52話 初めてのダンジョン
~ コボルトの洞窟 ユウスケ ~
予想はしていたけど、ダンジョン内部は手入れなど全くされておらず、ただ果てしなく長く広い洞窟が深くへと続いているようだ。
道は細かく別れ、まるでアリの巣のような構造に思える。
魔素を多く含んで出来上がったとされるダンジョンの壁は、ほんのりと光っていた。一応松明を持ってきたけど、どうやら松明が無くなってもそれ程問題はなさそうだ。
少し削って持って帰って見ようかと思ったが、まず硬さが尋常じゃないせいで削るのが難しく、少し削れた欠片も、壁から一度剥がれてしまうと魔素を失うのか、二度と光ることはなかった。
「コボルトの洞窟って名前だけど、コボルト以外も居るのよね?」
そう疑問を口にしたのはリーニャ。
「うん。確か動物系の魔物がここのダンジョンの魔素を好むはずだから、動物系の魔物が多いらしいよ。」
この洞窟の名前は『コボルトの洞窟』だが、実質コボルト以外にも動物がベースとなっている魔物がわんさか居ると聞いた。
まずコボルト。犬のような姿をした、二足歩行の魔物だ。ゴブリンのように簡易的な武器を持ち歩いている場合もあるが、大体は少し高めの身体能力と爪を活かした近接戦闘を行う。
コボルトには上位種も存在し、石を削って作った剣と盾を持っているコボルトナイトや、群れを作り、それを統率するコボルトリーダー等がいる。
次にワーグ。これは狼のような魔物だが、こちらは四足歩行の、限りなく元の狼に近い状態の魔物だ。コボルトのように物を持ったり等の器用なことは出来ないが、そのかわり身体能力が高く、常に群れとの連携を取りながら戦闘を行うせいで、コボルトよりも討伐難易度は高い。
まぁ、難易度が高いと言えど、この二種類の魔物は正直Eランク止まりで、俺達にとってはあまり敵ではない。連携を取ってくるという部分は多少警戒は必要だろうけど、大怪我なんかをすることはないだろう。
今回はダンジョンの立ち回りや雰囲気に慣れておく目的で潜るので、それ程深くまでは潜らないつもりだし。
あと、魔素を多く含んだ鉱石を見つける練習もしておかないと。いくら情報を知ってるからって何も考えずに歩いてたら絶対見落とすしな……
調べたところ、どうやら魔素を多く含んだ鉱石というのは魔力に反応して光るらしい。それも、魔素が多ければ多いほど、強く光るそうだ。それっぽいのがあったら、取り敢えず魔力を当てて見てみるか。
ダンジョンで鉱石を求める冒険者は、ベースとなる鉱石、それに蓄積した魔素の多さ、この二つが良い状態のものを求めて深くまで潜る。
この世界にあるかどうか知らないけど、極端な話、オリハルコンに100年程魔素が蓄積したとしたら、それはもうめちゃくちゃ高価で、めちゃくちゃヤバイ武具が作成出来るに違いないな。
と、そんな話はどうでもいいか。
レイを一番先頭に、俺、リーニャ、シロナの順でダンジョン内を進んでいく。後方からの襲撃があった場合、気配感知力が一番高いのはシロナなのでいち早く気付けるし、近接戦闘ではリーニャよりシロナの方が分があるからだ。
何回も他の冒険者達が潜ったからか、道の目印となるような跡が多く残されており、帰りは迷わずに済みそうだ。
暫く歩くと、ちょっと先を進んでいたレイが止まってぷるぷるし始める。
「おっ、これは……」
見てみると、二つの分かれ道があった。片方の壁面には行き止まりと書かれており、もう片方には何も書かれていない。
どうやら以前潜った冒険者が目印として書き残したようだ。俺達もそれにそって奥へと進む道へ……
いや、待てよ?
「ねぇリーニャ。この行き止まりの方って、魔素を含んだ鉱石とかあると思う?」
「まだ浅い場所だから、ここらで見つけた鉱石は全部拾われてるんじゃないかしら?」
「まぁ、見つけた鉱石は拾われてるよね。」
「見つけた鉱石はってどう……あっ。」
リーニャは俺の思いつきに気付いたらしい。
「それって、行き止まりに誰も行かないとしたら、新しく出来てる可能性があるってこと?」
「そう、まぁそんなに上手く行かなそうだけど。」
「良いんじゃないかしら。どれくらいの深さかは分からないけど、行き止まりまで進めば何かありそうね。それに、コボルト達がそっちにも新しく移動してる可能性もあるわ。」
リーニャと意見の一致。シロナも別に良いみたいな感じだったし、そういうことで、行き止まりの方向へ進むことにした。
行き先を告げると、またもや元気よく道を先行し始めるレイ。最近はバッグの中に入りっぱなしだったお陰で、心なしかテンションが上っているようにも見える。
「しかし、まさか洞窟とは……ダンジョンって言ってたから、もっとこう、遺跡的なのを想像してたんだよね。」
進んでいる間、めちゃくちゃ暇なのでリーニャに会話を振る。周囲を警戒しつつと言えど、何も会話をせずに歩くのは苦痛だ。
「遺跡もあるわよ。」
「え? マジで?」
「そっちは人工物ね。洞窟と違って、誰かが何かの目的の為に作った遺跡に魔物が住み着いてたりするわ。」
どうやらゲーム的なダンジョンも存在するらしい。ただ、人工物ってことだから自然発生はしないんだろうな。
「遺跡は、元々魔素が濃い場合が多いのよ。大昔の人……古代人とでも呼べばいいかしら。古代人は今と比べて、魔法技術が物凄く発展していたらしいの。だから、より魔素が多い場所に遺跡を作って、その豊富な魔素を活かしてマジックアイテムを作ったりしていたらしいわ。」
へぇー、つまり遺跡ってのは古代人の研究施設みたいなもんなのか。しかし古代人はマジックアイテム作ってたんだな。ロロップが、ヒロツグさんが初めて作り方を確立させたとか言ってたけど、それは現代の話か。
「遺跡も、とても大きい規模のものになれば、最深部に着くまでに何日もかかる物もあるらしいわよ。」
何日もかかるなんて考えたくないな……何日も保存食を食うなんて考えたくないし。それを考えたら、格納を使えるレイが居れば食べ物には困らないんじゃないか?
いや、流石に腐るか……腐るか?
……そういえば、ざっと半年前くらいにレイに格納してもらった木の実、まだ食べれるのか?
恐る恐るレイに木の実を出して貰う。
ぷるん!
レイは体を大きく震わせ、木の実を出した。
その木の実は、シロナの説得をする時に取り出した甘酸っぱい奴だ。木の実は取ったばかりのような新鮮さがあり、半年も経ったようには見えない。
シロナが隣で木の実を食べたそうな視線を向ける中、木の実を食べる。
うん、瑞々しさも味も採れたてって感じ。
今更ながら、レイの格納した物はどういう訳か劣化せずに保管できるらしい。
つまり、予め美味いものをレイに格納してもらっておけば、食事に不満は全くないな。
「俺達なら何日でも潜れるな。」
「いや、いきなり何で木の実を食べてるのよ。」
俺の心を読めなかったリーニャが、呆れた表情で俺を見ていた。
仕方ない、レイの凄さをまたしてもリーニャに伝える時が来たようだ。
「実は……レイが格納した……?」
喋ろうとしたところで、シロナがリーニャの手を掴む。
手を掴まれたリーニャは、表情を引き締めて周囲の気配を探り始めた。
「これ、コボルトね?」
「ん、4匹くらい。」
俺には全くわからないが、敏感組はコボルトの気配を察知したらしい。
進行方向、コボルト4匹。
「よし、じゃあ俺とレイで注意を引きつけるか。」
少し進むと、座ってのんびりしているコボルトの姿が見えた。
姿が見えると同時くらいに、コボルト達もこちらに気がつく。
さて、戦闘だけど、洞窟内ではいつものようなシロナが飛ぶようなスペースが無い。だから空からの遊撃は出来ない。洞窟内では、シロナは風魔法での援護を重点に、出来そうなら追撃とかを都度判断してもらう事にした。
コボルトが近寄ってくるが、接近される前にリーニャは矢を、シロナは風魔法を放つ。
矢は一番前に居たコボルトの足に直撃し、シロナの風魔法によって後方へと弾き飛ばされた。
「ナイス!」
近づいてきていた三匹の内、一番近い奴を俺が警戒する。レイは足元を抜け、二匹目へ液化状態で飛びかかった。
レイの液化で絡みつかれたコボルトは、振り払おうと必死になってもがいている。それを振り払うのは無理だ、諦めろコボルト。
そいつには見向きもせず、先頭のコボルトが俺に爪で斬りかかってくる。だけど、攻撃自体はゴブリン並みに単調だ。盾で攻撃を弾くと、いとも簡単によろけたので斬りかかる。
今俺が使っている剣は、アステニアのガランドさんがくれた奴だ。軽く、そして切れ味の鋭いその剣は、いとも簡単にコボルトを戦闘不能に追いやった。
そうしている間に、シロナは好機と見たのか、三匹目のコボルトに低空飛行で急加速し近寄っていた。
シロナはウグバゴの一戦の後、風魔法の爆発を利用した急加速を練習し、ものにしていた。その加速は正直俺じゃ反応できないくらい早く、まさにCランクの強さを目の当たりにした感じだ。
当然、コボルトも反応できず、シロナはそのまま体当たり、衝撃でぶっ飛んだのを確認した後、最初に矢と風魔法を打ち込んだコボルトに爪で攻撃を仕掛ける。
レイが絡みついていたコボルトは、リーニャが的確な命中率で矢を放ち、頭に一発で仕留めていた。
俺とリーニャが無事に二匹を撃破、残る二匹に目を向けると、シロナが既に倒し終わっていた。
「はは……なんか、流石に俺達なら余裕だね。」
「というか、シロナちゃんが強いわね。私達と、どんどん差が出来ていってるというか……」
「ん!」
コボルトの毛皮を剥ぎ取り、肉を削いでいく。コボルトの肉は普通に食えるらしいので、とりあえず格納。魔石は……一応レイに喰わせるか。
レイに魔石を4個与えると、それを吸収する。
「そう言えばユウスケ。いつもレイに魔石を格納してもらってるけど、集めてるの?」
ん?
「あれ、言ってなかったっけ? レイって魔石食べさせたらステータス上がるんだよ。」
「……え?」
「あれ?」
「ええええええええ!!??」
リーニャの声が洞窟内に響き渡った。コボルトが寄ってきそうだから抑えてリーニャ!
「~~というわけで、レイは魔石でステータスが成長するらしい。」
「そ、そうだったの……格納の時点で特別なスライムだと思っていたけど、本当に規格外なのね……」
そうなんです。半年も一緒に過ごして、これを伝え忘れているとは思わなかった。ていうか、レイに魔石を食べさせるのがもう生活の一部みたいなもんだったし、なんか当たり前にやってたというか。
「はぁ、でも、ユウスケだもんね。」
え、なんですかそれは。それで納得できるんですか。
ちょっとリーニャに抗議しようと思った矢先。
「おなかすいた!」
突然聞こえたシロナの声。俺とリーニャは顔を見合わせて、クスリと笑う。
「じゃあ、ちょっと休憩にしようか。コボルトの肉食べてみる?」
シロナのお腹を満たすため、小休憩を取ることにした。




