かにな。」
ディトとそんなやり取りをする。
ディトは額に薄っすらと汗をかきながら、それでも少し表情がゆるくなった。
気を抜きすぎるのは良くない。けど、気を張りすぎるのも良くない。時として、緊張は思わぬエラーを生むことになる。
次は何の会話を振ろうかと考えていた時、不意にシロナが俺の服を掴む。
「シロナ? 何か居るのか?」
俺の言葉を聞いて、その場の全員が俺とシロナに視線を向ける。
リーニャも少し集中して、気配を探リ始めた。
「ん。」
いつも通りの反応。
俺が口を開きかけた時、俺よりも先にリーニャが口を開いた。
「居るわ。多分マダラヘビね。」
「マダラヘビか、じゃあディトとレイを前衛に組んだフォーメーションでやってみるか。」
「え、このスライム戦うのか?」
マダラヘビだと聞いて、俺がフォーメーションの提案をすると、ディトが驚いた顔でレイを見る。
そういえば、レイのことって格納くらいしか言ってなかったな。
「レイは俺よりも強いよ。ていうか多分テイマーが脆すぎるんだけど……」
「テイマーが脆いのは分かるが、それでもステータスがスライムに劣るとは思えないな。」
「それは、レイが特別な奴だから……」
ディトは釈然としない様子だったが、それでもそれ以上疑って掛かるようなことはなかった。
「まぁ、やってみりゃ分かる話か。」
そう言って前に進み始める。
ヘビのようにくねくねとした道を進んでいくと、少し開けた場所に出た。シロナが充分に飛べそうな天井の高さがあるその空間に居たのは、マダラヘビに良く似たヘビ。
しかし、今までの奴と違うのは、その身体が8mに到達するだろう程に大きいということだった。
胴回りは、巨木のように太い。人を丸呑みできそうだ。
「デカいな。情報じゃ、マダラヘビは大きくても4m程って聞いていたんだが。」
「諦めて帰る?」
ディトが呟いた言葉に、俺が尋ねる。
ディトは、一度こちらを見ると、好戦的な笑みを浮かべた。
「んなわけないだろ。身体が大きいだけの奴なんかにゃ負けねぇ。」
ディトとレイが8m級マダラヘビの前に出る。マダラヘビはディトに視線を向けると、ゆらゆらと左右に揺れながら近づいてくる。
俺達パーティは完全にサポートに回るつもりだ。ディトの方が前衛として打たれ強く攻撃力もある。サブの盾役にはレイと俺。俺は打たれ弱いのでほとんど前に出ることはないと思うから、周囲の状況やその場での指示を出すことになる。その間はクルエの近くに居て、プリーストの防衛も兼ねる。
後衛はライラとリーニャがメイン火力だ。基本的にこの二人の攻撃で相手を削っていく。
カーシュとシロナが遊撃。二人の素早さを活かして視界外からの攻撃に努めてもらう。カーシュは短剣で、シロナは爪もしくは風魔法で。
マダラヘビは、一定の距離までジリジリと近づいてきていたが、急に大きな口を開けて飛び込んできた。
開いたその口は人の身長程の大きさがあり、下がった位置にいる俺でさえプレッシャーを感じる。接近してくる速度は速く、油断していたら反応出来ないかもしれない速度だ。
だが、ディトは全く動揺することもなく左に躱すと、マダラヘビを目掛けて一太刀。
その剣の切れ味も去ることながら、ディトの培われた技術によって、厚いであろう鱗も関係なく傷を入れる。
「ディト!」
「おう!」
ライラがディトに声をかけると、ディトは何をするのか理解した様子で少し距離を取る。
ディトが距離を取りきる前に、ライラは炎魔法を放つ。燃え盛る炎の玉がマダラヘビの身体に命中し、その鱗を焦がしていく。
上に回り込んでいたシロナが、炎魔法の命中した場所へ風魔法を放つ。炎によって耐久の弱まった鱗は、風魔法によって剥がれ落ちた。顕になった皮膚に風の刃が傷を入れる。
鱗が剥がれ落ちた皮膚に、リーニャの矢が放たれる。今回は一本だけだが、正確に鱗の剥がれた場所へ突き刺さる。
「やるわね。」
「ありがと。」
ライラとリーニャが短く言葉を交わす。二人は既に次の射撃の準備に取り掛かっていた。
一連の攻撃を受けてもマダラヘビはぎろりと睨むだけ。まるで効いていないように見える。
「こいつ、マダラヘビとは違うな。あんなのよりよっぽどタフだぜ。」
「一点に集中して攻撃したほうが良さそうだ。可能ならだけど。」
「可能なら? ハッ。余裕だ。」
ディトはまた前に出てヘイトを取りに行く。いや、今度はディトから仕掛けるようだ。
「おら!」
マダラヘビの頭を狙って剣を振る。マダラヘビは頭を高く上げてそれを躱した。
「レイ!」
その時、レイが触手を伸ばしてマダラヘビの頭に巻きつけた。これでマダラヘビは口を開けない。それに動きを制限できる。
続いてシロナがマダラヘビの頭に降ってくる。軽いとは言え、全体重と落下速度の乗ったスタンプは威力があるらしく、マダラヘビの頭は強く地面に叩きつけられる。
「いくわよ!」
ライラが炎魔法を放つ。しっかり魔力を溜めたお陰で、先程よりずっと大きくなった炎の玉は首元に当たり、その鱗と身を焦がす。リーニャも続いて矢を放つ。放った矢は三本。その三本は、寸分の狂いなく先程の焼け焦げた場所へと突き刺さる。
「よっしゃ! 任せろ!」
ディトの剣が淡く光る。その光はダンジョンの壁と似てる仄かな光。剣に魔力を纏わせている証拠。
「おおおぉぉぉぉ!」
頭を拘束され、身を焦がされ、動きの鈍くなったマダラヘビの首元へと全力で振り下ろされる。
元々鋭い切れ味の剣、それにディトの技量、それに加えて魔力により強化されたお陰で、簡単に真っ二つになってしまった。
首から落とされて動かなくなったマダラヘビをみて、俺達は安堵の息を吐いた。
「はぁ、デカいからどうなるかと思ったけど。」
ディト、強い。一人で前衛を務められるだけあって、その攻撃力も高い。
「言っただろ、余裕だってな。数が多いのは辛いが、相手が一匹ならどうにでもなる。」
そう言うと、ディトは壁を背に座り込んだ。
「やっぱり、疲れてるの?」
リーニャが心配そうに尋ねる。今まで一人で前衛をしている上に、俺達と合流してもメインの前衛をすることになったし、そう簡単に疲れは抜けないだろう。
「休憩する?」
「いや、大丈夫だ。進もう。」
ディトはすぐ立ち上がり、前を歩き出す。
「もしやばくなったら、本当に休んでよ。」
「おう。」
ライラの言葉を聞いて返事を返したが、多分ディトは休まないだろう。
それなら、さっさと進んでしまったほうがいい。最深部まで行けば、タイミングもいいし休憩するだろう。
「さっさと最深部まで行こうか。」
「そうだな。」
ディトを先頭に俺達は歩き始めようとした。だが、俺達は歩みを止めることになった。
「だぁれ? 騒がしいわねぇ。」
道の先から、聞こえてきた声によって。
人間の体と蛇の胴体を持つ人型、ラミアの声によって。




