50話 ギルマスとダンジョン
都市の雰囲気もあってか、さほど変わらない外観であるにも関わらず、何処か違う雰囲気を醸し出すグリルの冒険者ギルド。その中は、ダンジョンへ向かう冒険者で賑わっていた。
扉を開けた瞬間に集まる視線。まずは先導して入ったエールへ、その後に続く俺へ、次にリーニャへ、そしてシロナへ。視線が移る度に、冒険者達が驚き、怪しむ様な感情が高まるのを感じる。
しかし副ギルドマスターであるエールが俺達を連れている為か、声を掛けてくる様な人は一人もおらず、何事もないまま、冒険者ギルドの二階、ギルドマスターの待つ執務室へと到着した。
「ギルドマスター、『救命の志』御一行様を連れてまいりました。」
「おぉ、来たか。入ってくれ。」
エールが扉をノックして要件を伝えると、ギルドマスターから返事が返ってくる。エールは失礼しますと言葉を添えて、扉を開けた。
俺も失礼しますと言い、おずおずと中へ入っていく。広がった光景は、アステニアと殆ど変わりのない部屋の光景。アステニアと違うのは、ギルドマスターがレイフさんよりも年上で、ガタイが良くて、強そうな所だけだ。
「ふむ、君がユウスケか。それに後ろに居る二人がエルフのリーニャとハーピィだな。」
ギルドマスターが値踏みをするような目で俺達を見る。だけど良からぬことを考えているような、そういう嫌らしさは無く、単純に冒険者としての質を確かめている感じに見えた。
「ギルドマスター、不躾です。」
「おぉ、すまん。」
その値踏みするような視線に対して、エールがギルドマスターに対して強めの一言を放つと、ギルドマスターは大して怒るでもなく視線を直す。どうやら見た目よりは穏やかな性格らしい。
ギルドマスターはごほんと一つ咳払いをして、改めて俺達に向き直る。
「私がこのグリルのギルドマスターである、コウレンだ。突然の呼びかけにも関わらず来てくれた事を感謝する。」
威厳のある口調で俺達へ挨拶したギルドマスターのコウレンは、早速要件を話し始めた。
「アステニアのギルドマスターレイフから話を聞いてな、興味が湧いてこの目で見てみたいと思ったのだ。」
そう前置きをして、シロナと出会った経緯やテイムに至るまでの話をして欲しいと言われた。別段今日用事がある訳でもないので断る理由もなく、所々端折りながらも大体の流れを話した。
「ふむ……」
コウレンは少し考え込むような姿を見せると、シロナヘと視線を向けた。
「シロナ、だったか? 君は自分の意志でユウスケ殿に与しているのだな?」
「……くみ?」
「あぁすまん、自分の意志で仲間になったのだな?」
「ん。」
ギルドマスターに対して、一言の返事をするシロナ。流石に俺も失礼だと思いシロナへ注意しようとしたが、それより先にコウレンが笑い始めた。
「ガハハ! そうか、即答か。それなら心配事もなさそうだな。」
どうやら迷いなく即答したのが気に入ったようで。先程よりも柔らかい雰囲気になった。
「正直、その子がどの様な性格かによって、この都市への滞在も考えて貰おうかと思っていたところだが、問題なさそうだな。目も濁っとらん。真っ直ぐ綺麗な目だ。」
微笑むような表情になったコウレンを見て、俺とリーニャは漸く肩の力が抜ける。それを感じたのか、コウレンが笑った。
「それで、どちらを娶るつもりなのかね?」
「……え?」
「あぁ、そうだな。選ぶ必要などない。二人共を養う財力があればそれもよかろう。」
一瞬何を言われているのか分からなかったが、数秒の間を置いて、リーニャとシロナ、どちらを嫁に迎えるのかと聞かれていると分かった。それで財力があれば二人共と結婚してもいいと……
「いやいやいやいやいやいや、ちょーっとその話は早いというか、何というか……」
「うぬ? そうだな、そちらのシロナ殿はまだ齢十五にも満たないと見える。確かに時期尚早かもしれんな。」
いやいやそういう意味では無くですね。いや確かにリーニャとはもう長い付き合いになりますけども。でもまだお付き合いもしていないような状況でですね?
そんな風に慌てる俺を見て、リーニャはクスリと笑う。シロナは首を傾げるだけだ。あぁ恥ずかしい。俺はウブなんだ。
「ギルドマスター、不躾です。」
そんな俺を見かねたのか、エールさんが助け舟を出してくれた。心から愉快そうにしていたコウレンも、一度咳払いを挟んで「冗談だ。」と言った。助かった……
「いやいや、時間を取らせて悪かったな。君達もやることがあるだろうし、私にも仕事がある。今日はこの辺にしておこう。大変有意義な話だった。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
「先程の冗談のお詫びではないが、何かあれば私の名前でも出してくれたまえ。何もしないよりかは円滑に事が進むだろう。」
その言葉を最後に、俺達は執務室を後にした。
一階に降りると、冒険者からの視線を強く感じる。俺達が二階に上がっていったのを見ていた人達もいれば、後から来ていきなり二階からハーピィが降りてきてびっくりしてる人も居るって感じだ。
その中から一人、こちらに向かってくる冒険者が居た。
「おい、お前何やらかしたんだよ? エールさんに連行されるとか相当の事だぞ?」
俺達に近づいてきたのは、俺と同い歳か少し年上くらいの青年だった。青年の後ろでは、パーティの仲間らしき女性二人と男性一人が「うわぁ、あいつ行きやがったよ……」とでも言いたげな表情をしている。
とにかく、黙ってるわけにもいかないし、なんて言おうか……
「えぇと、特に何もやってないですよ。あの、アレですアレ。」
「私達の仲間になったハーピィのシロナちゃんについて、事情を聞かれただけよ。」
何を言うか迷っていた所、隣からリーニャの助け舟が出された。まぁ確かにハーピィが都市の中をうろついてたら何かを言われても仕方ない。
「仲間? もしかしてモンスターテイマーなのか?」
「うん、そうなんだよ。」
「……モンスターテイマーって、ハーピィもテイム出来るのか?」
やたらグイグイ質問してくるなこの人……大体こういうタイプの人は、はぐらかせばはぐらかす程しつこくなっていくタイプだ。早々に事情を説明してしまう方が早そうだ。
「いやぁ、俺だけ特別っていうか、そういうスキルを持ってるんだ。」
「特別……スキル……ユニークスキルか。外見の特徴と言い、ユニークスキルと言い、もしかして転生者……うおっ!」
青年が最後まで発言する前に、後ろで見守っていたパーティメンバーらしき女性の片方が青年の首根っこを掴んで引っ張った。
「あんたいつも人に絡みすぎなのよ! やめなさい!」
「ぐうっ、やめろ首が締まる!」
「いやーほんとすみませんウチのバカが。どうぞお気になさらず! 早く戻るわよディト!」
「っお、おい! まだ話が途中だって、やめろ引っ張るな!」
首根っこを掴まれたままの青年と、力づくで引っ張る女性という、騒がしい二人が俺の前から遠ざかっていく。あの二人は小声で話しているつもりなのだろうけど、その後の会話も丸聞こえだった。
「あのねぇ! ギルドマスターからの呼び出しを受ける冒険者なんて、めちゃくちゃ凄い冒険者かめちゃくちゃヤバイ冒険者の二択なのよ! もしヤバイ奴だったらどうするつもりなの!」
「うるせぇ! 話をしてみないとわかんねーだろ! 現にあいつと話したけど、絶対良い奴だぞ! アレは絶対ヤバイ冒険者じゃなくてめちゃくちゃ凄い冒険者なんだよ!」
「だからそうじゃなくて! 声を掛けること自体が問題って言ってるんでしょ! 火種を作るのをやめなさい!」
……騒がしい人達だな。失礼な! と言いたいところだが、あの女性の言っていることは大体合ってるしよく分かるので、今回はスルーすることにしよう。それにしてもあのディトと呼ばれていた青年はかなり良い奴だ。
なんて思っていたら、残りのパーティメンバーらしき女性一人と男性一人が、こちらにペコリと頭を下げた後、先に出た二人を追いかけて冒険者ギルドを出て行った。
リーニャと顔を見合わせて苦笑いする。どうやらこの都市でも色々と忙しくなりそうだ。
冒険者ギルドに寄ったついでに、ダンジョンについての情報を得ることにした。冒険者から情報を得るのはなかなか難しそうだったので、受付のお姉さんからだ。
まず、ダンジョンに入るために必要な物。保存食や回復薬もそうだけど、一日以上こもる場合は寝袋と簡易結界石――ヒロツグさんの使っていた物の量産型――を日数分。もし簡易結界石を買うお金がないなら交代で見張りを立てながら寝る。稀に毒を持つ魔物が入り込んでいる時もある為、解毒剤等も。
そんでパーティ構成だけど、前衛二人に後衛二人が基本形らしい。可能ならシーフとプリーストを。と言えど、殆どのプリーストはクアレオ修道院で修行中であり、個人のパーティに入ってダンジョンに潜るケースは少ないらしい。シーフの方は、戦闘力もあり、探知能力が高い為、魔物や罠を早期発見することが可能だ。
さて、ダンジョンの中の罠とは一体どういうものなのか。そもそもダンジョンは地中の空洞へ魔素溜まりができ、それが繋がったものだという。その道には、時たまに爆弾のように魔素が溜まっている場所が幾つかある。空洞ができる際に周囲に逃げ切れなかった魔素が、一箇所に集まって圧縮されたものだ。それに間違えて刺激を与えようものなら、魔素が爆発四散し、周辺に居る人や魔物に大打撃を与える。
それを逃れる術を、シーフは会得している。魔素を上手く周囲に散らす手順を知っているのだ。これは魔力の操作に長けて、尚且つ探知能力に長けたシーフにだけ出来ることだ。魔力の操作が上手いウィザードが居たとして、操作は可能でも細かい所まで魔素を探知できないので、魔素を手順通りに逃がすことが出来ないのだ。
まぁ、魔素溜まりがあるのは地中の深い所が大半だし、浅い所で経験を積む分ならシーフは居なくても問題ない。
後は、ダンジョンによって、集まる魔物が偏るって所か。人間には分からないが、ダンジョン別の魔素の質? によって好みがあるらしく、その魔素を好む魔物がダンジョンに集まるらしい。
向かうダンジョンは、依頼を受ければ受付嬢に場所を指定してもらえるし、依頼を受けない場合でも、特徴を言えば何処に向かえばいいか教えてくれる。だから向かうダンジョンについては、また明日だ。
と、ダンジョンについてはこれだけの情報が集まった。今現在の戦力と所持品で充分そうだ。前衛にはいつも通り俺とレイ、後衛兼遊撃としてシロナと、後衛にリーニャ。所持品関係もレイに格納してもらえばそうそう持てなくなることもないだろう。
今日はもう宿に戻って休憩することにした。情報収集は済ませてしまったし、明日からダンジョンに潜るかな。
そう思いながら、宿への帰路についた。
~ グリル 冒険者ギルド執務室 三人称視点 ~
ユウスケ達が部屋を出た後、エールはため息を付いた。
「あまり危ない橋を渡るのは止めて頂けませんか、ギルドマスター。」
そう言われたギルドマスター、コウレンの瞳には、先程の会話の余韻が残っているようだった。
「……レイフ殿は頭が良い、頭が良いからこそ、冷徹だ。」
しばしの沈黙の後、コウレンはレイフの顔を思い起こしながら話す。レイフの事を嫌っている訳ではなく、ただ単純に分析した結果を口にしていた。
「故に、あのような通信を送ってくるのだ。彼の判断は上に立つものとして間違ってはおらん。寧ろ私なんかよりよっぽど正しいだろう。」
レイフからの通信内容は、ユウスケという人物の危険性について、その対応についての希望。
「だがな、それは私には出来ん事だ。私が出来るのは、本人を見て、本人の持つ意思、本心を直接確認することだけだ。いつも最悪の自体など想定出来ん。」
「それで、あのような事を?」
コウレンの言葉に、エールが質問を返す。その質問を聞き、コウレンは「あのような事」についてしばし考えた後、一つ思い当たったことを確認する。
「あのような事、とは、恋沙汰の話か?」
「そうです。あのような不自然なタイミングであの話は、明らかに不審でしょう。」
「いや、私のような人間が話すなら別に不自然でもなかろう。興味を持っているという前置きの通り、元々興味のあることを聞いただけなのだからな。」
顔をしかめるエールを尻目に、コウレンはその時のユウスケを思い出していた。
「私は、彼は危険人物ではないと思うぞ。あの話をした時も、本気で照れておったであろう。人間と人型との壁なぞ、彼らにはない。」
「……本当にそうだと良いのですが。」
エールは一礼し、執務室を後にした。閉じた扉の奥からは、書類を整理する音が聞こえ始めた。
ついにブクマ100件超えました!ありがとうございます!
文章の書き方や改行など、章を跨いで改善していっておりますが、未だ読みづらい文章の癖など有りましたらご指摘ください。




