幕間 ブラック会社じゃないので
ちょっと短めです。日常の一コマ。
~ アステニア ユウスケ視点 ~
ウグバゴの狩りから数日、俺達は休暇を取ることにした。
大きなプロジェクトを完遂した後は、盛大に祝い、しっかり休むのが社員の勤めというやつだ。
それは勿論俺達『救命の志』も取り入れている。どこぞのブラック会社と違い、休日出勤やサービス残業などは無しの方向で働くのだ。
充実した毎日を送るためには、仕事とプライベートをしっかり使い分ける必要がある。
シロナの大食いで稼いだ金貨一枚と、シロナが仲間になってフォーメーションの確認や体調確認などで適当に受けた依頼や、ウグバゴの依頼などで手元もそれなりに潤ってきている。
最近は詰め込むように依頼をこなしていたこともあり、体を休める意味でも気持ちを休める意味でも、ゴールデンウィーク的な休暇を5日程過ごそうではないか。
と、言うことでシロナとリーニャに5日程の休暇を設けるという話をしたところ、二人も快くオーケーしてくれた。社畜精神が旺盛でなくて良かったと心から思った瞬間である。
それで、休暇1日目。朝起きて、俺は重大な事に気付いてしまった。
「娯楽、少なすぎるだろ……」
テレビもねぇ、ラジオもねぇ、車もそれ程走ってねぇとはよく言ったものだ。
それ程どころか車は全く走ってねぇのだが、そんなことは置いといて、こっちの世界に来て多少浮かれたり、多少思い詰めたり、多少死にかけたりしてパンパンな生活をしていた俺は、漸く一息ついた今になってそんなことに気付いたわけである。
何が一番きついかというと、前の世界で俺が毎日のようにかじりついていた、あの偉大なパソコンさんが無い。
思えば、ザ・インドアな俺が今までずっとアウトドアな依頼をこなしてきていたのは奇跡に近いようなもので、本来なら学校のない毎日など家にこもってパソコンさんを寝るまで愛でるか、それとも寝るかしかしない筈なのである。
……
「寝るか。」
「今起きたばかりでしょ。」
呟いた俺の隣から聞こえてきたのは、呆れたような視線を俺に向けているリーニャの声だった。
リーニャは休暇だと言うのに、いつも通りの時間に起きている。もう何かする気満々な雰囲気を醸し出していた。
いつも通りセミロング程の髪を後ろで束ねた、所謂ポニーテールの髪を揺らしながら、どうやらリーニャは外出の準備をしているようだ。
「どこか行くの? 休日なのに。」
「休日だからこそ、行きたい所だってあるじゃない。」
休日と聞けば家でゴロゴロしていたい俺とは違って、リーニャはえらくアクティブらしい。
しかし、リーニャが外出するなら俺も出ないわけにはいかないし、でも動くのは面倒くさいみたいなせめぎあいが俺の中で生まれていると、リーニャから部屋に居たければ居ても良いとのお言葉が出てきた。
どうやら、Cランクパーティの『不屈の魂』メンバーとかなり仲良くなっているらしく、その中の二人、ロロップとヒューマが付いてきてくれるとか。付いてきてくれるというか、一緒に行く約束をしていたとか。
いつの間にそんな約束を……
まぁ、でもあの二人が居てくれるなら、変な輩に絡まれることもそうそう無いだろうし、俺はのんびりしてるか。
「じゃ、シロナちゃん、行くわよ。」
「ん。」
はーい、いってら……
「え? シロナも行くの?」
「そうよ、寧ろそれがメインだもの。」
そうか、まぁ、たまにはそういうコミュニケーションも必要か。てかシロナも最近普通にここの生活に馴染んできてるし、そんなに心配することもないか。
食べ歩きみたいになるかもしれないし、多めにお金を持っていってもらっとこう。
「じゃ、行ってくるわね。」
「うん、行ってらっしゃい。」
そうして二人を見送った俺は、部屋でベッドに転がって天井を見上げる。
さーて、何しようかな。リーニャと会話をしたことで、眠気はさっぱり無くなってしまった。まぁ別にパソコンでも……いや、パソコンは無いんだって、テレビも無いし、携帯もゲームも、ラノベも……
「やっぱ俺もいく!!」
家でゴロゴロすると言っても、結局やることが何かしら無いと暇をつぶせないことに気付いた俺は、リーニャとシロナの後を追いかけていった。
~
「うーん、確かにそうだ。」
今日の外出の目的をリーニャから聞いた俺は、納得した。
今日は、買い物だ。それも装備とか回復薬とかじゃなくて、プライベートの衣服等。
シロナの事は、同じ女の子だということでリーニャに任せっきりにしていた俺は、今リーニャに言われるまで全く気にしていなかったのだが、シロナが今着ている服は元々リーニャの持っていた私服を切ったりなんたりして着れるようにしたものだ。
シロナが俺の所へ来た時に着ていた、ハーピィの集落で作られたらしき服はもうボロボロになっていたので捨てたらしく、単純に下着、私服、寝間着などを揃えたいとの話だった。
それに俺も買えと言われた。まぁ、確かにこの世界に降りてきた直後に着ていた私服と、エマの町で買った2着の私服、合計3着しか持っていない。寝間着に関しては持っていないので、私服用に買った1着を寝間着として使っている様な感じだった。よく見ていらっしゃる。
「ユウスケって、依頼に対しては物凄く抜けのない準備をするくせに、そういう生活的な所が結構適当よね。」
「おっしゃる通りで……」
私生活の部分に目もくれず、ただ依頼について毎日考えているなんて、俺はもしかしたら社畜のセンスがあるのかもしれないな。
そんな会話を交わしていると、どうやら目的地へとついたらしい。店の前には、ロロップとヒューマが待っていた。
「やぁ、皆さん。今日もお揃いですか。」
やたら元気なロロップが、俺達を見つけた途端に挨拶する。
ヒューマも、俺達に微笑みかけてきた。
今日は二人もお休みのようで、ロロップは動きやすそうな布地のワンピースのような服に、カーディガンのような軽い服を羽織っていた。本人曰く21歳だそうだが、背も低いしこうやって見ると俺と同い年かそれより下の歳に見える。
ヒューマも動きやすそうな半袖短パンのような服装で、ジャケットを羽織っているようなラフな格好をしていた。
まぁ、なんだ。デザインはやはり遠いとは言え、かなり前の世界に近い様な服が作られているらしい。
厳密に言えば素材は違うんだろうけど、それでも人間の着る服の行き着く先はこういう服なのかもしれないな。
「さて、それではシロナちゃんの服を買いに行きましょう。」
意気揚々とシロナを連れて服屋へ入っていくロロップに、皆笑みを零しながらついていった。
さて、服屋に入ったは良いが、俺がロロップやシロナについていく訳にはいかない。そりゃもう当たり前だが女性用と男性用のコーナーがしっかり分かれている為だ。一枚の壁に分けられた二つの部屋が、それぞれそう割り振られていた。
俺とヒューマは、男性用の衣服コーナーに向かい、ヒューマに適当に私服2着程と寝間着を選んでもらう。
「僕に任せるって言ったって、僕もそれ程おしゃれなわけじゃないんだけど。」
「いやいや、ここは年上の力でよろしくお願いします。」
なんとかゴリ推して選んでもらうことに成功した。選んでもらった理由だが、決して俺が選ぶのが面倒くさいだとか、前の世界では母親に適当に買ってもらってたからとか、俺のセンスが皆無だからだとかそういう話ではない。ないったらない。
ヒューマが選んだのは、ヒューマが今日着ている様な半袖短パンにジャケットのセットと、長袖長ズボンにこれまたジャケットのセット。ヒューマ曰く、ジャケットを羽織っておけば取り敢えずどうにかなるらしい。当たり障りのない服装ということだろうか。
そして寝間着にはスウェットのような素材の上下1セット。俺の知っているスウェットより伸縮性が低いが、まぁ全く同じ素材じゃないだろうし、そもそもスウェットなのかどうかも分からないのだから仕方ないだろう。ただ寝るだけの服だし、俺はそんなに気にならない。
この世界に来た直後は、魔物の皮をそのまま巻いたような服じゃなければと思っていたので、そこから考えるとかなり良い。
後は下着を適当に購入。これは流石にヒューマに選んでくれとは言えなかったので、ぱぱっと目に入ったものを手に取った。
ついでに帽子も一つ買っておいた。日差しが強い日はこれを来て歩こうかな。まぁ討伐依頼をする時は帽子なんて被らないだろうけど。
服が詰め込まれた袋を右手に下げ、男性用の衣服コーナーを出た俺とヒューマは、ロロップ達が居ない事に気付く。
「あぁ……まだみたいだね。ロロップは特に服には拘るから、長いんだ。」
「若干予想してました。」
どこの世界も、女性の買い物は長いみたいだ。二人で向かいにあった屋台に売っていた、甘いジュースを適当に買って、飲みながら待つ。
……
ジュースが無くなる頃、女性三人組が買い物を終えて出てきた。リーニャの手には大きな袋が二つ。やたら買い込んだらしい。ロロップも似たような感じになっていた。そしてシロナだけど……
黒のチューブトップ、一枚。
「いや、あのねユウスケ。ハーピィが着れる服って言ったら袖なしに限られちゃって、その中でも一番着やすいのがこれだったのよ。うん。」
リーニャが目を泳がせながら俺にそう伝える。俺は別に怒ってるわけでも呆れてるわけでもないのだけども、リーニャ的にはこの結果は不本意らしく、そんな感じになっていた。
シロナは別にチューブトップ一枚に不満があるわけではないらしく、寧ろ新しい服ということで喜んでいるようにみえるんだけど、それでもダメなんだろうか。
そんなリーニャにロロップが声をかける。
「仕方ないですよリーニャさん……ハーピィのお客さんなんて初めてでしょうし、店員さんも随分困ってました。しかし! これでは終わりません! 私が必ずシロナちゃんに服を作ってみせます。その為に店員さんに無理を言って材料を調達しました。」
そう言って両手に持った袋を俺達に見せる。そこにはどうやら素材となる布地が沢山入っているらしい。
「今から! 獅子の宿へとお邪魔させて貰います! リーニャさんと私とヒューマで、必ずシロナちゃんに似合う服を作ると約束しましょう!」
「えっ、僕も? ちょっとまって?」
急に巻き込まれたヒューマが困惑の声を上げるのを無視して、リーニャとシロナとロロップは獅子の宿へと向かっていった。
「……長い休暇になりそうですね。」
「僕にとっては、仕事みたいな感じだけど……」
若干テンションの下がったヒューマを連れて、俺も獅子の宿へと向かった。
後日、急ピッチで進められたシロナの服作りは4日程でゴールを迎え、満足した顔のロロップと、やつれたようなヒューマは獅子の宿を後にした。
頑張れヒューマ。




