53話 ダンジョン『マダラ』
結局、行き止まりまで進んだものの、魔鉱石――魔力を多く含んだ鉱石の総称――を見つけることは叶わなかった。それまでに出会ったコボルトの数はおよそ20匹。まぁ、コボルトの毛皮と肉を収集できたからいいか。
コボルトの肉は、思ったよりもさっぱりとした感じで美味しかった。なんか食うのには向いてないようなスジっぽい部分も多少あったから、次はそこを捨てるようにしよう。
肉焼きセットで肉を焼いてると、ダンジョン内だというのに、どうもバーベキューみたいな雰囲気になる。多分俺だけなんだろうけど……あぁ、焼肉のタレ欲しいなぁ。
ダンジョンだということで、ワンランク下の『コボルトの洞窟』に潜ったけど、別にダンジョンだからといってそれほど強いわけでもなかったし、ダンジョン内の雰囲気がある程度わかったので、次はランクに見合ったDランク推奨の依頼を受けようと思う。
それにレイの格納でいつでも美味いものを食えると知ったら、もうそれを予め格納しておかないと気がすまないというか……
と、とりあえず! 一度都市に戻って依頼完了と、物資の調達をするぞ!
なんて、思いながら冒険者ギルドの扉を開けた。
特別、盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど、たまたま扉の近くに座っていた男性冒険者二人の会話が耳に入ってきた。
「なぁ、あいつら遅くねぇか?」
「ん? あぁ、確か『マダラ』に潜っていったんだっけか?」
「そうだ。あそこってD推奨だろ? あいつらDに上がったばっかりだったから、ちょっと心配だったんだけどよぉ。やっぱり少し早かったんじゃねーか?」
「そうか? 出るもんなんて蛇くらいなんだし、そうそうやられる事は無いと思うが……。」
「もしかしてよぉ、解毒薬用意してなかったんじゃ……。」
「おい、流石にそれは無いだろ……。」
エルフであるリーニャに加えて、ハーピィのシロナも居るおかげで何処を歩いても目立つ俺達だが、男性二人は話に集中しているみたいで、隣を歩くシロナにも全く気付いてない様子だった。
受付に向かって歩く間に、結構しんどい内容の会話を聞いてしまった。
どうやら、最近Dランクに上がったばかりの冒険者パーティが、『マダラ』とかいう場所に向かって、そのまま帰ってきてない……と。
潜ったって言ってる所から、恐らくダンジョンだな。解毒薬の必要な蛇が出るってことは、ヴェノムイーターとかが集まってるんだろうか。
ヴェノムイーターは戦闘経験があるし、同じ蛇系の魔物が出て来るなら、多少強くなったとしても何とか対応できそうだ。明日の目的地はそこにしよう。ついでにそのランクD冒険者パーティを探してみようか。
受付嬢にコボルトの毛皮を渡し、依頼を完了する。毛皮の状態は割りと良い方で、買取額も銀貨5枚と中々いい値段になった。銅貨20枚で銀貨1枚なので、ゴブリンで計算したら丁度100匹分である。高ランクの依頼は報酬が良いですな。
さて、今日は宿に戻って寝るつもりだけど、その前に『マダラ』の依頼を確認だけしとくか。
依頼ボードに向かうと、リーニャが俺の服を少し引っ張った。
「ねぇ、ユウスケ。さっきの冒険者の話……。」
リーニャも聞こえていたようだ。リーニャは優しいから、多分確認しに行きたいんだろう。解毒薬ぐらいなら出費も痛くないし、それで人の命が救えるならね。
なんたって俺らは、『救命の志』ですから。
リーニャに頷きを返して、俺は依頼ボードを漁る。
マダラ関連……あ、あった。
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・マダラヘビの毒袋回収
報酬額 :毒袋一つにつき、銀貨1枚
依頼達成条件 :最低毒袋一つ。
期限 :依頼受領から5日。
推奨ランク :D
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マダラヘビ……か。その名前の通り、身体はマダラ模様でびっしりなんだろうか。
どうやら、より良い解毒薬を作る為の研究サンプルとして欲しているみたいだ。数があればあるほど研究も捗るだろうし、出来れば数持って帰りたい所だ。
ただ問題が一つあって、毒袋の剥ぎ取りってめちゃくちゃ難しいんだよな……
ヴェノムイーターと同じだったら、4匹剥ぎ取って1回成功するかどうかって感じだ。
「ねぇ、その依頼受けるの?」
隣でリーニャが俺に確認してくる。
「うん、そうしたいんだけど……剥ぎ取りが大変だしさ、どうしようか。」
「剥ぎ取りなら、冒険者ギルドに任せればいいじゃない。レイの格納あるんだし。」
……そうだ、そうじゃん。全く思いつかなかった。
格納リストを開く、そこに書いてあったのは、ポイズンビーの死体。
覚えてますでしょうか、リーニャがポイズンビーに刺された時、俺がリーニャに駆け寄ってる間に、倒したポイズンビーはレイに格納してもらってたんですね。
それから、全く触れること無く今日まで過ごしてきたんですね。そもそもレイに目当てのものを出してって言えば出してくれるからリスト開くこと無いし。
つまり、死体だったら格納できるんですねぇー。
「なんで教えてくれなかったのさ!」
「えっ!? だって、あの時普通にポイズンビー格納してたから……。」
そうか、リーニャあの時普通に意識あったし、ガッツリ見てたのね……。
「普段その場で剥ぎ取ってたのって、剥ぎ取りの練習してたんでしょ?」
「うん、うん、そうだよ。」
「……本当に?」
ソウダヨ。
いや、止めようこの話は。誰も得をしないだろ? 格納するって案が出て良かったじゃないか。それで終わりだ。うん。
俺達が宿で休んでいる間に他の人に依頼を受けられても困るので、今日の内に毒袋の依頼を受けておく。
ついでにいきなりでちょっとアレなんだけど、先程の男性冒険者二人組に話しかける。
「あの、すみません。」
「ん、何だ? ……エルフにハーピィ? お前、ユウスケか?」
いきなりでちょっとアレかと思ったけど、想像の斜め上の返答が返ってきた。
「え、はい。何で知ってるんですか。」
「いや、ディトがあれだけ騒いでたらなぁ……。」
どうやら、ディトのパーティは色んな意味で有名らしい。トラブルメーカーとか、騒がしいとか、痴話喧嘩とか。
「ハーピィ連れてるって聞いた時にはぎょっとしたもんだが、なんだ、ただの好青年って感じだな。ディトがあれだけ良い奴だって騒いでたのも分かる気がするよ。」
ディトの行動が、思わぬところでいい結果を出していた。なんだ、アイツやるじゃん。
そう言えば、シロナを堂々と連れているにしては騒ぎにならないと思ったら、ディトのアレのお陰なのか。今度菓子折りの一つでも渡してやろう。
「俺の名前はクライムだ。それで、何の用なんだ?」
「いや、それがですね。立ち聞きしてしまったのは申し訳ないんですけど、マダラの……」
マダラの、まで言ったところで、クライムは険しい表情をした。
「あぁ、聞かれてたのか。まぁこんなところで話せば、そりゃ聞かれるよな。」
「すみません……それで、俺達はマダラの依頼を受けようと思うんですけど、特徴とか教えてもらえれば、ついでに捜索しますよ。」
俺がそう言うと、クライムは表情が明るくなった。
「本当か!? 俺達は別の依頼があって行けなくてな。すまん助かる。それで、特徴なんだが、お前らならよく知ってるはずだ。」
そう言われて、俺は首を傾げる。この都市に来てから、俺達はそんなに親しいといえる繋がりをまだ持っていない。
そんな俺を見ながら、クライムは話を続けた。
「『マダラ』に潜ったのは、『鋼鉄剣』というパーティ。ディト達だ。」
翌日、俺達はマダラへと潜る準備を早々に済ませ、マダラの入り口へと到着していた。
もし、何らかの怪我や毒などで動けなくなっている場合は、なるべく早く見つけるに越したことはない。
ディト達が潜ったのが昨日の朝方。恐らく、友情のスキンシップと称した握力ドッキリを俺に行った直後に向かったんだろう。
俺達が依頼完了したのが夕方。その時間になっても戻ってきてない。ダンジョンの中で一泊しているという可能性も否定できないが、依頼の難易度的に、2日を要するものではないらしい。
早朝から向かい、依頼をこなして、そこからギルドまで戻ってくるのに、戦闘やアクシデント込で夕方頃だろうとのことだ。最奥まで向かっていればダンジョン内で一泊も必要かもしれないが、そもそも最奥まで潜る必要のない依頼らしい。
ダンジョンでは、奥に進むに連れて魔素が濃くなる関係上、進めば進むほど強い魔物が出てくるはずなので、最奥までとなると、Dランクの中でも上位、Cランク手前の冒険者が戦うような魔物も遭遇する可能性がある。
そんな危険を冒すことは考えられない。
と、まぁ。実際彼らの性格を完全に把握してるわけじゃないし、ディトは結構お調子者っぽかったから、最奥までノリで行ってる可能性も無いとはいえないな。
マダラヘビの特徴だけど、ますはその名の通り身体中がマダラ模様で埋め尽くされている。それに他のヘビに比べてとりわけ大きい図体をしている。成体になれば、大体人間一人分である160cmから200cm程の大きさになるらしい。
前世界にもマダラヘビは居て、アカマタと言うものが大きさ的には近い。しかしそっちには毒はなく、こちらのマダラヘビには毒があるらしい。
ヴェノムイーターと同じく牙による毒の注入に加え、少量ながら毒を飛ばしてくる。Dランクの昇格試験で戦ったウグバゴのような感じだ。ウグバゴより毒の質は低いが、その分発射までの速さが早く、その分ウグバゴより連発してくる可能性もある。
まぁ、ぶっちゃけウグバゴの毒の強力さに比べると、正直唯の雑魚って感じだ。ヴェノムイーターがEランクだし、それがDランクになっただけと思えばね。こっちにはリーニャもシロナも居るし、解毒薬もある。かすっただけで腕が痺れるような毒じゃなければどうにでもなる。
「ユウスケ、行きましょう。」
リーニャが居ても立ってもいられない様子で俺に声を掛ける。
さて、じゃあ潜りますか。




